182/259
Ⅹ-ii 本を隠すなら図書館の中 (8月26日~8月27日) 1. 『Through The Looking-Glass and What Alice Found There』1
蛍は“The Chess”を不気味だと思っていた。自分が夢を見ているはずが、自分が夢を見られているかも知れないからだった。これは変わった“本”であり、物語の夢を見るとは大図書館で説明を聞いていたが、自分が夢を見せるとは説明を受けていないし、了承もしていない。
この得体の知れない技術は怖い。しかしクロスを外すことはしなかった。赤のビショップ、ブラックベリの物語は最後まで読みたいと思ったからだった。ブラックベリは不正を行う人だが、見守りたい魅力があった。それは王の側近だからだろうか。たぶん王の魅力が分かっている人だからだった。
ブラックベリの王に対する気持ちを赤のポーンのジャスミンは恋愛だと勘ぐったことを蛍は知っていた。それは西大陸中に広まってしまったという。しかし蛍はブラックベリの気持ちを知っていた。それを見守りたい、と蛍は思った。まるで相棒になった気持だった。
今夜も“The Chess”の続きが見られることを期待して、蛍は眠りに就いた。