Ⅺ 女王の昔話 1. 再会 2
「スターチス王様とはどのような方なのですか?」
プロミーはラベルに尋ねた。森の中だった。
「ロッド様からもお話を伺っていたのですが、ロッド様は旅の期間の方が長いので、王城でお仕えしているラベルさんにお話を伺いたいと思いました。本当のことを言うと、ロッド様と旅をしていた時は、ロッド様のことで頭が一杯で、きちんと聞けませんでした」
プロミーはラベルに問うた。ラベルは答えた。
「プロミーさんは王によく似ていると思いますよ」
「本当ですか?」
プロミーは戸惑ったような顔をした。その理由をプロミーは話した。
「ロッド様は私に対して、王様と接する時の遠慮を感じていると思う時がありました。私はそういう時、もどかしく思いました」
ラベルはプロミーの言いたいことを悟って、苦笑いした。
「プロミーさんの真面目な所がスターチス王に似ているのですよ。ロッドもさぞや困ったことでしょうね」
「それはロッド様が『私』を見て下さっていた、ということですか?」
プロミーはラベルの眼を見つめた。ラベルは優しく答えた。
「あなたを大切にしていたことは変わらないと思いますよ。でもロッドはプロミーさんのご存じの通り、常人から見たら突拍子もないことを決める複雑な感性の持ち主なので、ロッドの心を測るのは私でも難しいです」
「そうですか……」
ラベルが励ますように温かな言葉を付け足した。
「でもあなたのお気持ちが伝わっていたことは分かりますよ」
「私にはロッド様のお気持ちは分かりませんでした」
「なかなか頑固ですからね、ロッドは」
「そうなのですか? いつも優しくして頂いていたので、よく分かりませんでした」
風が吹いた。小鹿が楽しそうに話を聞いているようだった。
プロミーは少し遠慮がちに言った。
「こういう話を恋バナと言うのですよね? メルローズ卿の従者のガーネットさんが言っていました。私は友達を持ったのがガーネットさんだけなので分からないのですが、こういう話は大丈夫ですか?」
ラベルは笑った。
「ええ、いいですよ。ロッドやスターチス王の話なら私にもできますので」
「私はスターチス王様のことが分からないのでお聞きしますが、魔法は得意なのですか? もし魔法が得意なら、チェスが終わった後、私をロッド様に会わせて下さらないかと思います」
ラベルは励ますように言った。
「王は身を守るための魔法は小さい時にお学びになっています。だから魔力もある方です。プロミーさんのことは、きっと悪いようにはしないと私は思いますよ。スターチス王は人の気持ちに寄り添うことが得意な方ですから」
「そうですか。もっとお話を聞かせて頂けますか?」
「はい、分かりました」
ラベルはにっこりと微笑んだ。
「私が騎士に叙任されて王城にお仕えするようになったのは三年前の十八才の時です。ロッドは二十一才の今年騎士になりましたが、それは放浪する方が性に合っていて、遅くなったのです。ロッドは騎士になる前の十代半ばから馬上試合に参加していて、負けることのない戦いぶりでした。馬上試合ではまだ騎士に叙任されない十八才以下の少年少女でも強ければ参加できます。ロッドはこの頃から白い盾で馬上試合に臨んでいたので、“白い盾の少年”と呼ばれていました。その雄姿はスターチス王もよく観戦していました。
僧侶のマーブルとロッドと私は年頃も近くて、王城では気の合う話仲間です。マーブルは十二才の時から王城の教会で働いています。子どもの頃のロッドと私がインガルス卿に連れられて王城へ泊まりに来た時には、子ども同士で夜にお喋りをしていました。幼心に同じ王の元に仕える仲間意識がありました。
スターチス王は穏やかな性格で、領土や同盟都市を無理に殖やそうとすることはなく、先祖から守られてきた町との絆を大切にされる方です。デンファーレ王の国は昔から隣国として馴染みが深いので、良きライバルといった所です。武器を持って戦うなどはしないです。それは隣国同士で戦っても、この大中小と数多の国がある西大陸では漁夫の利を取られてしまうだけだからです。それはデンファーレ王の国でも同じで、暗黙の了解です。
現在スターチス王は三十二才で、デンファーレ王が三十三才です。西大陸では十代から王になるのは普通です。老王も六十才にもなれば、皆王位を譲ります。
スターチス王はロッドのことをとても大切に思っていて、騎士への叙任も急かさなかったのです。こんなことがありました――」
ラベルは昔の話をした。