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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅸ-ii 白の王さま
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Ⅸ-ii 白の王さま (8月9日~8月12日) 3. クイーンとルークと仲間たち 3

 あさぎの白い携帯端末に短い通知音が鳴り、画面に通知が浮かび上がった。掲示板で、また別の書き込みがあった合図だった。


『白の駒のクロスの読者8/10 13:50

 投稿を拝見しました。私は白のポーンの資料本製作者のリュージェさんの中の人です。“The Chess 情報倉庫”というサイトを運営しています。

 白の王様が大変なことになっていたんですね。赤のポーンはIDを見ると、クロスを盗んでいたフーガの人ですよね。何かトラブルを起こす所があちら側の人と似ているんですね。

 こちらでできることと言えば、やはり大図書館に通報することでしょうか……。それできちんと注意されるか分からないですが……』


「また掲示板の投稿に返信があったね」


 霜が言った。楽しそうな声音だった。


「皆で集まればいいんじゃない?」


 雲が流れを読んで軽やかに言った。あさぎが「どうする?」と真に尋ねた。


「それもいいかも」


 真は短く肯定した。真は降って沸いた人が集まる高揚感に身を任せることにした。あさぎは掲示板で新しい方の投稿にメッセージで返信した。


『お返事ありがとうございます。私たちもどうすればいいか悩んでおります。

 私は伊藤あさぎと申します。今この投稿をお読みになった白の読者の方々と、この件について直接会ってお話をするために合流しようとしております。

 もし宜しければ、The Chess 情報倉庫さんもいかがでしょうか。私たちは大図書館二階中央“白ねこ広場”におります。今いるのは白のクイーンの私と、ルークが二人とナイトが一人です。これから三名増える予定です』


 数分も待たずあさぎのIDにメッセージが来た。


『白の皆さんが集まっているのですね。お誘いありがとうございます。私も今から伺います。私は福祉家政学科三年の上寺里秀といいます。十四時三十分までに着くと思います』


「The Chess 情報倉庫さんって大物だよね。楽しみだね」

「だね」

 雲がにこりとしてささやき、霜が頷いた。


 少し経つと、白ねこ広場のドアが勢いよく開いて、部屋に新しい客人が三人訪れた。


「初めまして! 私たちよろずやブンガクサークルから来た、白の駒のクロスの読者です!」


 明るい声が挨拶をした。大きな白いリュックサックを背負った、小柄な少女という雰囲気の女学生だった。その声の隣にいた人は、同じ年頃の、知的な瞳の肌の白い少女だった。少女は礼儀正しく深く礼をした。三人目はこぎれいに化粧をし、ゆるくウェーブをかけた髪とスカート姿が垢抜けている、一緒に来た二人より年上の女子大生という出で立ちだった。まるで前の二人の保護者のように落ち着いており、部屋に入ると周りを見渡し、流行の色の口紅をさした口元で微笑んだ。


 元気な少女が挨拶をした。


「初めまして。国文学科一年の仁科ひいです。ニックネームは『ネトゲ住人』です。“あちら”では白のポーンのガーラちゃんです。


 隣は同じく国文学科一年生の小坂たまゆらちゃんです。ニックネームは『多言語学習者』です。“あちら”では同じく白のポーンのレン君です。


 こちらは私たちの先輩で国文学科二年の狭川琥珀さん、ニックネームは『虹の僧侶』です。“あちら”ではビショップのラルゴさんです。私たちは、よろずやブンガクサークルの会で、今まで上の階にいました」


「おー、宜しく。こっちへどうぞ」


 雲が立ち上がり、先輩らしく親しみを込めて真の隣へ三人を誘導した。新しく来た三人はそれぞれ自分のクロスを見せた。ポーンが二人とビショップが一人だった。真たちは同じく駒のクロスを示して見せた。


 あさぎは自分たちの自己紹介をし、件のメッセージの話を新しく来た三人に教えた。


「じかに見るとやっぱり酷いね、ひい」


 たまゆらがひいの方へ向けて言った。快活な少女ひいと違って大人しそうに見えるが、静かに怒っているらしいことが真に伝わった。琥珀が落ち着いた眼差しで真たちに話した。


「この掲示板の投稿は、私たちのサークルの中でも読んだのですが、皆酷いねって言っていました」


「そうだよね」


「だよね」


 雲が相槌を打ち、霜が反響した。


「掲示板の投稿は、取りあえず今夜いっぱい様子を見よう、真さん」


 あさぎがそう言うと、しばらくその場に集まった者たちは問題から離れ、にぎやかに四方山話を始めた。琥珀がサークル内で集めたお菓子をその場の者達にお裾分けして配った。白の仲間達は互いに“The Chess”の物語を保存用カードで交換したり、夏休みの過ごし方について話したりしていた。主にサークルの話で盛り上がり、ひいが明るくお喋りし、雲と霜が「いいね」「いいね」とあいの手を入れ、琥珀がたまに詳しい説明を挟んだ。


 その賑わいを見て真は、現実感が離れて、“あちら”で白の城にプレイヤーが集まった時の様子が頭に浮かんだ。ビショップのマーブルが足りない、と思い、ふと康のことを思い出した。真は自分の携帯端末で康に昨日今日あったことを纏めてメールした。


012 8/10 14:10

<To> 康

<Title> Not Title


 白の王様は私の妹の生穂だったよ。昨日知ったんだけど、妹が交流ページ内で赤のポーンの一人に脅されていたんだ。今日はその対策で昼から大図書館にいて、白の駒のクロスの人たちが集まったんだ。クイーンと、ルーク二人と、ビショップ一人と、ポーン二人。

 できたら康さんにも話したいんだけど、今から時間ある? 大図書館二階中央の“白ねこ広場”にいるよ。

 念のため“王様を探す”はオフにしてくれると助かるよ。


 メールの返信はすぐに来た。


012 8/10 14:20

<From> 康

<Title> Re:


 メールありがとう、早瀬さん。

 赤のポーンの人に脅されていたとは随分物騒な話ですね。

 今から行きます。十五時くらいまでに着くと思うよ。


 真は返信した。


013 8/10 14:25

<To> 康

<Title> Re:


 大図書館で待ってるよ。


 真は返信を終えると、その場の者たちに説明した。


「今、白のビショップで私と同じ学科の石塚康さんがこちらに来るそうです」


「おー、ビショップが二人揃うね」


 霜が歓迎の意を込めて言った。

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