Ⅸ ミドルゲーム 2. 独りのアリス㊥ 2
白の一行は遺跡の扉の前に佇んだ。土の扉は大きく、動かすのは魔力を必要とした。
「まずは扉を開けることからだね」
ブリックリヒトが扉の前に立ち、木の杖でこつん、と一つ叩いた。ブリックリヒトはそれから扉を観察し、扉の鍵穴を探し当て、そこに杖を触れ呪文を唱えた。
「我命じる、遺跡に旅人を迎えることを!」
遺跡の扉は魔術師の言葉を聞いたがごとく、左右に開いた。
「では、私が一番前に行くから、プロミーは真ん中で、ロッドは後ろに備えて歩いて行くといいよ」
ブリックリヒトが慣れたように指示を送った。プロミーとロッドは魔術の案内人に従って遺跡の中に入って行った。
遺跡の中は土の壁が圧すように狭く、辺りは暗かった。ブリックリヒトは杖の先に光の魔術で辺りを照らし、様子を見ながら先へ進んだ。
「この辺りはまだ、魔術のトラップはないようです……」
プロミーが地図を持ちながら、皆に言った。地図の上には、現在位置が円い光で表されていた。三人はしばらく無言で先を進んだ。
歩いて行くうちに道が二つになる場所に出た。プロミーは地図を見て、二人に相談した。
「この道は、どちらも長く続いて行く道のようです。どちらが正解かはわかりませんが、どちらの道も魔術でねじれた異空間に繋がっているようです……」
「どっちにする、ロッド?」
ブリックリヒトがロッドに聞いた。
「私は迷宮を探索する時はいつも左を選ぶようにしている」
ロッドは短く答えた。
「よし、じゃあそっちに行こう」
ブリックリヒトが、左の道へ進んだ。
「このペースで歩く限り、この地図は今日一日分の地図が載っているようです。多分、明日は地図にない道を歩くことになると思います」
プロミーが前後の仲間に言った。
「今日は遺跡で夜明かしだね」
ブリックリヒトが呟いた。
「できるだけ進める所まで行こう」
ロッドが励ますように言った。
三人が歩いていると、初めて行き止まりに辿り着いた。プロミーは説明した。
「ここは魔力で壁になっているように見えますが、右の壁を魔力で圧せば、新たな道ができるよう地図に描いています。でも気を付けて下さい。その先の部屋に瞬間移動の罠があります。そこで三人がばらばらにいると、三人とも違う場所へ転送されてしまうそうです。次の部屋に行く時は、手を繋いで離れないようにしなければなりません、と注意書きが書いてあります」
「分かった、気を付けよう」
ロッドが了解した。
「よっし、私の出番だね」
ブリックリヒトは右の壁に近寄ると、こんこん、と杖で叩いた。
「我を阻めし土の壁よ、その奥を表したまえ!」
呪文と共に杖の先で壁を圧すと、壁は消失し、新しい部屋が現れた。その先の部屋は一休みに丁度良さそうな大きさだった。
「では、一緒に行こう」
ロッドの合図で三人は互いに手を結び、次の部屋へ入った。部屋に入った瞬間、プロミーは景色が変わったような気がした。その時間は一瞬で、三人は別の道に立っていた。
三人は手を離すと、プロミーは解説した。
「今までの道が第一層なら、ここからが第二層になっています。地図は第二層までです。おそらく第三層に王の部屋があるのではないか、と地図には書かれています。第二層のこの先は王の部屋を守るため、攻撃魔法が設えてあるそうです」
「ここで少し休もうか」
ロッドは歩き慣れていないプロミーに向けて、休憩を提案した。
「いいよ、これからが勝負だね」
ブリックリヒトも同意した。三人は腰を下ろし壁に背を預け、一時休んだ。プロミーはいつも持ち歩いているコケモモのジュースで口を潤した。小鹿に乗らず長く歩くのは初めてであった。が、意外と体力は持続していた。
「二千年前の王はもう起きることは無いのだろうか」
ロッドが呟いた。
「魂が王の寝所に残っているのだと思うよ」
ブリックリヒトが言った。
「たぶん、冒険者が王の部屋へ辿り着いたら、魂だけが目覚めて、何かを伝えるのではないのかな、と私は思うよ」
雑談が終わると三人は立ち上がり、再び道を進めた。