Ⅸ ミドルゲーム 3. 白い手の乙女 13
リアがワインを好んで飲まないことをイズーはよく知っていた。だからイズーは、リアがその杯に口をつけずにそのままこの城から去って欲しいと願った。
五日目の晩、リアはイズーの診た通り次の日には旅立てるまで回復した。
城の回廊に燭台の炎が点される頃、イズーは夕餉を乗せた銀の盆を手に携えて、客間のドアを静かに開けた。部屋では白いローブからいつもの緑色の旅装束に着替えたリアが寝台の脇に腰掛けていた。すっきりと荷作りされた白い肩掛け鞄が、その足元に寄せ掛けられていた。イズーが盆をテーブルに置くと、リアは城主に深く頭を下げた。
「明日旅立ちます。僕が休んでいる間、サイトとカイヤや、ココアやコインの面倒まで看ていただいて、本当にありがとうございました」
テーブルに干し葡萄入りの白パンと、茸と木の実と野草のスープと、双子鳥のための細かく砕いた胡桃のパイと、葡萄酒と空のグラスを並べながら、胸に浮かんだ寂しさをふっと吹き消すように、イズーは優しく答えた。
「あの心優しい獅子は、この城にお迎えしたのは初めてでしたので、居心地良く過ごすことができたかどうか心配です。宜しかったら、あの獅子との出会いのなれ初めを詳しくお話ししていただけませんか、リアさん?」
リアは快く頷き、食事の間、獅子との思い出話を語り始めた。イズーは、そっと空のグラスにワインを注いだ。