Ⅸ ミドルゲーム 1. 帰郷 3
教会を出ると、ロッドが次の行先をプロミーに教えた。
「私にはここで兄弟のように育った者がおり、名前はホレスという。町の外れの森の中で隠者となって暮らしている。これから町で昼食を摂った後、彼を訪おうと思っている」
「はい、ご一緒してもいいですか」
「もちろん」
ロッドとプロミーは町の食堂で食事を済ませると、街道をゆったりと通り、来た道とは反対の町の外れまで出た。そして森の中の小道を歩いた。途中二手に分かれた細い道に入り、道なき道を分け入ると、一つの小さな庵が現れた。ロッドはそこで愛馬を止めた。プロミーも横に小鹿を止め、ロッドは庵の前に立った。馬の鳴き声を耳にした庵の主が入り口から現れ、訪問者を迎えた。
「久しぶりだ、ホレス」
「チェスの話は聞きましたよ、ロッド。それにプロミーさんも。さぁ、中にどうぞ」
庵の主人は物柔らかな声で、訪問者を家の中に誘った。客人二人は庵の中に入っていった。
庵の中は家具が少なく質素な作りだった。主人はロッドよりは年上の、細身の青年だった。服は若い僧侶の僧衣のような簡単な作りのものを着ていた。客人を招いた部屋には、小さな瓶が並び、干した薬草が棚に並んでいた。庵の主はロッドとプロミーに薬草茶を淹れた。薄茶色の透き通った飲み物は、客人をほっと一息つかせた。
ホレスはプロミーに自己紹介をした。
「私は騎士の家の生まれで、ロッドと共に異界の貴婦人の館で育てられ、騎士の教育を受けました。二十才になり騎士として旅をしたこともありましたが、私は森の中で隠れて旅人を癒す道を選びました。今は森で薬草を採取しながら薬を調合して町に売りに行く生活をしています。時々難病の人を手当てしたり、隠れなければならない騎士を逗留させ看病をしたりしています。私の知恵を借りに訪れる人もあります」
ロッドが付け加えた。
「ホレスは私の三才年上だが、本当の兄のように育った。たまに顔を見せに訪れるし、怪我をした時はここに来て癒して貰ったことも度々ある。私の生い立ちについては、後で館に戻った時に話そうと思う」
プロミーは小さく頷いた。ホレスがロッドに訊いた。
「ところでプロミーさんをここへ連れてきたということは、何か聞きたいことがあるのでしょう、ロッド」
「察しがいい」
ロッドはお茶を一口飲むと、隠者に質問をした。
「アリスについて何か話を知らないだろうか?」
ホレスは穏やかに答えた。
「私はあなた以上のことは知りませんよ、ロッド。王からプロミーさんを託されたのなら、それもご縁と思ってその縁を大切にすべきだと思います。と言ってもロッドのことだから、冒険を優先するのでしょうね」
ロッドとホレスは談笑した。プロミーはその昔話を聞き、幼少の頃のロッドを思い浮かべた。日が傾きかけた頃、ロッドとプロミーは庵を出た。




