アシルの恋の結末
そして俺は脚繁くシェ•ベルフルールに通った。
仕事がある日でも、休みの日でも、毎日毎日かかさず。
だが緊張してうまく喋れない。挨拶がやっとだ。カロルに「アシル様、いらっしゃいませ!」と言われただけで心臓が飛び出そう。
そしてそんな事を繰り返して1ヶ月が経とうとしていた。
「はぁぁぁ。俺ってなんでこんなヘタレなんだろ…」
庭のガゼボで1人黄昏れる。
「あら、お兄様?何がヘタレなんですの?」
「うっわあああああああ。なんだミラかよ、脅かすなよ」
1人だと思っていたので急に現れた妹にびっくりする俺。
「あれ、アクセルは?」
「アクセルは私の忘れ物を侯爵家に取りに行ってくださって」
えへへ、と妹は笑う。
「へ?1人で行ったの?」
「はい、今日はオリヴィエが婚約して挨拶に来てくれるので、私が一緒に帰っている間に来たら悪いからとアクセル1人で行って下さったのです」
「あぁ〜なるほど。オリヴィエ嬢も婚約したのかぁ」
「はい、なんと幼なじみと偶然再会して、そこからトントンとゴールインなんですわ!」
へぇ〜そんなロマンチックな話もあるもんだ。
皆いいなぁ。俺も幸せ掴みたいよ。
ハァと大きなため息をついてしまう。
「で、お兄様何かお悩みなんですか?先程もヘタレと申してましたし」
もうこの際妹に相談しちゃおうか、と思って口を開こうとしたところ…
「お嬢様オリヴィエ様がお見えになりました」
と侍女が来たため話は一旦終わり。
「あら!もう来たのね!折角だからお兄様も一緒に行きましょ!」
と何故かノリノリのミラに手を引かれよく知りもしない妹の友達とその婚約者に会いにいくことに。
まぁ今日はシェ•ベルフルールが休みでなんもすることないからいいか。
サロンにいるオリヴィエ嬢に会いに行く途中にアクセルも帰ってきて俺たち3人一緒にサロンへと向かう。
「え、アシルも一緒に行くの?」
「なんだよ、俺がいちゃ悪いか?」
「あーーーー………いやべつに……」
変なこと聞くなぁ?アクセルは。
ハァ〜それにしても妹夫婦は最近人目も憚らずイチャイチャしやがる。今の俺には目に毒だわ。
「オリヴィエ!」
「ミラっ」
サロンに入るなり2人は抱き合っている。君たち別にそんな久しぶりじゃないよね?本当仲良しなのね。と思いながら俺は席に着く。
「オリヴィエ、本当におめでとう!とっても嬉しいわ」
「私たちが出会えたのはミラのおかげよ。まさか再会出来るなんて夢にも思っていなかったもの」
うんうん、熱き友情だねぇ。それで、オリヴィエ嬢の旦那様はどんな人なんだろう?と俺はチラッと隣にいる男性に目を向ける。
んー?なんかどっかで見たことあるような…。
「ミラ様、本当にあの時貴方様がご来店いただかなければうちのお店は潰れていましたし、こうやってオリヴィエと再会することも叶いませんでした。本当にありがとうございます」
この声もどっかで聞いたことあるな?
「とんでもないですわ!あそこまで繁盛店にしたのはカロル様のお力があってこそですもの!私は少しアドバイスをしただけで…あんなに美味しいクッキーをいただけるだけで幸せですわ」
「あーーーー!!!!!!!!!!!!!」
っと急に叫んだ俺に皆が注目する。
「アシルお兄様急にどうしたんですか?うるさいですわよ」
「アシル様、いつもご来店ありがとうございます!うちのクッキーを凄く気に入ってくださって本当に嬉しいです!」
とカロルに眩しい笑顔を向けられた。そう、それは俺が1ヶ月の間毎日見た笑顔だった。
嘘だろ?
カロルが男?
オリヴィエ嬢の夫になる?
人違いじゃなくて?
カタカタと震える俺をみてアクセルは俺の肩に手を置き首を横に振り
『諦めろ』
と目で訴えてきた。くそっ知ってやがったなアクセル!そしてその後は恒例の記憶が無い。
こうして俺の初恋は幕を閉じた。
さよなら恋心。
さよなら…。
おまけ
「アシルお兄様、カロル様のこと本物の女の子だと思っていたのね…」
「あぁ、僕はこのまま教えない方が面白いと思ってあえて言わなかったんだ」
「なんか本音と建前逆じゃありません?」
お付き合いいただきありがとうございました!