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朝日が昇る

 拘束されたものの、私はすぐに解放された――しかし実家の自室に軟禁となった。

 侯爵家のギルバードを半殺しにしたのに、処分が軽すぎる気がするが、それには理由があった。いくら侯爵家でも伯爵家の出である私との婚約を一方的に破棄したのは道理に通らない話だったのだ。


 これは後から聞いた話だが、ルアバの件は既に終わったことで、それを理由に婚約を破棄するのは無理が過ぎるし、見方を変えれば下級貴族のマリンと婚姻したいがために、私との婚約を破棄したとも思える。そう判断したのは婚姻関係を司る教会だった。まあ王家は侯爵家寄りの考えだったから、それに対抗するためでもあるらしい。


 さらに言えば、決闘によってある程度決着がついていたので、これ以上大ごととして騒ぎ立てるのも良くないという侯爵家と私の実家の伯爵家の思惑で、私の自室軟禁という処分に落ち着いたのだった。


 ギルバードには何の処分も下っていなかった。十二分に痛い目に遭ったことが同情されたらしい。今となってはどうでもいいことだが、今後のことを考えると権力を持ったままの彼が復讐に走る可能性があるかもしれない。それは厄介だった。


 とはいえ、私が婚約破棄され、父のカールに怒られ、母のニコルに泣かれた事実に変わりはない。そして今も自由が無いという受け入れたくない現実と戦っていた。


 私が軟禁されて八日後。

 夜更けで屋敷の者が寝静まった頃。

 私の部屋を叩く音がした。


「……誰?」

「私です。カレニアです。ようやく抜け出せますよ」


 私がこの世界で最も信頼しているカレニア。

 多分、皆が油断するまで時期を待ったのだろう。声が若干焦っている。


 私は寝間着ではなく、いつでも外に出られる恰好をしていた。

 ドアを開けてカレニアと合流する。

 ほっとした表情の彼女。ここまで来るのに度胸が要っただろう。


「ありがとう。見張りはどうなっている?」

「薬で眠らせました。急ぎましょう」


 猫のように足音を殺しながら、屋敷を抜け出そうとする私たち。

 見張りを起こさないように、ゆっくりと傍を通り――玄関まで来た。

 ドアを開ければ外だ。


「カレニア、馬の準備は?」

「できております。屋敷の門につないで――」


 ドアを開けつつ、私はカレニアに確認した――不意に殺気。

 私は後ろに飛び退いた。前髪が数本切れ――剣の横薙ぎだ――カレニアが悲鳴を上げた。


「ちっ。なかなかやるな」


 毒づいた男以外に三人――全員フードを被った黒ずくめの男たちだった。

 私は「ギルバードの手先か」と落ち着いて言う。


「私を殺す理由があるのは、彼だけだから」

「ご明察。というより冷静だな」

「ふん。依頼主を明かすような三流の殺し屋など、私の敵ではない」


 当たり前のことを言うと「これから死ぬ者に対し、嘘をつく理由はない」と強気で返された。

 剣とナイフを構える四人の暗殺者。

 こちらは徒手空拳で戦うしかないのか――


「お嬢様! これをお使いください!」


 いつの間にか、カレニアが階段の踊り場にかけられていた鞘付きの剣を私に投げて寄こした。素晴らしい判断だった。流石は私の教育係だ。機転が利く。


「……皆の者、油断するなよ」


 すらりと剣を抜いた私。

 四人の男たちは各々の得物をもって、私を殺さんとかかってきた――



◆◇◆◇



 一人の男がナイフを中腰で構えて私の腹部を刺そうと突撃する。

 凄まじい速度だったけど、私は沈着冷静にナイフを構えた利き手とは逆のほうに避けた。


 続いて二人の男――片方は最初に斬りかかってきた男だ――が剣を振るう。

 二人と剣を交えながら壁際まで寄った。背後を取られないようにするためだ。

 男の剣が壁に突き刺さった――私はその男の腹を蹴った。くの字に曲がるの余所に、もう一人が目で追ったのが分かったので、斬りかかる。


 鮮血が飛び散り、床が血で汚れる。

 浅く切ったつもりだったが、案外深手を負わせたらしい。

 残るは三人――


 負傷していない二人は持っていたナイフを私に投げてくる。

 他愛なく打ち落とすと今度は腰に携えていた剣を抜いた。

 さて、どうしようか……


「警護の皆さん! こっちです! 侵入者がいます!」


 カレニアが大声で叫んだ。

 暗殺者たちは顔を見合わせて、負傷した男を担いで逃げた。

 呼吸を整えて、剣を鞘に納めた私はカレニアの元へ向かった。

 彼女は腰を抜かしていた。


「ありがとう、カレニア。お前の嘘のおかげで命拾いした」

「い、いえ……」


 カレニアが落ち着くのを待つ時間は無かった。

 私は彼女の手を取って急いで馬のいるところまで走った。

 ついでに剣を持っていくことも忘れなかった。



◆◇◆◇



「これから、どうするつもりなんですか?」

「軟禁されていたときに考えていたことがあるんだ」


 馬に乗って駆け出した私たち。

 一頭を二人で乗っている。


「あのまま屋敷にいたところで、私は軟禁され続けるか、知らない貴族の妻にされるだろう。そして自由は無くなる。そんなのは御免だ」

「では――このまま他国へ行くのですか?」


 私は「今まで準備をしていた」と言う。


「東方にいるとされるサムライ。私は彼らに会いたい」

「会いたいって……東方に行くには距離がありますよ」

「ああ。森の国、湖の国、鉄の国、砂の国を越えて、ようやくたどり着く――」


 私は馬を止めた。

 ここが伯爵家の領地の境目だったからだ。


「お嬢様……?」

「カレニア。お前はこれからどうする? 屋敷に戻るのか?」

「……お嬢様を逃がした時点で私は解雇されるでしょう」


 私はカレニアの顔を見る。

 後悔は無さそうだが、少しだけ不安を感じている表情だ。


「それに罰もあるでしょう。私は甘んじて受け入れます」

「カレニア。私と一緒に――サムライの国に行かないか?」


 カレニアは目を見開いて「よろしいのですか?」と驚いた。

 まさか誘われるとは思っていなかったようだ。


「てっきり、お嬢様は一人旅をしたいのかと」

「そんなことはない。カレニアが来てくれたらとても頼りになる」

「……私の去就を気になさっての言葉ではないんですね」

「ああ。私はお前と旅がしたいんだ。それに別れるとなると……」

「どうしたんですか?」

「……少し寂しい」


 私自身驚くような愁傷な言葉が出た。

 カレニアも驚いたようだ。

 しばらく悩んだ後「分かりました」と彼女は頷いた。


「私は、お嬢様――アンヌ様の教育係ですから。これからもお傍に仕えさせていただきます」

「ありがとう。そして今後もよろしく頼む」


 私たちは再び馬を走らせた。

 目の前に朝日が昇ってきた。

 その方角に向かえば――サムライの国に行ける。

 久方ぶりに心が躍った。

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