How to Chess 1
読者の皆さん、この本を見つけてくれてありがとう。
この物語は盤上のチェスができなくてもプレイできます。物語が始まる前に『The Chess』の世界とルールを八つにまとめてご説明します。物語はちゃんと後から始まりますので少しだけ前置きをお聞き下さいね。もし前置きが長過ぎるようなら、物語を先に進んで、後から戻っても構いません。
『The Chess』の世界へようこそ!
帽子屋&三月うさぎ
チェスは三十二人で行うゲームです。
騎士や魔法使いや色々な職業の者たちがプレイヤーとなって、西大陸の国々を舞台に駆け回りながら華やかに活躍する、一年に一度の盛大なお祭りです。
西大陸に住む人々は、チェスが開催される夏の間、どこの国のどんな街でも、ゲームの話題で持ちきりになります。
一日の仕事が終わる夕暮れには、その日の無事の感謝を祈りに教会へ訪れた旅の冒険者たちが、町の僧侶にゲームの進捗を尋ね、月が輝く時間には、人々は酒場に集まり、常連客が分厚い新聞抱えて試合を語って聞かせます。
はたまた旅人の集う領主の城では、こっそり情報を仕入れた吟遊詩人が、宴に興ずる大広間に現れて、試合を物語のごとく歌います。
人々は自分の応援しているプレイヤーの活躍に一喜一憂し、紅白どちらが勝つかを予想し合い、胸がすく好勝負に賞賛を送ります。
こうして、人々は夜更けまでゲームについて飽きることなく盛り上がるのです。
1. 円卓会議
チェスをプレイするのは、二つの国です。
一年の終わりの十二月、西大陸の国々の代表者や教会の大僧正たちが集まって、チェスの参加国を決める“円卓会議”を開きます。
チェスに参加できる国の条件は、三つあります。
1. 八つ以上の直轄領と、その他に八つ以上の同盟都市を持っていること。
2. 自分の国の隣に、一の条件の国が、だいたい三十二都市分くらい間にあること。
この、二国の間に位置する都市は、ゲーム上、中立の立場をとるので、緩衝都市と呼ばれます。(ただし例外が一つあります。海に面した国の場合、海路を緩衝都市に見立てて考えることができます)
3. 二国の直轄領と同盟都市、緩衝都市の計六十四都市は、離れ過ぎていてはならないこと。
という三つです。ちなみに、ここでいう都市とは、城下町や自治都市に限らず、小さな町や村も含まれます。
そして、この条件の揃った一対の国が、冬の円卓会議で開催国として名乗りをあげます。
会議では、各国の代表たちや、ゲームの運営に関わる領主や大僧正たちが、平等な権利の元で発言していき、意見を交わしながら次の年の開催国を決めます。
円卓会議の話し合いの末、チェスの開催国に選ばれた二つの国は、会議の最後に紅白を決めます。二国のうち一方が白、もう一方が赤を受け持ちます。
紅白の国はそれぞれ十六個の十字架のネックレスを議長から渡されます。
この時渡された十字架のネックレスは“駒のクロス”と呼ばれ、チェスのプレイヤーが一人一個づつ持つことになります。
駒のクロスはプレイヤーの証となり、失うとゲームに参加できなくなります。
チェスとは、相手の王が持つクロスを、先に捕った方が勝ちとなるゲームです。
そういうわけなので、クロスはゲーム中最も重要なアイテムとなります。
ちなみに、前回のゲームが終わってから、円卓会議で次回のチェス開催国の紅白が決まるまでの間、クロスの管理は、教会組織が行っています。教会組織は、西大陸では一番大きな無国境団体です。
この教会組織と、チェスを開催する規模を持たない領主たちは、中立的な立場で、ゲームの運営に関わることになります。