ⅹ 星送りと花送り 4. ジャスミンのティーパーティ 3
茶会の始まるちょうど三時に、二人目の客が会場に現れた。招待主ジャスミンは、満面の笑顔で新しい客人の少女を出迎えた。その後ろでは、謎の生物も目を輝かせて踊っていた。
「ようこそ! えぇと、プロミーさん、ですよねぇ??」
ジャスミンは、ケープの裏ポケットから参加者リストの巻物とペンを取り出し、鼻眼鏡越しにそれをじっくり調べながら、そういえばそのリストにプロミーの名は載っていないことにしばらく経ってから気付き、巻物にその名をのろのろと書き足してから、戸惑う招待客に挨拶をした。
「私、ジャスミン・ルフェと申します、アリスさん。本日はようこそ」
プロミーは辺りを見回しながら、「ここはどこですか?」と招待主に一言尋ねた。
「“森の奥、少し広くなっている場所”です」
ジャスミンは先ほどクオにした答えと同じ回答を新しい客にもした。クオは、地図を頭に思い浮かべて、自分が最初にいた街道から日没までの四、五時間以内で行ける場所で、プロミーがいた地点からも同じ条件で来ることができる地域を推量した。
「たぶん、ここはネムズの森だろうと思われる、プロミー」
プロミーは先客の声が、聞き覚えのある声で安堵した。
「はい。私、あんまり地名を覚えるのは得意じゃないんですよね。いつもどなたかと会いたければ、待ち合わせなんかしないで、『ココに来て下さいね』と直接お喚びすればいいわけですからねぇ。そうそう、確かここはネムリの森という名前だったはずですよ。えぇと、クオ・ブレインさん? の言う通りです。さぁ、アリスさんもこちらの席へどうぞ。あったかいお茶ができてますよ」
ジャスミンはにこやかに自信たっぷりに間違った森の名前を喋ると、クオの名前を口に出す時、再度参加者リストで名前を確認してからそう言い、新客を案内した。プロミーはお茶会の主人に席を促されると、この場に一緒に来た小鹿をそばの木陰に待たせて、十席はある長いテーブルの、主と客の二人がちょこんと座っている端っこの、クオの向かいの席に向かった。
クオは、ジャスミンの調子外れのテンポに辟易したが、この際気にせずプロミーに尋ねた。
「プロミーはどうしてここに来ることになった?」
プロミーは姿勢正しく席に座ると、クオの問いに正直に答えた。
「私は、招待状に“特にアリスさんは歓迎いたします”と書かれていましたので、無視しては申し訳ないかと思いまして……」
「いや、来るべきではなかったと思うぞ」
クオは力が抜けた。罠師の罠にはまったのならばともかく、自分から進んで赤のポーンの足止めの場に加わるとは正直過ぎる。しかし気を取り直して、クオは開始の時間が過ぎてもまだぽやぁとしている茶会の主人に、急くように問うた。
「それで、まだ始めないのか、ジャスミン・ルフェ?」
ジャスミンは再び懐中時計を掴み、
「あぁ、時間が来てもはっきりしないのです。そろそろもう一人白のポーンの方が来そうなんですけどねぇ」
と、あやふやに呟いた。森の木陰では、歩く謎の生物が、プロミーの小鹿と仲良くじゃれあっていた。平和な光景である。って……、
「おい! いつまで待たせる!?」
クオは堪忍袋の緒が切れそうになった。さっさとこの場から離れて元の道に戻ることができるなら、そうしたかった。しかし、罠師の罠にはまってしまうと、術者の示す解除方法をクリアしない限り、その地点から抜け出ることはできないのであった。
もしくは罠にかかる魔力を無理やり魔術で破ってしまうしかなかった。そうなると多くの魔力を必要とする。ゆえにそれは最後の手段であった。