プロローグ
うん。どうしてこうなった?
あれ?私って壁の花ならぬ壁のドライフラワーでは?
「ミラ、僕の可愛いミラ。一体君は今何を考えているんだい?折角2人きりでいるんだから、僕のことを考えてほしいな?」
そう言って私の前にお座りになって、更に私の手をガッチリホールドしてその煌びやかで色気たっぷりの笑顔を見せてくるのはこの国1番のイケメンと言っても過言ではない、この国でも指折りの権力も資産もあるノアイユ侯爵家子息のアクセル様。
美しい銀髪に整った顔立ち。背も高く、騎士団に入られていてその制服からでも美しい身体つきがわかるほど。フェロモンって本当にあるよね?ってくらい良い匂いがするし、すれ違う御令嬢で振り返らなかった方はいるとかいないとか。
まって、まじで気絶しそう。鼻血出して倒れそう。え?色気って人を殺せるんですか?
だってかたや私はしがない伯爵家の娘で顔立ちも普通。体型は普通…なんならややぽっちゃり気味(侍女曰く乳がでかいだけというが乳は立派な脂肪です)だし、夜会では騒がず目立たず空気のようにを徹底してますし、なぜ?どこに好きになってもらう要素がおありで???
キラキラと眩しいフェロモンに耐えつつ、意識をしっかりと保ち、ぎこちない笑顔を返すと少し離れた場所にいる侍女達でさえも倒れそうな更に眩しい笑顔を返される。
やばい、なんでこんなことになってるんだ?
***8年前***
私はレニエ伯爵家の娘、ミラ。
熱に1週間うなされ生死を彷徨った結果前世を思い出した。
頭の中に雪崩れ込んでくる記憶、それは確かに異国のもので。そして同時に8歳のミラの魂は天に召されたのだと、そう確信した。
「……まさか私が転生するとは……」
自然と涙が流れる。ミラへの弔いの涙だろうか?
大切に生きるね、と胸に手を当て誓う。そして頭の冴えてる今のうちに前世に関する記憶を書き起こす。
"私"は前世はネイリストとして働いていた。でも仕事のこと以外は記憶が曖昧で、何歳で死んだのか、どこに住んでたのか、家族は、などぼんやりとした記憶だった。
「まぁ思い出せる範囲でいいか。思い出せてるところに何か意味があるのかもだし」
そうなのだ、先程ぼんやりとしている記憶の部分だが思い出したとて何かあるわけでもなく。ミラとしての記憶もあるし、生活に支障は……ないはず。
「うーむ、なんか流行ってた悪役令嬢がなんちゃらとかいう世界線とかあったらどうしよう?」
ここも記憶が曖昧なのだが前世でよく流行っていた悪役令嬢がざまぁする物語が"私"は好きだったのだ。だがしかしそんな鮮明に記憶に残ってるはずもなく。
「…うん、まぁいいか。清く正しく美しく生きてればそんなことになるはずもないし!」
そう、"私"は無駄にポジティブだった。
「しっかし面白い具合に仕事のことしか思い出せないんだけど……」
不思議と前世の仕事のことは鮮明に残っていてスラスラと書き残せた。
「……なんか、ネイルやりたい…無性にデザインしたい!」
まるで今だ!と言われてるかの如くネイルのデザインが頭に浮かんでくる。こうして私は時間も忘れてデザインを書き続け………
その後目覚めたことに歓喜した両親と兄2人と侍女たちにもみくちゃにされたのだった。
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