アクセルの浮気騒動〜後編〜
アクセル様は大分泣き腫らした顔の私を見ると、もの凄く切ない顔をされた。
どうして?私のことなんてもういらないんでしょ?なんでそんな顔をするの?
でも胸が詰まって上手く言葉が出ない。
アクセル様は私達の方にゆっくりと近づき、カメリア様に一礼をする。そして、
「ミラ…触れてもいい?」
と、いつもなら何も聞かずに抱きしめてくれるのに、私に確認を取ってきた。途端に胸が苦しくなる。
やましいことがあるの?
そう思うとあの甘ったるい声を思い出してしまう。
本当は抱きしめてほしいのに、その返事さえも上手く言葉が出てこない。
だから切なく、彼を見つめることしかできなくて。
お互いの間に沈黙が流れ…
と、思ったのも束の間でまた外が騒しくなり
「おい…アクセル早すぎだ……」
とゼェハァしたリュカお兄様と
「は、早すぎるわよいくらなんでも…」
と同じく息を切らしたご婦人がやってきた。
すると
「遅い!もっと早く来れたでしょうお姉様!」
と、カメリア様が怒鳴った。
お、お姉様?そう言われてよくよくご婦人を見ると、なんとその方は隣国の公爵家に嫁いだカメリア様のお姉様でこの国第一王女であるジゼル様だった。
「あっ…ごっご挨拶が…」
と立ちあがろうとした瞬間カメリア様に牽制された。
「いいの、ミラちゃんはここで休みながら聞いて」
とすごい圧。勿論従うしかなく、「はい 」と弱い返事を返す。
「カメリアぁそんなに怒らないでよ〜」
「ハァ?!お姉様、私の可愛い可愛い義妹がこんなに傷ついてしまったのよ!これが黙っていられますか!お父様も…まったく孫に甘いんだから!で?リュカ、ちゃんと話はつけてきたんでしょうね?」
「勿論だとも。いつまでもこんなことを続けるのならロジェとカメリアは二度と登城しないと言っていると伝えたら真っ青になってクロエを黙らせていたよ。あ、クロエを黙らせたのはアクセルか。ねぇ?お義姉様?」
ロジェとはリュカお兄様とカメリア様の長男だ。
それにクロエって…。
「もうこれ以上迷惑をかけないわ!明日にはここを発つし、また帰って来た時にはもうクロエは貴方達の目には触れさせないからっ」
とジゼル様は泣きながら話す。
…この話の流れだと…
「クロエはジゼル様の娘。つまり国王の孫ってこと」
と、いつの間にか隣に居たリュカお兄様が小声で教えてくれた。
「そんなの当たり前でしょう!!どうやったらあんなに我儘に育つのよ!少しは公爵家の娘という自覚を持たせなさいよお姉様!じゃなきゃもう私は2度とお姉様とは会わないわよ…?」
と何ともドスの効いた声と恐ろしい顔でカメリア様はジゼル様に詰め寄っている。
「いやよ!カメリア!嫌わないで!貴方に嫌われたらお姉様は生きていけない!」とジゼル様は泣き喚いている。随分カメリア様優位に話が進んでいるなぁと思っていたら
「ジゼル様はかなりのシスコンなんだよ」
とまたまたリュカお兄様が小声で教えてくれた。
***
今回の事の真相はこうだった。
昨日たまたま書類を出す関係で登城したアクセル様をみたクロエ様10歳。"あの人カッコいい!結婚したい!"となり、祖父である国王に話に行く。可愛い孫の頼みは聞きたいものの、さすがにアクセル様は既婚者。クロエ様に説明するも、彼女は蝶よ花よと育てられたためかなりの我儘な子になっており、一度欲しいと思ったものは何としてでも手に入れないと気が済まない子であった。
ずーーーっと泣き喚きジゼル様も国王様も参ってしまった様子。困り果てた国王様とジゼル様はクロエ様に、アクセル様は既婚者だから結婚は出来ないこと、でも今日だけならデートに付き合ってくれるという約束を取り付けたと話す(実際はその時点では取り付けていない)そして本日仕事に行ったアクセル様をすぐにお城に呼び出し、総出でアクセル様を説得したそうなのだが勿論アクセル様の答えはNO。かなり説得をされそれでも首を縦に振らなかったのだが、そこへ待てど暮らせどアクセル様が来ないことに痺れを切らしたクロエ様が登場。アクセル様が何を言っても聞く耳持たず。『アクセルとデートできるって言ったじゃ無い!お祖父様の嘘つき!』と泣き喚く始末。
彼女が泣き喚く際、無意識に魔力を乗せているらしく体調不良になる者が多数出たそう。昨日も多数の体調不良者を出しており、流石にこのままだとお城に勤めている人が全滅しそうな勢いだったので仕方なくアクセル様は引き受けたとの事。(ちなみにアクセル様は魔力が強すぎるので無傷だった)
ただし1時間だけでそれ以上は無理、と強く言いもしそれ以上強要するなら国を潰す、とまで言ったとのことで。流石に国1番の侯爵家を怒らせるのは得策ではないと考えた国王様もその条件をのみ、クロエもデートできるなら、と納得した。
そこからはアクセル様にとって地獄だった。1時間だけでも恋人同士の様に振る舞いたいとクロエ様が言い出したからだ。嫌だと言ったらまた泣き喚く、これ以上関係のない人を巻き込みたく無いとアクセル様は渋々引き受けた。
