アクセルの浮気騒動〜前編〜
その日私は侍女のエマと街へ買い物に出掛けていた。
「エマ、今日も素敵なパーツが沢山見つかったわ。益々デザインの幅が広がるわね」
ニコニコとしながらエマが相槌を打ってくれる。
「後は美味しいケーキを買って帰りましょう」
と、いつものケーキ屋によろうとしたその時。
「えっ?」
ケーキ屋の中に見慣れた顔が見え、咄嗟に私はエマの手を引き身を隠した。
「ねぇ、あれ…アクセル様だったわよね?」
とエマに小声で話す。
「はい、確かにあのお姿は旦那様でした」
「そうよね…今日はお仕事だったはずじゃないのかしら」
すると
「アクセル〜!早く帰って美味しいケーキを食べましょう〜」
と何とも甘ったるい声が聞こえてきた。
私とエマは思わず顔を見合わせる。
気になるが覗こうにも気が付かれては…なのでその場から動けない。
「あぁ、クロエ。早く帰って食べようか」
と、それは紛れもなく私の愛おしい人の声で。
でも出て行けないので2人がどんな状況なのか全く検討もつかない。
頭が真っ白になり私はその場から暫く動けなかった。
エマが心配そうに私の背中をさすってくれる。
信じたくない、でも確実に"アクセル"と呼ばれていた。そしてそれに応える声は聞き間違えることのない私の愛おしい方の声。
動悸がする。何故?遂に愛想を尽かされたのだろうか。身体が震え、私はその場に倒れ込んでしまった。
***
「…う、ん…」
「あ、ミラちゃん目が覚めた?」
ガバッと起き上がる。
「あぁ、ダメよそんな急に起き上がったら」
と優しく声を掛けてくれたのは何とリュカお兄様の奥様であるカメリア様だった。
「お、お義姉さま…」
「大丈夫よ何も言わなくても。エマ…に全て聞いたわ」
そう言って背中を支えてくれた。
あの後倒れた私をエマが介抱していたところにちょうどリュカお兄様が通りかかって(何という偶然)お兄様の家まで運んでくれたとのこと。
お兄様は真相を確かめに行ってくれて今は不在。
「お義姉さま…ううっ……」
あの時のことを思い出して胸が抉られる。そして涙が止まらなかった。
「いいのよいいのよミラちゃん。泣きたいわよね、思い切り泣きなさい」
そう言ってカメリア様は私を抱きしめてくれる。
やっぱりアクセル様に私は不釣り合いだったのね。
もっともっと好きって伝えればよかった。
もっともっと可愛くなればよかった。
もう何をしても遅いのだろうけれど。
涙は溢れて止まらない。
その間カメリア様はずっとずっと抱きしめてくれていた。
「…私離縁したく無いです…すっ好きなんです…愛してるんです…」
「うん大丈夫よ。…………ミラちゃんをこんな風にした奴等と片っ端から絞めあげないとね」
とカメリア様は指をボキボキと鳴らしながら満面の笑みでそう言った。
し、絞めあげる…?
カメリア様、多分だけど心の声と逆!逆!
と、何だか外が騒しい。
「あら、やっと来たかしら」
とカメリア様が呟く。
やっと来た?
と思った瞬間
バタン!!!!!と大きな音を立てて扉が開き
「ミラっ!!!」
とアクセル様が慌てた様子で入ってきた。
長くなりましたのでわけました。
いつもお読みいただきありがとうございます!
そして誤字脱字報告も本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。