Ⅸ ミドルゲーム 2. 独りのアリス㊥ 5
赤の一行が遺跡の入り口に着くと、草で覆われた遺跡の扉の前で立ち止まった。扉は閉まっていた。
「んじゃ、最初はオレの出番だね」
フローはそう言うと、遺跡の扉を観察し始めた。そして鍵穴を見付けると、鞄から針を取り出した。
「扉さん扉さん、ちょっとオレ達を通して下さいねぇ」
独り言を呟くと、フローは鍵穴の中に針を入れ、カチャカチャと動かした。しかし、なかなか扉は開かなかった。フローは次に鍵穴に手を当て、神経を集中した。しばし時間が経つと、扉が開いた。
「ちょっと待たせたね。それじゃ、行こうか!」
フローの後ろで待っていた三人に言った。
「魔術のトラップがあったら困るから、オレが前へ行くよ」
「では、メルローズ様が二番目で、地図を持つ私がそれに付いて行くことでいいですね」
「じゃ、私がしんがりで後ろを注意しているわ!」
皆が自分の役割を承知すると、扉の開いた遺跡へ入って行った。
遺跡の道は暗かった。先頭を歩くフローが鞄からランタンを出し、明かりを照らした。ガーネットは地図を見落とさないよう注意しながら前の二人に付いて行った。
一行は第一の層を通り抜け、第二の層の大広間に辿り着いた。
「天井の土のつららを全部落としちゃうわね!」
ピコットはそう言うと、地の矢を一本弓につがえて天井に放った。天井は大きな音を立てて揺れ、土のつららはごーっと床に全部落ちた。
「じゃ、次はオレの番ね。奥の甲冑騎士を全部倒してくる」
そう言うと、フローは鞄から大きな鎌を取り出した。そして目にも止まらぬ速さで甲冑達の元に走り、右から左へ甲冑達の胴体を鎌で切っていった。この鎌は魔力を解除する力があり、鎌で切られた甲冑は倒れて動けなくなった。
フローは全てを倒すと、広間の反対側から急いで仲間たちを呼び寄せた。
「甲冑が回復する前に、ここを通るぜ!」
鮮やかな攻撃に目を見張っていた三人は、フローの言葉で砂埃のような土が深く埋まる床を急いで渡った。
「やるわね!」
ピコットはフローに感謝の言葉を送った。
「この連携プレーなら、第二層も越えることが出来そうですよ、メルローズ様!」
地図を持っていたガーネットが喜んで言った。
「この遺跡って瞬間移動が前提だけど、帰りは大丈夫なのかしら?」
歩きながらピコットが素朴な疑問を口にした。地図を持つガーネットが答えた。
「地図には帰り道も描いてあるから大丈夫ですよ。空間を飛んで行き着いた先の部屋に、元の層へ行く道もあるようですから。でも第三層で迷わないことですね」
「ピコットはお幾つなんですか?」
道の途中で休んでいたガーネットが隣に座っていたピコットに質問した。
「私は十七才よ。あなたは?」
「私は十五才です。フローは?」
「オレ? オレは二十三才。幼馴染のクオと同い年。メルローズ卿は?」
「私は二十二才だ」
「フローが一番上なわけですね。でもこのクエストでは最初に試合を申し込んだメルローズ様がリーダーですよ」
ガーネットがさらりと釘を刺した。フローは軽い調子で了承した。
「OK! オレ、シーフだからリーダーって柄じゃないし」
「了解!」
ピコットも明るく同意した。
「ピコットはいつも一人で旅をしているのですか?」
夕食が終わってそれぞれが一休みしている中、ガーネットがピコットに問うた。ピコットは矢じりの砂をブラシで落としながら、ガーネットに答えた。
「ええ、そうよ。七つの時から弓使いの技の修業を始めて、十二の時から旅をしているわ。チェスに参加するのは初めてだけど、いつもは寄せ集めのパーティに参加してクエストしたり、傭兵をしたりしているわ」
「旅慣れていて、お強いですよね」
「一人旅が性に合っているの。フローは?」
「オレは盗賊の親方から斡旋される仕事をこなしていきながら一人前になっていったな。西大陸には意外と魔術解除の仕事って多くてさ」
「遺跡の魔術の解除も手馴れているって感じよね」
「魔術を使わず魔術解除をしていくのが仕事だからね」
「ところであなた達は長い付き合いなの?」
ピコットがガーネットに話を振った。ガーネットは控えめに答えた。
「メルローズ様とは私が十二才の時にお供するようになって三年です。メルローズ様が十九才の時にデンファーレ王家から騎士に任命された直後に従うようになりました」
「へぇ、三年前からなの。もっと長いように見えるわ」
「メルローズ様との絆は旅の長さでは計れません!」
「メルローズ卿とガーネットは旅では何しているの~?」
フローが話に入ってきた。ガーネットが興に乗って答えた。
「普段はメルローズ様は馬上試合に参加されたり、高貴な方の護衛をされたりしています。私は宿屋の手配をしたり、町での噂話などの情報収集をしたりしています。……まだ話してもいいですか、メルローズ様?」
「ガーネットの話は長い。今日は止めておこう」
メルローズの合図で、一行は眠りに就くことにした。