ただお茶でも飲んで恋人ごっこして終わりかと思いきや、街に出かけたいと言い出したのだ。アクセル様も流石にそれはまずいと思ったらしい。何故なら"私"に会うかもしれなかったから。急いでリュカお兄様に言付けをし、嫌々街へと出掛けて行った。
そしてアクセル様が1番避けたいと思っていた最悪な状況になってしまった。リュカお兄様は私を探しつつ、カメリア様の所に報告に行く途中で倒れている私たちに遭遇した。
倒れてしまった私を見てカメリア様は大激怒。
カメリア様は末娘のため国王様も正直クロエ様よりもカメリア様の方が可愛いのだ。そのためリュカお兄様経由で先程のお願いを言ったらしい。お義姉様強い。
結局アクセル様は街へ行ったため1時間では済まず、ケーキを買いお城に戻りお茶に付き合わされていたところにリュカお兄様が現れ国王様への先程のカメリア様のお願いを伝える。慌てて国王様とジゼル様達がクロエ様のところに説得へ行くと『せっかく今いいところなのに』とまた泣き喚きそうになったので、殺っちまえとリュカお兄様の合図でアクセル様がクロエ様の魔力を封じたらしい。魔力封じをすると年単位で魔力の回復がしないため初めは躊躇していたアクセル様(その間魔術を磨けないため)しかしカメリア様からの『嫁目撃、大泣き、倒れる、殺れ、許す』との手紙をリュカお兄様に見せられ躊躇なく決行。
因みにその手紙のおかげで国王様からもジゼル様からも無断でクロエ様の魔力封じをしたことは不問に。2人ともカメリア様が怖いのだ。お義姉様強い(2回目)
そして魔力がないクロエ様はほったらかしにしても問題なくなったので、アクセル様とリュカお兄様とジゼル様はカメリア様と私の待つお兄様の家に来る事になったんだけれど、馬車では遅すぎるとアクセル様は走って来たらしい。
走って来た割には全然息が上がっていなかったわよねアクセル様…。
リュカお兄様達に話を聞き、アクセル様に愛想を尽かされたのではないと知り、ホッとした。
すると隣に居たカメリア様が『やっぱ1回会って話し合わないと気が済まないわ!』とのことでリュカお兄様、そしてジゼル様と共に登城することに。「じゃあ行ってくるわねミラちゃん!」とカメリア様は意気揚々と出て行った。
そして部屋に残される私達。
リュカお兄様達に話を聞いてる時も、アクセル様はただただ隣にいてくれた。触れることもせず。
「アクセル様…。触れても…いいですか?」
アクセル様は大きく目を見開き深呼吸をする。
「もちろんだよ…僕も、触れていいかい?」
コクリと頷く。そしてお互い抱きしめ合う。
「すごく、すごくショックでした。やっぱり私のことなんていらないって、そう思って。でもお兄様の話を聞いて、アクセル様の優しさだったので…安心しました」
「当たり前だろっ…!僕はミラにすら様を付けて呼ばれているのに、ミラ以外の、身内でもない女から呼び捨てで呼ばれるなんて反吐が出そうだった。あの女の名前を呼ぶ時だって、一切の感情がのらなかったよ。1番見られたく無いミラに見られてしまったし…」
「ごめん、ごめんねミラ。僕は君を傷つけてばかりだ。こんなに愛しているのに、まだ君を不安にさせてしまう」
そう言うとアクセル様はぎゅっと強く抱きしめてきた。
あぁ、アクセル様も不安なんだ。
私の愛情は、離れていくことなんてないのに。
ぎゅっと抱きしめている体を離し、アクセル様に向き合う。
「アクセル、愛しているわ」
そして私からアクセル様へとキスをする。
「え、ミラ。さっき…」
「だって、私の旦那様だもん…」
ゴニョゴニョと、真っ赤になりながら話す。
アクセル様は破顔し、強く抱きしめてくる。
そして気がつくと…
私たちの家にいた。
にゃろう更に高度な詠唱無しの転移魔法を使ったらしい。どこまで進化するんだこの人。
「えっエマを置いてきてしまいましたわっ」
「大丈夫、居なければちゃんとこっちに帰ってくるよ」
そうして熱いキスが降ってくる。
「今日は人生最悪の日から人生最高の日になりそう。ミラ、もう一回言って?」
「あ、アクセル…」
と言いなれない名前を真っ赤になって呼ぶ私を可愛いを連呼しながら抱きしめるアクセル様。
熱くて濃厚なキスが降ってくれば…
そうその後は恒例のお天道様のみぞしる、で。
「明日の仕事は休む!」
と宣言したアクセル様に沢山愛されましたとさ。
因みにクロエ様はあの後カメリア様からありがたいお言葉をいただき(国王様も)今まで魔力のせいで泣けばなんとでもなっていたが、魔力が使えない時期に淑女教育を一から叩き直されるそう。
次に会う時はステキなレディになってることを願い。
私はリュカお兄様夫婦には絶対逆らわないと誓ったのでした。
今回はアクセル様でした!
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