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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅸ-ii 白の王さま
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Ⅸ-ii 白の王さま (8月9日~8月12日) 3. クイーンとルークと仲間たち 2

 昼食の時間が終わると朝日とほむらと別れ、十二時四十五分に真は二階の待ち合わせの場所に座っていた。時計が十二時五十分を示した時、高校時代の部活の先輩伊藤あさぎと連れの二人が現れた。


「真さん、お久しぶり。元気にしてた? こちらの二人は白のルークで小柳雲と小柳霜。一卵性双生児で私と同じ保育学科の三年生。そしてこちらは白のナイトで早瀬真さん。お互いの自己紹介は、いつもの部屋に行ってからゆっくりしましょ」


 あさぎは明るい声で手短にそれぞれの紹介をした。あさぎは黒髪を後ろで一つに束ね、頭にオレンジ色のバンダナをし、いつでも大らかな笑顔でいることが特徴だった。久しぶりに会ったあさぎは頼もしかった。何となく、向こうでの銀の髪の女王様の姿が頭の中をかすめた。真はこの“The Chess”特有の既視感に慣れて驚かなくなっていた。


 紹介された小柳雲と霜は、同じ服を着て同じ顔立ちだった。肩のあたりまで伸ばした黒い髪も一緒だった。二人はあさぎの紹介に「どうもー」「どうもー」と答えた。同じ声だった。


 あさぎの言ういつもの部屋とは二階五番街にある“白ねこ広場”だった。真は自分も雲と霜の姉妹に軽く頭を下げると、四人は大図書館内を歩き、予めあさぎが予約を取っていた部屋へと向かった。


 白ねこ広場は、畳が敷かれた部屋だった。床には大きな掘りごたつ式のテーブルが中央に配置され、奥には読み聞かせ用の台があった。壁には綺麗な白い猫の模様が描かれたステンドグラスが嵌め込まれ、隅には白猫の柔らかいぬいぐるみが固まって置いてあった。


 あさぎが掘りごたつ式のテーブルに足を下ろし、その隣に雲と霜があさぎを挟むように座った。真は向かい側に座った。


「まずは自己紹介が先だね。雲、霜、宜しく」


 双子の片方が軽快なノリで答えた。


「はいよ、あさぎ。私は小柳雲。紅雲楼のニックネームは『ピアノは苦手』。保育学科三年生。保育学科ではピアノを使うけど、私は苦手。一応私の方が霜より早く生まれたけど、あんまり関係ないかな。“The Chess”では白のルークで王城守護魔術師のブリックリヒト。夏休みは午前中にあさぎと霜と交代で大図書館で紙芝居の『傾城西遊記』をやってるけど、昼は特にアルバイトなどやっていることはないよ。ひょうひょうとしているけど、口は堅いよ」


 次に同じ顔、同じ声のもう一人が自己紹介した。


「じゃあ、次は私。私は小柳霜。紅雲楼のニックネームは『手書きは苦手』。保育所では手書きのお便りを書く所が多いみたいだけど、私は手書きが苦手。一応妹。“The Chess”では白のルークで王城守護魔術師のブラッカリヒト。あとは雲と同じ。見分けが付かなくても、おっとりしている方が霜だって言われてるよ」


 二人は自己紹介が終わると、首からクロスを外して真に見せた。二人のクロスは白い石が嵌め込まれ、塔の形の透かし模様があった。真も自分のクロスを外して二人に見せた。


「私は早瀬真です。福祉家政学科二年で“The Chess”ではロッドでした。ニックネームはうちで猫を飼っているので『猫好き』です。あさぎさんは高校時代のバスケ部の先輩です。


 私の妹が早瀬生穂と言って、つつじ女子大付属高校の二年生です。“The Chess”では白のキングです」


 真が一通り自己紹介が終わると、雲と霜が柔らかい笑顔で同時に「宜しく」と言った。

 あさぎが優しく真に先を促した。


「この雲と霜は大学で一緒の講義を受ける仲なんだけど、頼れる友達だから、真さんの抱えている問題にも協力できると思うよ。それで、どうした?」


 真は生穂が受けたメッセージを三人に見せた。


「こりゃ、酷い」


「酷い」


 雲と霜が輪唱するように時間差で呟いた。真は説明した。


「この誹謗メッセージを送ったのが、食物営養学科一年の佐々木燎という人で、大図書館一階フードコートにアルバイトしているそうです。明日私の友達で赤のナイトのほむらが朝に一緒にフードコートへ行ってどの人か教えて貰うよう約束しました。できたらあさぎさんも一緒に来てくれませんか?」


