Ⅸ ミドルゲーム 3. 白い手の乙女 10
旅人は話し終えると、「長く退屈な話を最後まで聞いて下さってありがとうございます。イズー」と城の主に礼を言った。
客間は深い影色に包まれていた。城主は燭台にそっと火を灯すと、寝台に静座し下を見つめる旅人に、一言尋ねた。詰問だったかもしれない。
「どうしてそんな無理をされたのですか?」
リアは困ったように眉を寄せて嘆息した。
「僕は自分がどこまで保つのか分からないみたいです……」
魔力にはゼロというメーターはなかった。魔力は使おうとすれば、マイナス値になろうとも、体の底から引き出すことのできる力だった。
しかし城主は心の中で否定した。イズーは「そこまでしても戦える理由があったのではないですか?」と問おうとした。が、飲み込んだ。
旅人はうとうとと眠りに就くところだった。城主は深く息をついた。
そして語りに疲れた客人が床に伏せ再び身を休める姿を、イズーは見つめた。リアが意識を取り戻すまでの間、イズーは昼夜を懸けて自分の知る限りの最善の看護を尽くしていた。が、替えても枯れ色に染まる包帯と、昏々と穏やかに眠り続ける姿に、喪失の不安を覚え、心は怯えた。ゆえにリアが昨夜ひとたび意識を取り戻した時、イズーは胸が温かくなった。しかし同時に旅立ちの時が来て城から離れる時のことを思った――。