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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅺ 女王の昔話
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Ⅺ 女王の昔話 5. 霧の僧侶 1

 ブラックベリはヌクエラで生まれた。ヌクエラはベリの者が集まった小さな町であった。ベリの名を持つ名字の者は西大陸に散在する。ハックルベリー、グスベリー、ブルーベリー、マルベリー、ラズベリー、ワイルドベリーなど多く挙がる。西海岸のストロベリーフィールド女王の国などでは、女王がベリの歴史を持つ国である。


 西大陸では僧侶になる者は、騎士の家に生まれたが家を継げぬ者、裕福な家庭の子どもなどであり、たまに孤児が教会に預けられ僧侶になることもあった。


 騎士の家を継ぐのは長男や長女であり、次男次女以降の者は騎士として暮らしたければ、大国の王の元に仕えるか、馬上試合で身代金を取って稼ぐか、クエストに参加するなどして食い扶持を作らなければならなかった。その為、騎士の家を継げない子どもは僧侶の学校へ入り、僧侶の道を進む者が多かった。


 僧侶になるためには、七才で学問や伝書鳩の扱いを覚える僧侶のための学校へ入る。そして十二才くらいまでに教会や王城などで下働きをする。


 ブラックベリの場合、ヌクエラは僧侶を排出する町だった。有能な者を僧侶として王城や大都市や教会組織へ送り、ベリの者の間でコネクションを作る。


 ブラックベリは七才で僧侶の学校へ入るまで、教会で魔術を学んだ。ヌクエラの教会ではベリの子どもたちに魔術を教える。ベリの者は魔力が高いので、魔術を覚えるのも早い。ブラックベリもそうだった。物心がついた四才くらいから、大人の魔術師でも修得が困難な瞬間移動を覚えた。それはどの子どもよりも頭一つ抜きんでていた。それを喜んだヌクエラの僧侶は、ブラックベリを僧侶の学校へ送った時も袖の下を使い、かの者を優遇させた。


 十二才になり、ブラックベリはデンファーレ王の国の王城に勤めることになった。普通学校から出たばかりの子どもは、その先の教会で下働きをするのだが、ブラックベリは免除された。その代わり、他の僧侶見習いがしない仕事を任された。ブラックベリの仕事は王都周辺の教会に連絡を取り、お金を渡してこの国に味方するように懐柔する役目だった。ブラックベリは夜の間に僧侶の起居する僧正館へ空間を渡り訪れ、静かに賄賂を渡した。


 その仕事をしているうちに、ブラックベリは僧侶が研究しているものの中で、金のなる木になりそうな内容を知ると、王城の大僧正の耳元でささやくようにした。最初は教会で作っている薬草酒が良く効くという噂を耳にしたことから始まった。その薬草酒は町の人に無料で施していた。これをブラックベリは上司の大僧正に告げた。大僧正は王城の上の者に相談し、その薬草酒を安く買い取り、王都や大きな町で高く売ることにした。協力した町の僧侶にはそれ相応の分け前を与え、レシピを誰にも伝えないように口止めをした。それは表沙汰にはされない密約で、関係者だけが潤うよう計算されていた。ブラックベリの立ち回りはこれに限らず後にも続いた。


 そのうちに大僧正から王の側近の王付き僧侶を紹介された。それからはブラックベリは直接この側近に会えるようになった。それは王へのとりなしをするツテになったということだった。どこから聞きつけたか、ブラックベリには王へ近寄りたい者が集まるようになった。ブラックベリは賄賂を取り、集まったお金をヌクエラへ返した。


 ある時ブラックベリは王の間へ喚ばれた。それはブラックベリを王付き僧侶に昇格するという意味だった。十四才のことだった。


「今日から王のお側でお仕えさせて頂きます、王付き僧侶のブラックベリと申します。どうぞ、よしなに」


「ブラックベリよ、魔術が使えるとは本当か?」


「はい、王よ。私は少々魔術を嗜んでおります」


 ブラックベリは王の眼が光った、と思った。しかしそれを顔に出さずに答えた。


 デンファーレ王は口元に微かに笑みを浮かべた。


「それは良い。私には隠れた右腕がいると良いと思っていた。頼りにするだろう」


 王は眼が鋭かった。


 それからブラックベリは、王の伝令係になった。それも公にしたくない話の時だった。ブラックベリは霧のように相手の元に現れ、耳元にささやくように王の言葉を伝えた。この王は、密約を多く抱えていた。たいていの場合、ブラックベリは金銭を持って、相手に渡していた。


 夏の日、デンファーレ王はブラックベリに尋ねた。


「今年のチェスはどちらが勝つだろうか、ブラックベリよ?」


 ブラックベリは目を伏せたまま、静かに答えた。


「私が思いますに、どちらも小国なので、町での応援の声が勝敗を分けるでしょう」


「それで今の所、どちらが優勢だ?」


「伝書鳩で聞く所によれば、白が若干優勢でしょうか。賭けでもそちらの方が多いようです」


「そうか!」


 デンファーレ王はふっと笑った。


「では、私は赤に賭けよう。この意味は分かるであろう、ブラックベリ?」


 ブラックベリは顔色変えずに答えた。


「それでは私の情報網を使いましょう。町の人々が赤側の味方をするよう誘導し、赤が優勢になるようにしましょう」


「賭けで勝てば、ニストにも寄付をしよう」


「ありがとうございます」


 ブラックベリは言った。口元に小さく笑みを浮かべていた。王とは気が合う、と思った


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