ⅹ 星送りと花送り 1. 情報戦 4
赤の王城の人気のない場所で、黒衣の僧侶が同じく黒衣の若い僧侶と会合していた。この場所は窓もなく、秘密を守るのに適した場所だった。
「これを暁鐘前までに次の町へ」
ブラックベリは銀のクロスを部下の若い僧侶に渡した。若い僧侶は受け取ると言った。
「仰せのままに」
「先方には連絡を入れている」
若い僧侶は頷くと、すっと姿を消した。
「ご苦労であった、ブラックベリよ」
ブラックベリの部下が去ると、デンファーレ王は入れ替わるように僧侶の前に現れた。
「恐れ入ります、王よ」
ブラックベリは俯いて、囁くように言った。
「白の象は思わぬ根気強さがある。クロスを隠すのは負担だろうか?」
ブラックベリは淡々と答えた。
「今回、クロスがニストにあったことは、昨日の晩鐘の知らせで西大陸中に知れ渡ってしまいました。それで赤の国の不正が根拠を持つことになってしまったのは、赤の国にとってはマイナスになるでしょう。評判を落としてまで死守すべきかどうかは、王のご判断にお任せします」
デンファーレ王は不敵に笑った。
「それは構わない。評判が落ちてもプラスになることもある。白のポーン、ピアスン・ワトソンは子どもとはいえエルフの血を引く者だ。魔力が高く、戦えば強いだろう。しかし大切な側近に重荷になるなら手放すことも考えようか」
ブラックベリは顔色変えずに言葉を返した。
「私は大丈夫でございます。王はご心配にならずお任せ下さい」
デンファーレ王は思った。ブラックベリの白い顔が疲れたように青ざめていると。
「少し休んだ方がいい」
「畏れ多きお言葉、痛み入ります」
ブラックベリは王に疲労を悟られながら、機械のように答えた。
「今宵は早く休むと良い。では」
「お休みなさいませ」
ブラックベリはデンファーレ王の姿が見えなくなるまで、その場で見送った。