閑話〜アクセル〜
俺はアクセル•ノアイユ侯爵子息。
自他共に認めるイケメンで、本当にこの顔のせいで昔から嫌な思いしかしてこなかった。
香水臭い女、女を全面に表す女、あたかも好きじゃないフリをして襲ってくる女。女なんか碌なやつなんかいねぇ。顔と家柄しか見ていないやつばっかりでうんざりだ。
そんな俺は騎士学校に入学し、やっと女から解放された日々を送っていた。騎士学校にいる女は女じゃなく、志をもった男のような女だった。中には気持ち悪い視線もあったが、大体そんな奴は授業についていけなくて退学していった。
そんな俺に転機が訪れたのは16歳の時。同じ学校に通っているのは知っていたアシル•レニエ伯爵家子息が俺に近づいてきた。最初に近づいてきたのは14歳の時だったかな?同じ学友だし話を聞いてやったらとんでもない、妹のために力を貸してくれ、だと。
俺の女嫌いは有名な話だろうに、なんでこの男はそんな話をしてきたんだ?迷わず答えはNO。しかしこの男その後も諦めもせず毎日毎日俺に付き纏い、妹の力になってくれと…2年近くたっていい加減逃げるのもうんざりしてきたので話だけ聞いてやることにした。まさかここまでしつこいのは初めてだからな。
実際に話を聞くと興味がわいた。今まで討伐に行った際の魔石の使い方には俺も悩んでいたからな。もし効率よく使えるのであればそれに越したことはない。
もしもこの話が本当ならばな。
今まで色んな手を使われて婚約しようとしてきた輩がいるもので随分警戒心が強くなってしまって。
とりあえず爵位もウチより低いし何かあれば迷わず取り潰しまでもっていける自信があったのと、アシルという男が話す内容に嘘偽りが無く感じられたから一旦引き受けることにした。ただし、アシルの妹が俺に好意を向けたら即刻辞めることと慰謝料請求することは契約にしたが。
そして初めてレニエ伯爵家に行った日、アシルの兄がまた腹黒の嫌な感じのやつだったな。去り際に(妹のこと好きになるなよ)と言われたのは今でも忘れられない。あんなちんちくりんをなんで俺が好きになるんだ?!逆だろ普通。だから最初の挨拶で絶対に俺のこと好きになるなよ、と牽制した。(2回も)
手だけ触ることを許して欲しい、と最初に言われた時はコイツもか、と思ったけど骨を砕くと脅したらかなり真っ青になっていたのは忘れられない。でも過去には骨を折られても手を握ってきたやつもいるからな、安心はできなかった。
でも俺の懸念はすぐに払拭された。アシルの妹ミラは本当に仕事のことしか考えていなくて、次から次へと実験をしてはデータを取り、ノートに記述してたり計算している間はまるで俺のことも見えていない様子だった。
弱冠11歳だぞ?そこまでなんで真剣になれるんだ?
気になると、目が離せなくなってきて。
気がついたら週1回のこの時間が楽しみで楽しみでしかたがなかった。そして決定打の時がやってきた。
その日もいつも通り実験して、データを起こしていた。なんならもうほぼ完成でいいんじゃないのか?というところまで来ていたんじゃないかと思う。だから俺は聞いたんだ。
「もう完成でいんじゃないのか?これ以上データ取る必要があるのか?」
と。
そしたらミラは
「ダメです。騎士団の皆様始め、他にも討伐に行かれる方の安全が確実に確保されたものでなければ世に出してはならないのです。それが開発した私の、責任です。中途半端なものではダメなのです。どうか時間の許す限りお付き合いいただければありがたいです」
と、強い眼差しをむけ話した後、深々と頭を下げた。
この瞬間俺は恋に落ちた。
騎士団の女達ももちろん志はある。立派なやつらばかりだ。だがミラは今までに見たことない芯の強さがカッコよかった。また、こんなに長い時間一緒にいたとしても全く俺を仕事相手としかみてないのも良かったのかもしれない。今まで感じたことのない感情が胸の中に広がる。なにが俺に惚れるなよ?だ。あの時の自分を殴りたい。
そこからの俺は酷かった。ミラが違う魔力量のデータが欲しいから他の男を紹介しろと言われればこの世の終わりのような気分になるし、何をしてても可愛くて可愛くてしかたがなかった。だが俺には引っかかることがあったんだ。
最初にレニエ伯爵家長子であるリュカ殿に言われた言葉
「妹のこと好きになるなよ」
思わず、なるわけねーだろ、と返した俺。本当あの時の自分を殴りたい(2回目)
それにミラの真剣な姿を見ていると今更どの口が口説くんだって感じだし、気がつくとリュカ殿がこちらを見てる時があって(しかも真顔で)怖くて手が出せなかった。
この時間が終わって欲しくもなかったが、俺には時間がないのも確かで。他のやつに引き継ぐくらいなら早く終わらせたかった。
まさか俺がこんなに初恋を拗らせるとはこの時は夢にも思ってなかった。
溺愛がヤンデレになりそうなフラグ…