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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅶ 白の城
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Ⅶ 白の城 4. 作戦会議 1

『ティーパーティーのお誘い


拝啓 白のプレイヤーの皆様


 八月も第一週が過ぎましたが、皆様、白の王城ではいかがお過ごしでしょうか?

 初めまして。

 私、赤のポーンのジャスミン・ルフェと申します。

 仕事は暗殺業など営んでおります。

 このたび、私ジャスミンが催しますお茶会に皆様をご招待いたします。


日付:八月二十五日

時間:眠くなるような午後三時

場所:森の奥、少し広くなっている場所


 当日そばをお通りの際には、ぜひご参加下さいませ。

 お越しの際には、その時間に身近な木の葉を一枚引き抜いて下さい。

 おいしい毒茶とお菓子をご用意してお待ちいたしております。

 こちらは何名様でも受け付けておりますので、これはと思われる方はどうぞご自由に足をお運び下さいませ。

 それでは、当日皆様にお会いできることを楽しみにしております。


敬具


追伸:特にアリスさんは歓迎いたします。

ジャスミン・ルフェ』



 風が届けた葉には皆そのように書かれていた。


「これは……」


 プロミーが呟くと、魔術師が答えた。


「暗殺者の魔術だろう。王の間に魔術を飛ばすなんて赤の奴も派手なことだ」


「じゃあ、これはどうしたらいいの、クオ?」


 行商人の娘が手に持った緑の葉を揺らしながら魔術師に尋ねた。魔術師は自分の招待状の葉を魔術で小さく刻み風に流した。


「捨てるだけだ」


 魔術の葉の一件が落ち着くと、再びアルビノの少年が辺りを見回して言った。


「それでは、攻め方は四手に分かれて、それぞれが別の道で赤の王城へ向かって下さい。エーデル女王陛下、恐れ入りますが、執務室の地図をここに広げて下さいませんか?」


 アルビノの少年はその場で静かに聞いていた女王に一礼して、一言頼んだ。


「ええ、いいですよ、レン」


 女王がにこやかに答えると、一つパチンと手を打った。するとタペストリーほどの大きさの大きな地図が、皆の前に現れた。その地図は、透明な壁に立てかけられるように宙に浮かんでいた。表には白の都シエララントから赤の都スウェルトまでの道のりが表わされていた。北は下であった。


 参謀の少年は先ほど職人から贈られた羽扇で右下に記された白の王都を指し、そこから東へ行き、途中からまっすぐ南へ行く道をなぞった。


「エンドさんとパズルさんは、少し迂回しますが、赤の都へ真っ直ぐ通じる“赤の王道”を行って下さい。そして赤の同盟都市まで着いたら、南西の道へそれて下さい」


「了解した」


「分かりました!」


 騎士は深く頷き、参謀のレンを見た。黒い瞳には信頼が灯っていた。職人は元気よく応えた。

次にレンは白の王都から斜めに進む道を羽扇で示した。


「クオさんは、白の同盟都市の先で南東へ分岐する“騎士の道”を旅して下さい。途中までガーラさんと一緒になるかも知れません。赤の同盟都市の近くまで来て、もし他の方と会われるようでしたら、どうぞその方と同行して下さい」


「そうか、分かった」


 魔術師は落ち着き払った声で了承した。


 それからレンは改めて白の王都を指し、そこからまっすぐ南へ向かう大きな道をなぞり、途中で交わっている斜めの大きな道へ入った。


「ロッドさんとプロミーさんは、ここから真っ直ぐ伸びる“白の王道”を行き、途中東南に交わる“僧侶の道”に折れ、赤の同盟都市まで至ったら、そのまま南に進んで下さい」


「私の故郷セラムが近いな。この道ならいい。ありがとう、レン」


 ロッドが爽やかにレンに礼を言った。


 最後にレンは、最初に示した騎士と職人の行く道から一本西寄りの道をなぞった。


「リアさんは、“赤の王道”より一本西に外れて添う、細い街道を辿って下さい」


「分かりました、レンさん」


 緑の三角帽子の少年はにこりと微笑んだ。レンは真剣な眼差しで話を続けた。


「攻め手の皆さんの最終目的地は、赤の王都から一日の距離の草原です。そこで皆さん合流して下さい。


 赤の王城に入るには、できるだけまとまった人数がいた方がいいと思いますが、チェックで一番鍵になるのはプロミーさんです。相手のルーク攻略では、パズルさんの能力が重要となります。攻め手の方々は、できたらこのお二人は失うことのないようお願いします。こちらの王城でも、お二人を援護することを最優先とします。


 リュージェさんは王城内で、王の間を守る役目をお願いします。僕も王城詰めになります」


 ロッドがアルビノの少年を見た。


「私は明日の朝旅立とうと思う」


 アルビノの少年は了承して頷いた。


「どうかご武運がありますようここで祈ってます、ロッドさん。それとどうか赤の王城まで到達して下さい、プロミーさん」


 参謀の少年は赤い目で祈るようにプロミーを見つめた。その横でポーンの騎士が言った。


「私たちも明日旅立つ」


「ええ、エンド。皆さんとは明日でお別れしますが、一緒に頑張りましょう!」


 職人が明るく辺りを励ますように言った。アルビノの少年はエンドとパズルを交互に見つめた。


「どうかお二人が赤の王都まで行けるようここで見守っております。あの、エンドさんの強いご意志が旅の苦難を乗り越えられますように。パズルさんもどうか他の方々を支えて下さるようお願いします」


そばで緑の三角帽子の召喚士も一言言った。


「僕も明日旅立ちます」


「リアさんは一人旅になりますが、お気を付け下さい。旅は慣れていると思いますが、どうか王城まで辿り着いて、戦いをサポートして下さい」


 召喚士はこくりと頷いた。


「ありがとうございます、レンさん。レンさんも戦いには慣れていないと思いますが、王のおそばにいて下さい。きっとスターチス王が望まれたことだと思いますので」


 魔術師がこほんっと咳をした。


「俺は少し王城の書庫で魔術の書物を見たいので、もう少しここにいようと思うが」


「はい。今、赤のポーンの攻め手たちが白の城に入城を狙っている所ですので、ガーラさんと一緒に少しの間ここを守って下さるとありがたいです、クオさん」


 魔術師は「そうだな」と短く答えた。隣にいた行商娘が明るく言った。


「私はレンの言うタイミングでいつでも旅に出られるわ」


 話がまとまると、それを静かに聞いていた女王エーデルが挨拶をした。


「それでは私は旅立つ者たちの幸運を願って、この城でゲームの補佐をしています。大きな戦いの場が起きた時は私が駆けつけるでしょう」


 僧侶ラルゴが後を追うように言葉を付け足した。


「情報では私がサポートいたします。旅の中でお会いすることもあるかもしれませんが、その時は宜しくお願いします。それではこれで作戦会議は終了、ということで宜しいですか、レンさん?」


「はい」


 僧侶に問われ、アルビノの少年は小さく頷いた。終了の合図とともに、一同はその場を解散し、大広間に戻る者、書庫へ足を運ぶ者、自分の泊まる客室へ休みに行く者などばらばらになった。プロミーが天窓を見上げると、空は橙色だった。



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