Ⅸ ミドルゲーム 3. 白い手の乙女 14
獅子との出会いは海岸で起きた事件がきっかけだった。
リアは旅の中で一人で砂浜を歩いていた。その砂浜は森に接していた。月夜のことだった。いきなり大きな吠える音が鳴り響き、森の上空から、三つ頸の翼竜がばさばさと海へ向かって飛んできた。その大きな口の一つには獅子の子をくわえていた。
リアが唖然としていると、暗い森の奥から獅子が飛び出してきた。たてがみは無かった。獅子はリアを無視し、翼竜に飛びかかって尾に噛みついた。翼竜は高く飛べずに暴れた。
リアは獅子が必死で子を守ろうと戦っているのだと分かると、獅子に手を貸した。翼竜の羽に火を放った。翼竜は片翼にダメージを負い、獅子の力で地面に引きずり落とされた。獅子は子獅子をくわえる翼竜の頸の根元に噛みついた。リアは戦う獅子に魔力を送った。翼竜は子獅子を放した。そして片翼で空を飛び、海の向こうへ消えていった。
獅子は我が子に付いた翼竜の歯の跡をなめ、我が子を励ました。リアは子獅子が無事である様子を見て、その場を後にしようとした。しかし獅子は子どもと一緒にリアの後ろに付いてきた。それは何か言いたそうな様子だった。リアは立ち止まり、振り返った。獅子はその場で腰を下ろした。
「僕は少しお手伝いをしただけです。子獅子が助かって良かったですね」
リアは獅子に向かって言った。獅子は黙ってリアを見つめた。それはお礼がしたいと言っているようだった。リアは獅子の話を聞くために、紫色の魔方陣を現した。
「これは契約の魔方陣です。この中に入れば、別に契約をしなくても、あなたの言葉が分かるようになります」
獅子は子を置き、ゆったりとその中へ入って腰を下ろした。獅子は魔方陣の中で、召喚士に伝えた。私は子が成長した後に、あなたのために戦うことを誓うと。その思いは誠実で、勇ましかった。リアは獅子の気持ちを受け止めて、召喚契約を交わすことにした。
「あなたを喚ぶ時に名前が必要です。そうですね……コインでいいですか?」
獅子は頷くようにリアを見た。リアは召喚契約を結んだ。
契約の手続きが終わると、魔方陣は消えた。獅子はそれでも砂浜に腰を落ち着け、動かなかった。腹を枕にして子獅子が眠った。獅子はリアを見つめていた。
「もう夜だから、僕もここで休みます……」
リアは獅子の意図を理解すると、獅子の腹に背を預けた。獅子の身体は温かかった。
その晩、リアは獅子の身体に身を預けて眠った。