Ⅺ 女王の昔話 3. 足止め 3
「ガーラは何を売ってるの?」
フローは駒を動かしながら尋ねた。ガーラはその隙のない攻撃を防御しながら答えた。
「私はよろず屋よ。冒険者向けには、鉱物辛子や栄養ドリンクなんかの旅のアイテムや、旅用の什器やランタン、他に武器にかければ魔法攻撃を無効化できる水もあるわ。旅用の杖も樫やニワトコや楓など種類があるわよ。
町の人用に、コーヒーやココアなんかの南大陸から直接輸入した嗜好品もあるわ。薬草類もちゃんとあるわよ。
他にも中央大陸の本を少し取り置きしているわ。中央大陸の魔法本も売り物じゃないけどあるわよ。
あ、魔法石ももちろんあるし、ドワーフが作った鎖帷子や短剣も持っているわ。プレゼント用にエルフの銀細工のアクセサリーも種類が豊富よ。
魔法アイテム職人向けには、魔法アイテムの炎の鳥の羽や氷の花の花びらなんかも揃っているわよ。勿論、竜の鱗も欲しければあるわ」
「それなら、ウィンデラの旅道具屋を見たら、大量に便利商品を仕入れたくなるだろうね」
「このリュックは全大陸の砂漠の砂が全部入る容量だから、いくらでも商品をストックできるわ」
「ガーラもクエストに参加できたら面白かったのにね」
「そうね。私でも役に立てたかしら」
「たぶんね」
フローはひょいと駒を動かした。
「中央大陸の魔法本を持ってるって言ってたけど、中央大陸の言葉で書かれてるってこと?」
「いいえ、魔法本って読む人に合わせて言葉が変わるのよ。フローでも魔法本は読めるわ」
「へぇ」
フローの攻めは続いた。ガーラは攻撃をかわした。
「そのリュックが盗まれたら大変だろね」
「大蛇のディアドラがいるし、このリュックは持ち主から離されたら自動的に持ち主の元に戻るように魔術が施されているの」
「その魔術を解除するシーフがいたら、どうするの?」
「そうねぇ、あなたならできるのかも知れないわね。でも簡単じゃないし、リュックの大元の魔術を弄ろうとすれば、すぐに元の持ち主の元に戻るわ。逃げ足は速いわよ」
フローはふっと笑い、話を変えた。
「中央大陸でも魔法と魔術は分かれているの?」
「ええ、異空間を扱うのが魔術であることは変わらないわ」
「じゃ、西大陸みたいに不思議な町がたくさんあるの?」
「三つ頸の翼竜みたいな空間を持って移動するモンスターはいないけど、迷路のような造りの町や、砂漠の中の砂の滝など挙げればきりがないほどの不思議な町があるわ」
「楽しそうだね」
「ええ」
フローはコーヒーを飲んだ。
「お付きの蛇って付き合いが長いの?」
「ディアドラは私が幼い頃から一緒にいる相棒よ。私は王宮の生まれなんだけど、ボディーガードとして人の姿に変われる大蛇を付けてもらったの。半獣っていうのかしら?」
「へぇ、じゃ、ガーラってお姫さまなの?」
「跡を継ぐわけではないから、ただの商人よ」
「そーなんだー」
「私の話ばかりだし、そろそろあなたの話も聞かせてくれる?」
ガーラはポンと駒を置いた。フローは笑った。
「そだねー。クオの話でもする?」
「いいわ。面白そうね」
お喋りは続き、夕方になった。
「今日はこれくらいでお開きかしら?」
ガーラが駒を片付けながら言った。
「また明日も宜しく!」
コーヒーのカップを大蛇に戻し、フローが言った。
「今日は楽しかったわ。明日は勝てるかしらね」
「デンファーレ王なら『勝ちは譲る気はない』って言うんだろねー」
周りで笑いが起こった。
「いいの? 赤の者が王さまの口真似なんかして?」
ガーラが同じく口元に笑みを浮かべながらフローに聞いた。
「オレ、王城に戻らないし、いいかなと思ってさ」
フローは軽く答えた。
「明日の新聞に書かれるかも知れないわね」
「それも一興だね!」
フローは気にしないというふうに言った。
「じゃ、また明日!」
フローが宿を探しに行き、その姿をガーラは見送った。