 すると雲が頷いた。


「いいよーあさぎ。明日の紙芝居は私が代わるから」


「ありがとう、雲。それからどうしたらいいか、でしょ? 真さんが困っているのは」


 真はあさぎの問いに頷いた。


「こんなことする人には厳しい人のお叱りが必要だなー」


 霜が渋い顔を作って一言呟いた。


「そうそう。で、どうする?」


 雲があさぎに尋ねた。


「うーん、これは酷いからな。誰に言うのが適任なんだろう。そうだなぁ、まずはこのことを白の駒のクロスの読者の間で相談してもいい? 色々な学科の人から聞いたら、誰が一番いいか教えて貰えるかも知れないから。この件について表に立って取り纏めるのは私でいいよ」


「私はいいと思いますが、生穂に聞いてみます。ありがとう、あさぎさん」


 真は協力者にお礼を言い、その場で生穂に経過をメールした。真は腕時計を見た。まだ生穂はお昼休みの時間だった。


064 8/10 13:10

<To> 生穂

<Title> Not Title


 明日の朝、私の大学の友達のほむらに佐々木燎のアルバイト先へ行って誰だか顔を教えて貰うことになったよ。

 それから今、大図書館で先輩のあさぎさんとその友達二人に会って話した所だよ。それでこの件を白の駒のクロスの読者の間で相談するという話になったんだけど、生穂は大丈夫?


 メールの返信は意外と早く届いた。


064 8/10 13:15

<From> 生穂

<Title> Re:


 ありがとう、お姉ちゃん。今落ち着いて考えると、自分から隠しているのもおかしいし、白の駒のクロスの読者の中で共有してもいいよ。でも、あまり殺気立って煽るようなことを書くと逆効果だから、炎上は避けてね。あとは、お姉ちゃんに任せるよ。


 真はあさぎたちに、生穂の許可を得たことを伝えた。あさぎは携帯端末を鞄から取り出し、紅雲楼の“The Chess”の交流ページの共有掲示板を開いた。そこに脅しの言葉が書かれたスクリーンショットを貼り付け、暴言のあらましを書き込んだ。閲覧は白の読者限定という条件にした。


『白の駒のクロスの読者8/10 13:35

 私は白のクイーンで、ニックネームは『講釈師』で御座います。

 白のキングの読者に赤のポーンの一人が交流サイトのメッセージで暴言を続け、身元特定をしようとしております。八月八日の赤の会合の後から始まったようで御座います。内容は脅迫的で、白のキングの読者は怯えております。これをどなたに通報すればよいか、お知恵をお借りしたいと思い投稿致しました。

 白のキングの読者は炎上は避けたいということで御座います。なので逆に私たちが赤の駒のクロスの人たちを責め立てるのはご遠慮願います。さてさてどうしたら宜しいでしょうか?』


 あさぎは文章を真に確認してから、掲示板にさっと投稿した。


「どうなるだろうね」


「だね」


 雲が呟き、霜が言葉を重ねた。五分ほどすると、あさぎの携帯端末にメッセージが来た。


『初めまして。私は“The Chess”では白のポーンの行商人のガーラちゃんです。

 投稿を読みました! 白の王様はネット上に浮上していなかったけど、陰で酷いことになっていたのですね。いい案は思いつかないけれど、何かあれば私も協力します。

 それと、私の友人で白のポーンのアルビノの魔術師の後裔のレン君の読者と、白の光のビショップのラルゴさんの読者も私と同じように思っています。

 今私たち三人は大図書館にいます。もし白のクイーンさんも大図書館にいるようならば、合流しませんか? 詳しく話を聞きたいです』


「さっそく反応があったね。合流したいって」


 雲は横からあさぎの携帯端末をひょいと眺めながら言った。あさぎはメッセージを読み上げると優しくて頼もしい目で真を見た。


「真さんはいい?」


 あさぎの確認に真はすぐに力強く頷いた。


「大丈夫です」


「それじゃ、ポーンのガーラさんの所にメッセージを送るよ」


 あさぎは手慣れた素早いスピードで投稿に応えた人のIDに返信のメッセージを入力した。


『お返事ありがとうございます。私は伊藤あさぎと申します。

 今、大図書館二階中央“白ねこ広場”におります。ここには白のルークが二人と白のナイトが一人集まっております。白のキングは高校生なのでここにはおりませんが、私が代わりに動いております。

 そちらの皆さま方が宜しければ、こちらの部屋へお越し下さい。

 “王様を探す”は念のためオフにして下さると、赤の方に会うトラブルが避けられると思います。

 ではお待ちしております』


「これでいい?」


 あさぎは文面を真に確認すると、メッセージを送信した。返事はすぐに返ってきた。


『遅れましたが私の名前は仁科ひいです。すぐ近くにいたんですね! 分かりました。これから行きます』

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