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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅺ 女王の昔話
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Ⅺ 女王の昔話 7. 王さまと半獣の血を引く王女 4

 ある町で顔を合わせた時、エーデルの国の話になった。


「私の国には、古の青年王が使った円卓が保存されているのですよ」


「魔術師リン・アーデンが創った百五十一席ある石の大きなテーブルですよね」


 スターチス王は穏やかに答えた。が、興味を持ったようで目が輝いていた。エーデルはにこやかに話を続けた。


「青年王の国が瓦解してしまった時、青年王の王妃様が国に持ち帰って、私の国にお与えなさったということです。大事に保管して欲しいと」


「今でも円卓があるとは初耳ですね」


「宜しかったら、ご一緒に見に行きませんか?」


 エーデルは自分の故郷の国にスターチス王を誘った。スターチス王はエーデルの提案を受け入れた。


「ぜひ、ご一緒します」


「私の国では私の姉が王として国を治めています。私は王城のそばに館を持っていて、そこで暮らしています。小さな国ですから、あまり肩肘張らずにお越し下さい」


 エーデルの気遣いに、スターチス王はにこりと微笑み余裕を見せた。


「ええ、分かりました」


 エーデルワイス王の国へは、エーデルとスターチス王はそれぞれ自分の愛馬の白いペガサスに乗り空から訪れた。山の上には町があった。小さな石造りの教会があり、噴水広場の代わりに泉が湧き出ていた。町は石畳ではなく、草の短い草原だった。雪がうっすら積もっていた。そのもう少し上には古城が見えた。エーデルはスターチス王を案内し、山の頂へ上っていった。


 山の頂では古城があり、その近くに屋敷があった。エーデルが屋敷に着くと、馬丁にペガサスを預け、スターチス王を招待した。エーデルは夕食の時スターチス王に郷土料理をふるまい、デザートにチーズを差し出した。


「明日は王城へ行き、円卓をお見せします。少しばかり姉に挨拶しますが、あまり難しく考えないで下さいね」


 エーデルがプルーンの果実酒を持って、スターチス王の客室に入って行った。


「ええ、分かりました、エーデル様」


「そろそろ様付けは不要でしょう?」


 エーデルは提案するように言った。


「エーデルで結構です」


 スターチス王は肯った。


「そうですか。ではそうさせて頂きます」


「それでも私はスターチス王には“王”をお付けしますけどね」


 エーデルは悪戯をしたような顔で言った。


「エーデルにお任せします」


 スターチス王も笑った。


「では、エーデル。私はあなたの心に期待してもいいのですか?」


 スターチス王はいつものように穏やかに尋ねた。エーデルは温かく答えた。


「まぁ、何を? と聞いたら察しが悪いのでしょう。でもこの質問も愚かな問いですよ」


「では、次は私の国に来ていただけますか?」


 スターチス王は真剣な顔で尋ねた。エーデルは肯った。


「ええ、今度は私がお邪魔しましょう」


 翌日エーデルは王城の王の間へスターチス王を誘った。王の間では銀の髪の王が待っていた。


「待っておりました。スターチス王」


 エーデルワイス王は客人を明るく迎えた。スターチス王は丁寧に礼をし、明るく答えた。


「こたびはお招き頂きありがとうございます」


「妹は掴もうとすると逃げてしまって困るでしょう?」


 王はくすりと笑った。笑い顔も気品があった。エーデルは姉王の軽口を嗜めた。


「スターチス王は寄り添ってくれる方ですよ」


「そのようですね」


 にこりと笑うと王はスターチス王を見た。


「エーデルワイスの王家の者は半獣の血を引き寿命が長い為、結婚には疎いのです。結婚しない者も多く、結婚する相手も同じ寿命の長い者だと幼い頃から漠然と思っている者が多いのです。文化が違い、戸惑ったのではないでしょうか」


 スターチス王は答えた。


「ご心配はいりませんよ、女王陛下。エーデルは私を認めてくれていますよ。それに私はエーデルが安心してくれるまでずっと待ちます」


「それは僥倖。ゆっくり城の中の円卓を見物していって下さいね」


 その後エーデルはスターチス王を城の中に案内し、円卓を見せた。聖堂の中に大きな石のテーブルと百五十一席の椅子が置かれていた。古いものの匂いがした。


「この椅子の背には、座る者の名前が表示されているはず――」


 スターチス王は一回りし、アーサの名前を見つけた。


「座ってみてもいいですか?」


「ええ、古い石ですので気を付けて下さいね」


 スターチス王は青年王の席に座った。椅子の背に刻まれた名前が『アーサ・クエスト・スターチス』に変わった。


「まぁ、この椅子の魔術はまだ効いているのですね」


 エーデルが始めて知って驚いた。スターチス王はそっと席を離れた。


「魔術師リン・アーデンの魔力は、まだ残っているのですね」


 スターチス王はエーデルに聞いた。


「リン・アーデンは生きていると思いますか、エーデル?」


 エーデルは質問に曖昧に答えた。


「どうでしょう」


 スターチス王は謎めいた答えを返した。


「私の国では百年おきのチェスに参加するたびにポーンになって戦う旅人がいます。その旅人は答えを知っています。エーデルがもしスターチス王家のクイーンになった時、その旅人から話を聞けば教えてくれますよ」


「その方は、異種族の方なのですか?」


「いいえ、異界の者です」


「まぁ、ここでは教えて下さらないの?」


「これは白の国の小さな秘密です。その方が城に訪れた時、ご紹介しましょう」


 不思議な秘密の話はそれで終わった。


「貴重なものを見せてくれてありがとう、エーデル」


 スターチス王は満足そうににこりと笑うとエーデルに礼を言った。


「どういたいたしまして」


 それから二人は少し歩いて、城の中庭にある噴水の縁に座って休んだ。よく晴れていた。


「これはクラムディア産のキルシュのチョコレートです」


 スターチス王はポケットからオレンジ色の紙の小袋を取り出した。小袋の中身を開けると、ころころしたトリフが入っていた。


「一緒に頂きませんか」


 スターチス王はエーデルににっこりと笑い勧めた。エーデルも微笑んだ。


「ええ、頂きましょう」


 エーデルは一つ口に入れた。チョコは口の中で溶け、アルコールが胃を温めた。心地良い酔いが迎えに来た。その酔いは、古い魔法を教えるように味わい深かった。


「美味しいですね」


「小さい頃、魔法を教わる時はこっそりこのチョコレートの力を借りたものでした。これは魔力を高める力があるので、スターチス王家の子ども達は、このチョコレートを懐にしまっているのです」


「そうですか。子どもの頃の秘密アイテムですね」


「ええ。魔法の先生は大目に見てくれました」


 スターチス王も一口食べた。


「このチョコレートは絆を長く続けたい人に贈る物だとは、もう少し年を重ねてから知りました」


 エーデルは心地よい酔いの中で静かに聞いていた。


「いつか大切な人ができたら、一緒に食べたいと思っていました」


 温かな言葉だった。エーデルは好意を受け取った。


「もう一つ頂きてもいいかしら?」


 スターチス王は微笑んだ。


「どうぞ」

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