事の顛末
大切にしてもらったからとかじゃなくて。
好きって言ってもらったからじゃなくて。
顔がカッコいいとか、家柄とかじゃなくて。
彼と過ごす時間が凄く大切になっていたんだ。
貰ったばかりじゃなくて、ちゃんと自分の思いを伝えればよかった。
恥ずかしいからって遇らうんじゃなくて。
扱いに慣れて来た、なんて思い上がらないで。
全部全部、カモフラージュだったとしても。
嘘だったとしても。
「はは…今更遅いや…」
思わず、ずずっと鼻を啜ってしまった。
すると隣から…
「いい加減にしろ!!今まで付き合ってやってただけありがたいと思え!!!」
と怒鳴り声が聞こえてきたかと思うとドン!と部屋を繋いでいるドアが開く。
「ミラ!!」
そこには慌てた様子でアクセル様が駆け寄ってくる。
「待ってよアクセル様!…えっなんでこの女がここに?!」
その後エヴァと呼ばれていた令嬢も駆け寄ってくる。
こんな泣き腫らした姿を見られたくなく咄嗟に顔を背ける。
「ミラ、聞いてたのかい?」
そう言ってアクセル様は私を抱きしめようとした。
「やめてください!」
咄嗟にアクセル様を拒否してしまった。あんな話の後に抱きしめられたくない。
「ミラ…」
俯いたまま私は話す。
「…色々と気が付かなくてすみません。婚約は解消しま…」
と言いかけたところでアクセル様に顔をぐっと掴まれ
なんとキスされた。
「な…なん…で…」
そして強く抱きしめられる。
「本当は大切すぎてこんな形で初めてを奪いたくなかった。僕が愛してるのは後にも先にもミラ1人だけだよ」
「でも…」
と、私はエヴァさんの方を見る。
エヴァはふるふると震え
「アクセル様酷いですわ!!!私がどれだけアクセル様のことを好きか知ってるでしょう?!」
すると今度はアクセル様が震え出した。
「……昔馴染みで可愛がってやってたのを調子に乗りやがって。いい加減にしろ!!俺はお前と結婚できるわけないだろう!昔からの勝手な妄想を押し付けるな!前はお前が良い虫除けになってたけど、ミラだけは違うんだ!ミラのことを傷つけようとした代償は大きいと思えよ、エヴァン」
と魔王さながらのオーラを出しながらエヴァン?様に話しかける。私でも恐怖で震えてしまいそう。
だけどエヴァ…ン?様は
「どおしてアクセル兄様は結婚してくれないのよぉぉ」
と、崩れ落ち泣き出してしまった。
「当たり前だろ!お前は正真正銘の男だ!この国は同性同士の結婚は認められていない!」
は?
男?
え?だってめっちゃ綺麗だよ?
状況が飲み込めずポカーンとしている私にアクセル様が優しい説明してくれる。
「ミラ、悲しませてごめんね。エヴァもといエヴァンはこんな格好をしているけど、正真正銘の男。因みに今騎士学校に行っていてなんならライアンよりも強い。昔から弟のように可愛がっていたけどいつしかコイツにとって僕は恋愛対象になっていたらしく…昔は良い虫除けで使ってたけど、ミラと出会ってからは僕にはミラしか見えなかったから。何度説明しても僕と結婚するのは自分だって言い張って……今回手紙もエヴァンの仕業でさ。僕と一緒に居るのをミラに見せつけてミラから婚約破棄をさせようと企んだんだよ。ライアンは昔からエヴァンに勝てなくて、今も舎弟みたいな扱いで。だけどライアンの中で僕に嫌われる事の方が無理と思ったみたいで早々寝返ってくれたんだけどね」
と、ドス黒いオーラを放ちながら笑顔で話してくれた。
「ミラを泣かすつもりはなかったんだ…ごめんね」
と私のおでこにキスを落とす。
「…私、アクセル様にちゃんと好きって伝えてないと思って。いつももらってばかりでそれに甘えていて…だから他に思い人がいるなら、側にいちゃいけないと思って…そしたら辛くて…」
とまたポタポタと涙が出て来てしまった。
「ミラ……ごめん、不謹慎だけど凄く嬉しい。ミラから初めて好きって言葉聞けて」
そう言うとアクセル様はまた優しいキスをしてくれた。
「………ちょっと。アタシがいるのにいちゃつきすぎじゃない?!アクセル兄様酷過ぎる!」
「酷いも何も、ミラを傷つけようとしたんだから覚悟しろよ」
と言うとエヴァン様は『は、はい』と遂に大人しくなった。
「エヴァン、いいかよく聞け?お前が愛してやまないネイルを作ったのは他でもないミラだぞ?」
え、エヴァン様ネイルが好きなの?と、驚いた顔でエヴァン様を見ると、更に驚いた顔で私を見てきた。
「え……このめちゃくちゃ可愛い、ドレスにも合わせられるこの最高のアイテム考えたの…アンタなの?!」
「因みに魔石ネイルは俺とミラの共同作品だ」
「え!!!!魔石ネイルも!!!!?」
アクセル様、"俺"って言うのね。なんだか昔戻ったみたい。と出会った頃を思い出して、ふふと笑ってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いえ。アクセル様が"俺"って言ってるのが懐かしくて」
すると拗ねたような顔をしてエヴァン様が言う。
「基本的にアクセル兄様は俺って言うわよ。アンタの前くらいじゃない?僕っていうの」
え、そうなの?とアクセル様を見上げる。少し恥ずかしそうに「ミラの前だけ、特別でいたかったんだよ」と、ボソッと教えてくれた。
すると
「おーい、終わった?もうへーき?」
とアシルお兄様とライアン様が部屋に入ってきた。
あれ、ライアン様、なんか怯えてる??
遅くなかった。