Ⅸ-ii 白の王さま (8月9日~8月12日) 4. 通告 2
「おかえり、あさぎ」
「おかえり、真さん」
“白ねこ広場”では雲と霜が出迎えた。あさぎと真は掘りごたつに座った。あさぎは留守番組に手短に結果を話した。
「相手は驚いていたようだったけど、時間が長くなるとお店の邪魔になるから、手短に伝えて来たよ」
「それじゃ、お昼にアカウントが凍結されているか確認だね」
雲が言った。
「掲示板でも報告しなくちゃ」
同じ声で霜が言った。
「皆さん、ありがとうございます」
真は深く礼をした。その時、部屋のドアが開いた。
「甲府です。その後はどうでしたか?」
凛は辺りを見回し、ヒールを脱いで掘りごたつの霜の隣に座った。あさぎが凛にも報告した。
凛は落ち着きのある声で午前中のことを話した。
「今日は杜田先生は予定が無くて、大学内のご自分の部屋にいました。杜田先生が私の話を聞くと、すぐに携帯端末を取り出して、大図書館の館長にメールしてくれました。
正直、私は大図書館の館長と杜田先生が直接連絡を取り合う仲だとは知らなかったので、驚きました。大学図書館の方でも、この件を受けて悪質な読者を通報できるように来年から交流ページの仕組みを変更しなければならないとメールで言っていたそうです。
アカウントの凍結処理が終わったら、杜田先生から私の方に連絡が来ることになっています」
「ありがとうございました、甲府さん」
真は先ほど一階で購入したパンケーキを雲と霜と凛に渡した。
「どーも。これ大好物です」
「どーも。これ大好物です」
雲と霜がハモるように同じ言葉で明るく礼を言った。
「お気遣いありがとうございます。妹さんを安心させてあげて下さい」
凛が遠慮気味にお礼の品を受け取った。あさぎは携帯端末で“The Chess”の交流ページを開いた。
「じゃ、交流ページの方にも報告メッセージを送るね、真さん」
真に確認すると、あさぎは昨日集まった者たちのIDに向けてメッセージを作成した。
『皆さま、昨日はありがとうございました。
今日、甲府さんが杜田先生に全部お話ししました。杜田先生の方から大図書館の館長に通報が行き、佐々木燎のアカウントは早ければ今日のお昼には凍結されるそうです。杜田先生が事実を確認されたら、夏休み明けに佐々木燎を呼び出すそうです。
先ほど私と真さんで佐々木燎に直接このことを伝えに行きました。相手は驚いているようでしたが、たぶん事の深刻さは伝わったかと思います。ご協力ありがとうございました』
「これでいい?」
あさぎは文章を真に確認し了承を貰うと、昨日集まったひい、たまゆら、琥珀、秀、康に一斉にメッセージを送った。
数分後、あさぎの元にメッセージが届いた。
『仁科ひいです。ご連絡ありがとうございました。
今、大図書館三階の“円卓広場”でサークルの皆とメッセージを読みました。無事解決したようで良かったです。たまゆらちゃんと琥珀さんも良かったと言っています』
『上寺里秀です。昨日はありがとうございました。今日はよろずやブンガクサークルにいます。上手くいったようで良かったですね。お疲れ様でした』
あさぎがメッセージを読み上げている途中、鞄の中の真の携帯端末が震え、メールが届いた。
013 8/11 11:45
<From> 康
<Title> Not Title
メッセージ届いたよ。
昨日は大図書館に呼んでくれてありがとう。軽いオフ会になっていたよね。
一件落着して良かったね。これで早瀬さんの妹さんも安心できるね。
嫌がらせメッセージにはアカウント凍結が一番効果的だね。
真は生穂と朝日とほむらにも首尾をメールで知らせた。
それから皆でメッセージやメールを確認し合うと、あさぎは掲示板の投稿の方にも結果を書き込んだ。
『白の駒のクロスの読者 8/11 11:55
白のクイーンです。昨日はご心配下さった皆様、どうもありがとうございました。
脅迫メールの件は、最終的に大図書館に通報し、相手のアカウントが凍結されるということになりました。大学の方にも通報したので、脅迫者には夏休みが終わってから呼び出しがあるそうです。この件は無事終了したことをお知らせ致します』
あさぎが送信すると、真に向き直って明るく尋ねた。
「これでいいね、真さん」
真は大きく頷いた。
「はい、あさぎさん。生穂の分までありがとうございました」
凛が軽く頭を下げて立ち上がった。
「私は午後から大図書館四番街でアルバイトがあるので、これでお別れします。また何かあれば、日中の八時四十五分から十四時四十五分までは大図書館にいますので呼んで頂ければ会うことができます。また今度ゆっくり“The Chess”についてお話ししたいです」
「そうですね、甲府さん。またお会いしましょう」
あさぎがにこやかに礼をした。
「お世話になりました、甲府さん」
真が見送った。
「またねー」
「またねー」
雲と霜が輪唱した。
「それじゃ、私たちもお昼ご飯を食べに降りようか」
あさぎも立ち上がり、四人は一階にあるレストランへ席を移動した。