Ⅺ 女王の昔話 7. 王さまと半獣の血を引く王女 6
プロミーとラベルは静かに森を渡っていた。その先には、長い旅の最終目的地が待っていた。
森の道は夏の午後には珍しく、うっすらと霧がかっていた。淡い霧は先へ行けば行くほどに、深く濃くなっていった。
「ここら辺のはずなのですが……」
プロミーの前をゆっくり先に進んでいたラベルは、森を抜けたとき、そこに現れた風景に素早く馬の足を止めさせた。
そこにあるはずの、白のポーンたちの待ち合わせの草原はなかった。
そこには、白い霧におおわれた静かな湖が広がっていた。厚い霧の向こうには、黒っぽい城の影が見え隠れしていた。
辺りは時が止まったように、ひっそりしていた。鳥の鳴き声も、獣の気配もしなかった。
「……ここは、どこでしょう」
プロミーは立ち止まると、落ち着いて湖を見渡した。その声は、凛としていた。ラベルは首を横に振った。
小船が一艘、霧の彼方からたゆたいながら岸辺に流れついた。無人の小船は、二人を誘うように、水草の茂みの中で、ゆらゆらと足を止めていた。
後ろで草が風に揺れるような音がした。それは、空間が揺れた音だった。振り向くと、プロミーとラベルの前に、樫の木の杖を手にした緑衣の人が現れた。
リアはプロミーに敬意のこもった礼をした。
「リン・アーデンの名代でお迎えにあがりました。青年王アーサ様」