Ⅸ ミドルゲーム 3. 白い手の乙女 12
城に客が大勢集まった時、広間では必ず夜宴が開かれる。イズーは小さい頃からずっと、宴の席でリアが弾くヴァイオリンの音色がとても好きだった。奏でられる音楽はいつも、イズーが見たことのない異国の、おそらく西大陸ではないどこか遠い国の町並みを心に浮かべさせた。リアに問うと、「これは、僕の故郷の曲です」と教えてくれた。
イズーはこの旅人との間に年月を重ねてゆくことが嬉しかった。イズーは子どもの頃、早く自分が成長してリアに追いつくことを密かに夢見た。リアは願い通り、待っていてくれた。
イズーはリアが城を去る時が苦手だった。いつ頃からか自分が、リアがずっとこの城にいてくれたらいいのに、という思いを心に潜めていたことに気付いた。その気持ちに気付くと同時に、寂しさがぐんと近付いてきた。
いつか昔のチェスの頃、夏の朝空を青い大鳥に乗って、リアがこの城に訪れたことがあった。その胸には、飾り石のない銀のクロスが光っていた。城門で出迎えたイズーがリアに尋ねると、観戦者用クロスはよく借りる、けれど本当は駒のクロスを求めている、と打ち明けた。それから午後を庭の噴水のほとりに座り、リアはチェスの中で会えるという不思議な探し人の話をイズーに話した。それは昔々の古い友人であると。リアはその親友と一緒に旅した長い冒険譚を日暮れまで語り明かした。その口調は楽しそうでいて、底の方でひっそりと切なさが流れているのをイズーは感じた。
今回リアはチェスに参加した。イズーは、この赤の王都へ向かう旅の中でリアは探し人を見つけてしまう予感がした。