Ⅸ ミドルゲーム 2. 独りのアリス㊦ 1
プロミーとロッドとブリックリヒトは中央に棺のある部屋に辿り着いた。と、同時にメルローズとガーネットとピコットとフローが反対側から現れた。
「同時かしら!」
正面で対面したプロミー達を見付けてピコットが言った。フローが「ひゅう」と口笛を吹いた。
「私達の決着はお預けのようだな」
メルローズがロッドに言った。
一団は中央の棺の周りに集まった。棺は蓋をせず、年老いた王冠を被った高貴な者が古からの眠りに就いていた。姿は美しいままだった。
「王に花を捧げるといいよ」
ブリックリヒトはロッドに言った。ロッドは鞄からアルストロメリアの花を取り出し、王に捧げた。すると眠れる者は静寂の中、体から離れたもう一つの姿が現れ、かの者は起き上がった。その姿は透けていた。
そこへプロミーの後ろから声がした。
「アルストロメリア王様!!」
古の王のアリス、ワースがいつの間にか現れ、王のもとに駆け寄った。
「私は王が私を地上に留め置かれた間、独りでなぜこのような寂しい処遇をお与えになったのか悩んでおりました。王よ、もうあなたの元を離れません」
ワースはアルストロメリア王に抱きついた。老王は優しく抱擁した。
「すまなかった、ワースよ。私に遭った不幸のせいで、この長さまで独りにしてしまった」
王は己の墓所に入った客人たちを見渡して語った。
「私を起こした者達よ。しばし私の話を聞いて下さらないか。
人には魂というものがある。心が強いと死しても存在が残ることがある。王というものは特に魂が残りやすい。水葬された者は海の深くの異界へ魂が行き、鳥葬では鳥に魂を分け与え故国を飛び回る。私もこの墓所で魂のまま幾千年眠って来た。
私は夢使いでアリスの夢を見ている最中、旅のならず者の騎士に槍を刺され、事切れてしまった。その野蛮な騎士は、騎士の中の王が課したクエストの旅の途中で私の城に泊まり狼藉を働いた。
私はその者に対する怨讐で、この長さまで心が残った。ワースは私の無念の思いから残った私の思いだ。
私を癒す者は、そのクエストを与えた騎士の中の王である。
旅のアリスよ、私の体の傷口に触れて頂けないだろうか」
プロミーは前へ出た。その顔立ちは少年のように凛としていた。
「アルストロメリア王、この永い時間を申し訳なかった」
少女はそう言うと、古の王の遺体の傷口に優しく触れた。傷は癒えていった。
「プロミーが騎士の中の王だったのですか、メルローズ様?」
ガーネットが小声で尋ねた。
「騎士の中の王とは古の青年王のことだと思う。その末裔のスターチス王が代わりに傷を癒したのではないか」
代わりにロッドが答えた。それにしても王を癒したプロミーはスターチス王とも雰囲気が違う、とロッドは疑問を覚えた。
アルストロメリア王は満足そうに微笑んだ。古の王の魂とそのアリスは姿が薄くなっていった。
「ありがとう、旅のアリス。この傷が治ったので私は先王達の元へ行く」
この部屋の主が消えてしまうと、静寂が訪れた。
「これでクエストが完了ってコトね!」
ピコットが元気よく終了宣言をした。ブリックリヒトが言った。
「まず、ソールズの町へ戻ろうか。私が皆纏めて移動させるよ」
メルローズが赤の者達の同意を得て、その言葉を受け入れた。一行はソールズの町の教会へ空間を繋げて戻った。