Ⅹ-ii 本を隠すなら図書館の中 (8月26日~8月27日) 1. 『Through The Looking-Glass and What Alice Found There』2
今日もえんじと豊とくりは地下の書庫で本を探していた。八月二十七日のことだった。探索はくりが休みの土日に朝から晩まで一日中行った。今日はくりを交えてから七回目の探索だった。書庫の本はもう少しで全部探し終える所だった。
「やっぱりここにもないのかな」
えんじは小さく呟いた。くりがその言葉を拾った。
「大丈夫ですよ。もし見つからかったら、代わりに見つけてくれる人がいますので、安心して下さい」
「それはどういうことさね、くりさん?」
えんじはくりの方を見て尋ねた。
「それはですね、……」
「あったよ!! 鏡の国のアリス! 『Through The Looking-Glass and What Alice Found There』……えんじ、見て」
突然の豊の歓声にえんじとくりは声の主の元に集まった。豊が手にしていたのは、小さな薄い文庫本と大きな赤表紙の本だった。小さな文庫本の表紙には鏡の国のアリスの原題『Through The Looking-Glass and What Alice Found There』と書かれていた。
豊は本を見つけた経過を二人に説明した。
「本を探している途中、何かが挟まっている感じの大きな赤い本を見つけたんだ。おかしいなと思って中を開いたら、この文庫本が挟まっていたの。それで、この赤い本なんだけど……」
豊は赤い本を適当に開いた。本を広げた途端、その中の文字が白く発光していた。えんじはその文字を読んでみようとした。だが、日本語でも英語でもなく知らない文字だった。豊は一度本を閉じ、表紙や背表紙を観察した。しかし、そこに書かれた文字は、やはり知らない言語だった。
豊はその不思議な本をえんじに渡してみた。えんじが再び本を開けると、やはり見知らぬ文字が発光していた。しばらくじっくり見ていると、なぜか書かれていることが、直接頭に入ってきて“読めた”。そこにはこう書かれているようだった。
『クオは、ジャスミンの調子外れのテンポに辟易したが、この際気にせずプロミーに尋ねた。
「プロミーはどうしてここに来ることになった?」
プロミーは姿勢正しく席に座ると、クオの問いに正直に答えた。
「私は、招待状に“特にアリスさんは歓迎いたします”と書かれていましたので、無視しては申し訳ないかと思いまして……」』
「この本は……、魔法本――?」
えんじは呟いた。