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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅷ チェック
113/259

Ⅷ チェック 1. ポーンの騎士

 ラベルは白の王城の東側に位置する大草原で愛馬に乗り、赤のポーンが現れるのを待っていた。赤の者が王城へ入城しようとするなら、必ずこの場所を通る。この場所を越えると、ルークが異空間魔術に来訪者を呼び込むことになる。


 ポーンの騎士バスクが白の王都シエララントから一日の距離の町に現れたのは四日前の夕方だった。それからラベルは王城からの指令で毎日その草原で相手が来るのを待っていた。しかしバスクが三日間その町から動かないのは白のポーンの行商人ガーラの話から聞いていた。バスクはガーラと取り決めをし、王城に辿り着く前に三日間町で足を止めるということだった。


 バスクの他にも赤のポーンの盗賊のフローが白の王城から二日の距離で待ち伏せするように止まっていた。シーフの移動能力は普通の人の二倍はある。いつ赤のポーンの者たちが現れるか分からないまま、ラベルは一人で城のそばで守備をしていた。


 朝霧が消えた頃、静かな草原の向こうから人影が現れた。それは大きな赤い馬とそれに沿って歩く騎士だった。ラベルは馬に乗ったままそっと姿勢を正した。


来訪者はラベルの前で足を止め、鋭い紺碧色の眼差しでラベルを見上げた。


「白のナイト、だな?」


 ラベルは馬に乗ったまま、首元からクロスを取り出し相手に示して答えた。


「はい。あなたが赤のポーンの騎士バスクさん、ですね。お話は聞いております」


「では話が早いな。俺は成り上がって騎士になり約束した相手と戦うためここに来た。俺もお前のことは王城からの伝令で聞いた。勇名馳せる騎士ロッドに勝ったつわもの、だそうだな?」


 赤のポーンの騎士の眼がぎらり、と光ったようだった。ラベルは好戦的なバスクの瞳を避けることなく受け止めた。


「ロッドは私の親友です。親友の間で勝ち負けは付けないものです。私の名前はラベル・ボーストです。ここで私とご一戦下さい、騎士バスク」


 そう言うと、ラベルは愛馬から降りて対戦相手に一礼した。バスクは愛馬の背を叩きその場で待つよう伝えると武器を構えた。


「馬から降りるのだな、お前は。俺はそのまま戦うのかと思ったが」


 ラベルも自分の銀に光る槍斧を身構えた。


「あなたは約束をきちんと守る方だったので、私も礼儀にかなった戦い方で答えようと思ったからです」


 ラベルの爽やかな笑顔にバスクはにいっと大きく笑顔を作った。


「それは結構だ。勝負は槍の打ち合いでいいな?」


「ええ」


 ラベルの了承と同時に二人は半歩下がり、それから槍を交わした。歩兵戦は互いに技術に劣ることがなく、戦いは持久戦になった。ラベルは戦いながら相手の顔を見た。バスクの顔には汗が浮かんでいた。が、どこか何かを隠し持っているような心の余裕を感じた。


 ラベルはバスクに告げた。


「このまま日が暮れるまで戦い続けますか、バスク?」


「そうだな。お前はまだ全力ではないようだが、俺は入城できるまで戦い続けるつもりだ」


 ラベルはすうっと息を吐いた。


「そうですか。お互いに勝ちを譲ることはなさそうですね」


 ラベルはまだバスクの行動に対する疑問が拭えないまま呟いた。バスクが入城しても、きっとチェックはかけないだろう。というのも、騎士同士の戦いなら、王は追い返すくらいの力量はあるはずだった。しかしこの戦いでバスクは優勢に思っているようだった。もしかしたら戦いを仕掛けるのが“一人ではない”からだったら――。


 バスクと戦いながらふとそれに気付いたラベルは後ろを振り向いた。人の気配があった。

「よ! バスク、ナイトの足止めサンキュー! んじゃ、おっ先に!」


 フローの登場に、バスクはただ口の端を釣り上げた。


 突然現れたシーフはラベルの追跡を受ける前に城の方へ駆けて行き、途中で“消えた”。白のルークの異空間魔術に誘われたのだった。


 ラベルが再び前を向くと、バスクがにかっと笑った。


「俺はお前が道を開けるまで戦い続けるぞ」


「お互い足止めということですね。私は王城からの新しい伝令が来るまで“勝負”を続けます」



 フローは草原からいきなり風景が変わって真っ白な空間にいた。足元も底なしの白で、まるで自分が浮かんでいるようだった。


「うん? シーフですかぁ? めっずらしい! でも、そうはさせませんって!」


 白のルークの異空間に引き込まれたフローの前に現れたのは、蜂蜜色の髪の青年。フロー自身だった。


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