表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅶ-ii 赤の城
104/259

Ⅶ-ii 赤の城(8月8日) 2. 赤のポーン 2

「『そうして、また一人、孤島から人が消えたのでした――』」


 語り手はそう結んで、手作りの大きな仕掛け絵本をパタンと閉じた。部屋ではブリキの人形や、猫や人が踊る木製の手回しからくり箱が、低い本棚の上一杯に並んでいた。壁ではそれぞれが違った時を指す、大小さまざまな形の古時計が、かつこつと音を刻んでいた。


 大図書館二階、“小人のからくり部屋”で、れいしと温は保育学科の友人が、“お話会”の課題が終わるのを待っていた。


「てかさぁ、誰も観客いないじゃん……」


 温は呟いた。お話台の前に据えられた子ども用の小さな赤い椅子には、れいしと温しか座っていなかった。語り手は大きなあくびを手で押さえながら答えた。


「これでも、初日はお客さんが集まったんですよ。でもその次の回になると二、三人に減っちゃいましてね、先週の金曜日には誰も来なくなっちゃったんですよねぇ」


 温が小さく「“そして誰もいなくなった”か」と毒づいた。それを横目にれいしは語り手に尋ねた。


「子どもたちが怖がるからでしょう? どうしてこの話を選んだの、冴?」


 この小説は、れいしも読んだことがあった。孤島に招かれた客が、一人づつ殺されていく話である。


 しかし殺人事件のシビアさとは全く無縁そうな、ほわんと間延びした声で、語り手は答えた。


「そういえば、そうですよねぇ。第一話で一人目が死んだ場面で、お話会に集まった子達は皆怯えてましたっけねぇ。とっても面白い話だから、絵本のからくりも丹精込めて作ったんですけどねぇ」


「相手選んで聞かせろよ……。で、人も集まらないのに、それでも単位はもらえるわけ?」


 温は厳しい質問をした。語り手はきつい言葉を受け流して、にこにこと微笑んだ。


「もちろんですよ」


 れいしは軽く溜息をついた。温と冴は幼稚園が一緒で、同じ大学に入学して再会した仲だった。冴は福祉家政学部保育学科二年だった。幼稚園の頃は二人は家が近くてよく遊んでいたが、冴が小学校に上がる頃隣の市へ引っ越しをし、大学に入るまで交流が無かった。たまたま大図書館で二人が知り合い、以降休みの日などはよくれいし、温、冴の三人で行動していた。


 冴が絵本を片付けると、三人はもう一人が待つ噴水広場へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