ついにこの時間も終わりの時を
アクセル様と実験を始めて気がつくと2年近く経った。途中、私は13歳になり学校に通いながら週末はアクセル様とネイルのプロジェクトを進めていた。
アクセル様とアシルお兄様は18歳になったら騎士学校を卒業する。つまりもう2ヶ月くらいしかアクセル様との時間は残っていないのだ。
アクセル様とアシルお兄様は卒業した後は各地の最前線に配置され2年間は実家に帰ることを許されない任務に就く。手紙のやりとりも月に一回家族または婚約者のみと定められており、その間は新たにパートナーを作ることは許されていない。
因みに私が通う学校は、前世で言う高校のようなものでマルチに全てを学ぶ、という感じだ。13歳から15歳まで通う。平民にも平民の学校が13歳から15歳まで、騎士団に入りたいものは13歳から18歳まで騎士学校に、またリュカお兄様のようにずば抜けて能力の高い者は平民でも貴族でも15歳から20歳まで官僚になる学校に通える。ただしかなり難しい試験を突破した者のみ通え、その後は王宮での仕事が確定してると言っても過言ではない。
私は学校では地味を貫いている。アクセル様と関わっている、ネイル作成に関わっていることを微塵も感じさせないためだ。絶対女のドロドロになんか巻き込まれたくない。うげ。
騎士学校に行ってるのにもかかわらず、こちらの学校の中でもアクセル様の名前を聞かない日は無かった。
特に最近はアクセル様が卒業までに婚約者を決めていないことでかなりの女子が自分にもチャンスがあるのでは?と浮き足立ってるのも目につく。なんでやねん、話したことも無いのになんで婚約できると思ってるねん。
騎士学校を卒業する前に婚約を決める者も珍しく無いし、また2年間の任務後に婚約発表をする者もいる。任務に行ってしまえば本人の意思なく勝手に婚約も結べないため、この後僅かな時間ピリピリもしくはフワフワした女の子が多いのだろう。
そんな私は週末せっせと最後の仕上げに入っていた。アクセル様が任務に行くのであれば別の方をと思っていたのだが、「ミラ、ぜぇぇぇったいに仕上げてから俺は卒業して任務に行くからな」「え、でも「他の男と一緒に開発するとか許さないからな」とかなりの圧をかけられてしまったのだ。アクセル様、思ってたよりも責任感の強い方なのね?まぁたしかに立ち上げたものを途中で他人に横取りみたいにされるのは誰だって気分よくないわよね。うんうん。
「ここをこうしてっと。……うん、塗りごこちも申し分ないわ!アクセル様、これをこうして、ご自身で塗って使ってみてください」
そう言い私はペンシル型にしたネイルカラーを渡す。
その瞬間ペンが手から滑り落ち慌てて私はペンとなんとアクセル様の手を握ってしまった。
NOOOOOOOOOOOOOOO
私は全身あおざめる。やばい殺られる。
思わず目を瞑ってしまうが手に痛みはない。恐る恐る目を開けるとそこには片方の手で私の手とペンを優しく握り、もう片方の手で顔を覆い被せうずくまっているアクセル様の姿が。
「あっアクセル様?!どうかしましたか?御気分でも?」と咄嗟にしゃがみ迂闊に顔を近づけてしまったのである。
「〜〜〜〜〜〜!!!」
アクセル様は声にならない声を出して尻餅をつく。
え、なに私の地味な顔にびっくりしたの?失礼ね。
そこへ魔王もといリュカお兄様がやってきた。
「ミラどうだい?完成した?」
「リュカお兄様!ええ、あとはアクセル様に最終チェックをしてもらって完成になるかと」
「ふ〜ん……アクセル様ねぇ…」
リュカお兄様は私とアクセル様を交互に見つめる。あら、アクセル様汗びっしょりですわよ。大丈夫かしら?
そしてアクセル様にペンシルタイプの使用感と魔力を見てもらい無事にゴーサインがでた。
「はぁぁぁ構想から5年でついにここまで来たのですね」
私は作品が出来上がったことに安堵とこれから女性のネイルを広めていかなければならない使命を感じていた。
「ミラ、伯父様にこれを量産できるよう話してきなさい。僕はこれからアクセル君に報酬やこれからのことを話さなければならないから後から合流するよ」
「畏まりましたわお兄様」
そして私はアクセル様に向き直す。
「アクセル•ノアイユ侯爵子息様。この度は私の未知のプロジェクトにご賛同いただきそして2年近く開発を手伝っていただき本当にありがとうございました。ここからがスタートだと思っております。ここから更に改良を重ね、騎士団始め皆様が使いやすい商品を作ってまいりますわ。本当にありがとうございました」
と私は気持ちを込めて最上級のカーテシーを行う。
「…あ、あぁ。こちらこそ、貴重な時間をありがとう」
と、アクセル様は何を血迷ったのか手を差し出してきた。
ん?あ?握り潰されるのかしら?
少し躊躇ってしまうと横から手を出せとドス黒いオーラがぁぁぁ。
私はそっと手を差し出すと
アクセル様は私の手をとりそっと口づけを落とした。
「!!!!!!!!!!!!!」
わずか一瞬なのに時が止まったみたいだった。と余韻に浸る暇もなく「はいはいはい、ミラは伯父様がサロンで待ってるからそっちね。アクセル君はこっち」とリュカお兄様に部屋から追い出されてしまった。
バタンと扉を閉める。
口づけされた手が…熱い。
いやしかし……冷静に考えると相手は国一番のイケメン。あんな事朝飯前か。
「眼福ありがとうありがとう」
と両手を合わせながら私は伯父の待つサロンへとむかうのだった。
イケメンの心届かず