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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅷ チェック
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Ⅷ チェック 4. 成り上がり者は足が速い

「私の名はブラッカリヒト」


 部屋を充満する爆発の煙が外に流れて薄くなった時、寝台のあった場所に人の声がした。そこには、フローに似た、頭に金の輪の飾りを付けた青年が立っていた。王に変身していたのはルークだと気付いたフローは、再び逃げ道を目の端で探しながら相手の自己紹介を聞いた。今、ルークを相手に戦う事は出来なかった。今度は異空間を破ったくらいでは容赦してくれず、人よりも高い魔力で直接攻撃してくるだろう。魔術の攻撃でフローが勝つことは至難の業であったし、その後キングを探してチェックをかけるには時間が無かった。


「王城守護魔術師っていう名前の城守りで、ブリックリヒトは私の兄。戦いたかったら私が相手をするよ、シーフのクレア・フロー」


 フローは隙のない眼差しでルークをいなした。


「今、オレキングにしか興味ないから、ノーサンキュー」


 そう答えると、フローはふっと“消えた”。



「よっ! もぐりちゃん! 久しぶり」


「フロー?! お前がなぜこんなところに現れる!?……」


 クオが見ると、フローの手には真珠の飾りの付いた小さな王冠があった。フローはその場で小走りしたまま、それをひょいと頭に載せ、あっけらかんと言った。


「今オレ、クイーンだからさぁ。ほれ」


 フローはクオの目の前に自分のクロスをかざして見せた。赤のポーンであったフローのクロスにはめ込まれた赤い石の中の透かし模様が、正三角形の上に小ぶりの円が乗っている模様から、左を向いた猫に変わっていた。


 成り上がり者は軽快にその場で駆け足しながら、手早く説明した。


「クイーンの能力“天駆け”は、一日に六十四都市内をどこまでも行ける能力、要はスピードを出せる能力でさぁ、ふつうのポーンならクイーンに成り上がった時、ペガサスが与えられるんだけど、シーフの場合、地上をその速さで走るんでも障害物を避けきれる技を持ってるから、ペガサスはなしで自分の足で天駆けできる能力が与えられたってわけ。この韋駄天能力は、シーフには重宝でオレの狙いはこの王冠……あ、んじゃ、ゆっくりしてらんないから、オレは赤の城に戻るね!」


 そう言うとフローは魔術師が瞬間移動するように、すっと消えた。本人の話では、とほうもないスピードで、歩いて十六日程かかる距離を、走って帰っていったということになる。


 クオは、シーフの破天荒さに毒気を抜かれ、ただ長いため息をついた。「おいおい……」

王城内は、シーフが去った後もいまだ潜入者を探す声で、がやがやと騒がしかった。クオは少々立ちつくし、やがて大広間へ戻ろうとした時、後ろの角から人が現れた。


「そろそろ私たちも発つんでしょ?」


 リュックを背負った行商娘が、後ろからクオに声をかけた。クオは振り返ると、怪訝な表情でガーラに尋ねた。


「ああ……? “私たち”ってどういうことだ、ガーラ? 確かお前は王城に残るんじゃなかったか?」


 クオはそういえば、前にもこのようなシチュエーションがあったよなと思った。その時も、否応なしに相手と同行したのだった。


「レンの指示で途中まで一緒に行くことになったわ。さぁ、明日は出発ね!」


「て、おいっ! ガーラ!」


 クオはやれやれ、と心の中で呟いた。



 八月十一日の朝、クオとガーラは白の城から出発した。クオは赤の王都のそばの草原を目指し、ガーラは白の王都から四日の距離の同盟都市ハイスに向かった。道は途中まで同じだった。


「クオはレンのこと信じてないの?」


 クオはガーラとの旅の途中、ガーラから不意に質問を受けた。クオは答えにくい質問にガーラを見た。ガーラは責めることなく、クオの居心地の悪さを気にすることもなく、明るく尋ねた。


「王城にいた時も、レンから離れているように見えたから。レンもあんまりポーン達のそばにいないで女王様やラルゴのそばにいたから、よく分からないけど何となくそう思って聞いてみたの」


 その問いはクオには図星だった。クオはレンがアルビノの魔術師の末裔という話を信じていなかった。レンは紅眼白髪でアルビノの魔術師がいたらこのような感じだろう、という姿をしていたが、魔力が無いというのは納得いかなかった。どちらかというと、自分の憧れている古の魔術師の夢を壊されたくないという子どもっぽい理由だろう言われれば否定できなかった。クオは答えた。


「ああ、悪いがアルビノの魔術師の末裔とは何かの間違いではないかと思っている。これは俺がそう思うというだけで、誰かに考えを押し付けたい訳ではないが」


 ガーラは思っていた答えを得て、言った。


「ふーん。やっぱりね。私は信じているけどね。でもこれも押し付けたい訳じゃないわよ。昔の有名な魔術師の末裔って信じられないのが普通だと思うし。でも私はレンとの旅で博識なのと頭の回転が速いのは知っているから、クオとレンがお互い遠慮し合っているのが気になっただけ」


 ガーラはどちらの味方でもない、という態度をとった。ガーラにとっては些細なことのようだった。


「私がクオと旅をするのも、レンの気まぐれかも知れないしね」



「どうしてガーラさんを王城の守備から外したのですか、レンさん?」


 ラルゴは王の間でレンに尋ねた。王城の守備は多い方がいい。しかしガーラは王城から少し離れた所に陣取っていた。まるでゲームから避けるように。レンは羽扇で顔を扇ぎながら答えた。


「たぶん、ラルゴさんの情報で考えると赤のプレイヤーの一人はいつかガーラさんの元へ行きたくなると思うんです。これは僕の予想なので、外れるかも知れません。しかしガーラさんに保険を掛けておいた方が、後々僕たちの為になるでしょう」


「ああ、もしかして……」


 ラルゴはピンときた。レンは頷いた。先のことまで打てる手を打つレンにラルゴはこの少年を招いて良かった、と思った。


「それより、ロッドさん達の旅が心配です。ロッドさんの性格では受けた試練は避けないで通りますよね。それに騎士としての行動を選択しますよね。これは僕に打てる手は思い付きません――」


 アルビノの少年は白い眉をひそめた。

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