尋問
私はまず弓手を狙った――撃ってきた方角が分かっていたことと、暗闇といえども向こうから撃てるということは、こちらからでもある程度見えるのだ。それに矢を継ぐ時間を与えたくなかった。
弓手は私が突撃してくるのを予想してなかったのか、慌てて弓矢を構えた――遅い。
袈裟切りで弓手を殺した後、こちらに近づいてくる二人の気配がした。
彼らはいきり立って私に襲い掛かる――
「でりゃあああああ!」
奇声を上げて私に斬りかかった大柄の男。上段からの振り下ろしに避けきれずに受けてしまった。こちらの剣が折れるかと錯覚するほどの衝撃。手の痺れを意識的に無視しつつ、鍔迫り合いをした――相手の力が強い。
「この――下郎が!」
力に圧されそうになる前に、私は山賊の急所目がけて蹴りを放った。
股間に私のつま先が直撃する――防護はしてなかったようだ。
短い悲鳴を上げて、その場にうずくまる――私はもう一人の男に視線をやった。
表情が引きつっている――その顔近くに剣を振った――額を浅く斬って血がどっと噴き出る。
「ちくしょう、何も見え――」
それが奴の最期の言葉となった。
私は喉笛を剣で貫く。
こぽこぽと音を立てて絶命する。
そしてうずくまっている男の首の付け根を刺した――
「あんた、大丈夫か!?」
ブロウが私に声をかける。彼の足元には三人の男が気絶していた。両手の木剣でやったのだろう。ふむ、私よりも年若いのにやるな。家来にしたいくらいだ。
「ああ、問題ない――」
私は弓手の死体から弓矢を取り、逃げようとする山賊の一人の背に向けて撃つ。
ちょうど背中の中心に当たり、山賊は一瞬止まった後、倒れてしまった。
「すまないな。新しい服を持ってきてくれたのに。汚れてしまった」
「……アンヌって言ったよな、あんた」
ブロウの声が震えている。
恐怖しているのだろう――この私に。
「どうしてあっさりと人を殺せるんだ?」
「殺さなければ、私は死んでいた」
ぶるっと血を払って剣を鞘に納める。
私の答えに満足しないらしく、ブロウは続けて「殺さなくても、方法はあるだろう」と言う。
「俺みたいに気絶させるとか」
「だけど、私みたいに殺してもいいはずだ」
「でも……」
「ブロウ。一つ勘違いしているようだから言っておく」
私は山賊の死体を見つめた。
ブロウも自然と死体を見つめる。
「こいつらは山賊だ。おそらくこれまでにも人を殺してきたのだろう。いや、もしかしたらこれが初めての戦いだったかもしれない。でもそれは関係ないんだ」
「…………」
「今まで殺してきたとか、これから殺すとか。それらは一切関係ない。彼らは私を殺そうとした。それを迎え撃っただけ。ただそれだけのことだ」
殺される前に殺す。
それまでの罪悪関係なく。
それが戦国に生きた者の考え方である。
「ブロウ。私が恐ろしいか? 怖いと思うか?」
「……うん。正直に言えば。どうして人を殺せるのかって思う」
「その気持ちを忘れるな……そして、私のような人間になるなよ」
私の言葉をブロウは噛み締めている。
私は気絶した山賊三人に近づいた。
ブロウは驚いて「そいつらも殺すのか!?」と問う。
「いや。縛って尋問する。襲ってきた理由が知りたい」
「そ、そうか。じゃあ縄を持ってくるよ――」
ブロウが物置から縄を持ってくるまで、私は夜空を見上げていた。
武士だった頃と同じ、星たちが瞬いている――
◆◇◆◇
山賊たちを『尋問』するために、まずは縛り上げた後、外に座らせた。
カレニアが見ている前ではあまりひどいことはできない。
彼女に私の無事を伝え、安心させたところで、彼らの話を聞くことにした。
水をかけて覚醒させる――三人は自分が置かれている状況を理解したようだ。
「おはよう。さて、お前たちに聞きたいことがある」
この場には私の他にジロウが同席していた。
ブロウは小屋の中にいる。カレニアを守ってほしいと頼んだ――無論、尋問を見せない口実である。
「…………」
「まず中央のお前。何故、私たちを襲った? 答えなかったら残りの二人を痛めつける」
自分が黙秘することで、他人が傷つく。
それは確実に効果がある。
現に三人の顔は引きつっている。
「……ジロウ殿。火を焚いてくれ」
「何をするつもりだ?」
「火があれば――いろいろできるからな」
ジロウは何か言いたげだったが「分かった」と頷いてくれた。
すると中央の男が「俺たちが襲ったのは、親分の命令だ!」と喚いた。
「親分……では詳しいことは聞いていないと?」
「ああそうだ! 本当だ、信じてくれ! 俺たちは下っ端で、あんたらを襲えって言われただけなんだ!」
他の二人も口々に肯定した。
必死な彼らに対して「親分の目的は知らないのか」と呟いた。
「その親分とやらは何か企んでいなかったか?」
「知らないって! 俺らだって、なんで襲わないといけないのか分からない!」
「何でもいいから知っていることを話せ」
三人は顔を見合わせて、それから何かを思い出そうとしている。
私はすらりと剣を抜いて「これは私の屋敷にあった剣だ」と言う。
「よく斬れる……名剣だ。あのときカレニアが渡してくれたのは本当に良い判断だった」
私が何を言いたいのか、分からない山賊。
「なあ。足先から順に斬っていっても、頭に到達するまで切れ味は残ったままだと――思わないか?」
三人の顔が青ざめる。
私はできる限り、優しい声で言う。
「お前たちに聞いているんだ。どう思う? 切れ味は残ったままかな?」
「た、助けてください! 何でもしますから! 殺さないで!」
左の男が命乞いをすると、他の二人も涙を流して訴えてきた。
ジロウが「三人は何も知らないようだが」と私に言う。
「これ以上尋問しても意味が無いだろう」
「……ジロウ殿。一つ訊きたい。『エイトドア』の自警団と山賊たち、どちらが人数多い?」
ジロウは「それはエイトドアの自警団だ」と答えた。
「そうでないと、山賊から街を守れない」
「そうか……」
「……君は、何を企んでいる?」
私は「お前たちにお願いがある」と言う。
三人は命乞いをやめて「なんでも聞きます」と答えた。
「お前たちは『エイトドア』襲撃を企んでいる――そう証言してほしい」
「……はあ?」
「そして、私と自警団に親分がいる根城の場所を教えるんだ」
私はにっこりと笑っていたが、三人の山賊は背筋を凍らせていた。
「それさえしてくれたら、切り刻むことはしない。約束してもいい」
「まさか、エイトドアの連中を巻き込むのか?」
ジロウは苦い顔をしたが「私一人では山賊どもを皆殺しにできない」と言う。
「そして皆殺しにしなければ、何度も襲われることになる」
「苛烈な考え方だな」
「サムライとはそういうものだろう?」
私がカマをかけると「知らん」とジロウはそっぽを向いた。
なかなか手強いな。
「とりあえず、私とカレニアはこいつらを連れてエイトドアに行く。そこまでの道順を教えてくれ」
「ブロウに案内させる。それでいいだろう?」
私はこのとき、暗い決意を固めていた。
もしもジロウがブロウを道案内に使わせなかったら――考えもしなかっただろう。
だが思いついてしまったのだ。
この世にも神仏がいるのなら。
私は裁かれるべきだろう――