Ⅷ チェック 3. 王の間
フローは周りに誰もいないことを確かめ、首からクロスを取り出し嵌め石の模様を確かめた。三角形に小ぶりの円が乗っているポーンの印から、左側を向いた猫の横顔に変わっていた。ポーンが入城してクイーンに成り上がった証だった。フローは口元をほころばせると、今度は頭に乗っている王冠を手に取って観察した。真珠の飾りのついた小さな王冠、それはクイーンの王冠だった。フローは「ひゅう!」と口笛を吹き、満足げに頭にちょこんと乗せて戻した。窓を眺めると、日が傾きかかっていた。
次にフローは静かに気配を消し、隠れて移動しながら王城の王の間を探した。成り上がりを達成したポーンは、そのままキングを探しチェックをかけるのが一般的である。フローには必ず勝てる勝負を持っていた。
城にはゲームには関係ない一般の従者が歩いている場合があった。見つかったら、不審者として捕まってしまう。その道を通りたかったら、鞄からネズミの玩具をその場に忍ばせた。それは睡眠ガスが発生する代物で、進むのが邪魔になる人々を眠らせた。そうやってフローは進み、階を上っていった。その間、白のプレイヤーに会うことは無かった。
フローは上の階へ行くと静かな部屋を探した。王の眠る部屋は静寂が保たれているはずである。だいたいどこの城でも王の間は似たような場所にある。当たりを付けながら慎重に探し人を探した。ここで白のクイーンに会っては元の木阿弥になってしまう。クイーンは剣技もでき魔法も使える。そうなっては逃げるしかなかった。
そうしているうちに一つの部屋に辿り着いた。そこは玉座が二つ並び、その奥にベッドが置いてあった。部屋には人が誰もいなかった。フローは用心しながら部屋へ入り、寝台を覗いた。そこには、スターチス王が眠っていた。フローは『ビンゴ!』と喜んだものの、すぐ異常に気が付いた。王は赤のポーンが来ても“起きない”……。フローは咄嗟にベッドから離れて部屋を出て廊下で伏せた。寝台で眠っていた者が起き上がった。
「……だぁかぁらぁ……そうは、させませんって!!」
寝台が煙を上げて爆発した。