ⅹ 星送りと花送り 1. 情報戦 2
窓から夕日が差してきた頃、屋根裏部屋に年老いた僧侶が訪ねてきた。かの者はクラウン大僧正だった。クラウン大僧正は、白の城の教会を取り仕切る一番責任のある立場の者だった。マーブルとラルゴの上司であり、マーブルをビショップに推薦したのもかの者だった。
老僧侶は少しクマのあるマーブルを心配して言った。
「少し根を詰め過ぎているようだな、マーブル。しばし足を止めていってもいいかな?」
老僧侶の優しげな表情にマーブルは手を止めた。客は壁の端にあった木の椅子に座り、隣の席をマーブルに勧めた。
「立ち仕事で疲れたであろう。何か手掛かりは見つかったかな?」
マーブルは力なくぼやいた。
「私では力不足です。圧倒的にブラックベリが有利なのです。どうすればいいでしょう。なぜ私をビショップに推薦されたのですか……?」
クラウン大僧正は微笑んだ。
「どうしてだと思う?」
「分かりません」
マーブルは首を振った。クラウン大僧正は諭すように言った。
「そなたの集中力は誰にも負けてはいない。そして諦めてもいないだろう。他の者なら負担のかかる仕事は受け流して責任を放棄する者もいるが、そなたは違った。なぜであろうか?」
「それはたまたま古くからの友人であるピアスン・ワトソンのクロスがかかっているからです」
マーブルが呟くように言った。
「そうじゃ。そして不正を受けた者の心が分かるからだろう。その者を援ける心の強さがそなたにはあるのだろう。だからそなたはそのままで強いのじゃ」
「私は自分がビショップにならなければ良かったと思うくらい弱いです」
「それならラルゴは自分が難題を引き受けなくて良かったと思っているそうじゃよ。皆それくらいの弱さはあるものだ。そう気にするものでもない」
マーブルは顔を上げて老僧侶を見た。まだラルゴや他の同じ年頃の僧侶のように余裕を持って行動することは出来ないと思ったが、緊迫感は少し落ち着いた。
「ありがとうございます、大僧正様」
老僧侶はマーブルの肩を抱き軽く背を叩いてから、その場を後にした。