ノアイユ侯爵家
予想以上に早すぎた馬にぐったりとしていると、ヒョイと身体が持ち上がる。
「ごめんねミラ、飛ばしすぎちゃったね」
おおおおお姫様抱っこ!顔が近いぃ!
そしてそのまま着の身着の儘侯爵家へと連れていかれる。お姫様抱っこで。
侯爵様と奥様に会うのにこれでいいの?!いいのか?!
サロンへと通されるとそこにはアクセル様のお父様であるノアイユ侯爵様とお母様のクラリス様がいた。
慌てて降りようとするけど…
ちょい!降りられねぇ!アクセル様ニコニコしてるのに、めちゃくちゃ力入れて降りようとするのにびくともしない!どんだけ力があるのよ!!
羞恥心を捨てもうここは流れに身を任す。
私をお姫様抱っこしたままアクセル様はソファに腰掛ける。
「こちらが僕の婚約者のミラ・レニエです」
「はっはじめまして、ミラ・レニエです」
前代未聞だよお姫様抱っこで挨拶なんて。てかそうだよね、婚約者なんだよね。さっきサインしたばっかりなんだけど受理されたのかしら……?
「初めまして、アクセルの父のダイアン・ノアイユと妻のクラリス・ノアイユだ」
そしてご両親は何事もなく挨拶をしてくれる。
どうなっとるねん。
意気消沈してる私にクラリス様が駆け寄る。
「ミラ、貴方のおかげでオシャレが益々楽しくなったの!ありがとう素晴らしいものを開発してくれて」
ほら、とクラリス様は両手をみせてくれる。
そこには今日の淡い黄色のドレスに合わせて爪も黄色ベースに花が散りばめられて可愛いらしいクラリス様のイメージそのものだった。
「……すごい。さすが侯爵家の侍女だわ…」
私はうっとりと見入ってしまう。自分が作った、思い描いたものが確かにここにある。なんて素晴らしいし、なんて嬉しいことなんだろう。私は夢中でクラリス様の手を取り様々な角度から眺めていた。
「……ラ、ミラ!」
ハッとする。夢中になるのは悪い癖だ。
なんだろう、私をお姫様抱っこしている方は笑顔なのに笑顔が怖い…。
「アクセルったら、母にまで嫉妬しなくてもいいじゃない!せっかくの娘なんだから母も仲良くしたいわ!」
でも、だって、とアクセル様はブーブー言っている。
それにしても、娘って……。はは…。と苦笑いするしかなかった。
「ねぇミラ、私貴方にネイルしてもらいたいわ!ダメ?」
とコテンと首を傾げる。
くぅぅぅぅなんて可愛いのかしら!!!さすがこの両親にこの息子。勿論私に断る権利もないし、何より私がやりたい。
「はい!ぜ…
と言いかけたところで
ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜
と大きなお腹の音が鳴ってしまった。
穴があったら入りたい。
優しいお父様とお母様です