暗号小説の為の習作
文章中に散らばる特定の言葉を消す事で違う文章が現れる仕掛け。習作につきそこまでの意外性はなし。
ゲセブ教の総本山である宗教都市ゲセブリア。
ある晴れた日の陽光。その、日差しは爽やかで、中心に建つゲセブ教最大の聖地であるゲセブリア大聖堂は、キラキラと輝いていた。かつて、この地は、魔王四将軍の一人メルヌリスの襲撃を受け、壊滅的な被害を受けた。聖堂の片隅では、慰霊祭で使った魂の船(ゲセブ教の先祖供養などで使われる紙製の船。精霊馬と同じもので、先祖の魂を送り届ける役目を終えたら燃やすのが慣わし)が燃え盛る炎に包まれていた。
僕は、それの光景をぼんやりと見つめながら、放蕩の果てに夭折した祖父カールソンの言葉を思い出していた。
『目に見えるものが全てではない』
それが祖父の口癖だったらしい。
僕は、吟遊詩人であった祖父が残した詩が書かれた紙を取り出すと、小さな声で読み上げた。
「ある晴れた日の陽光。
日差しは爽やかで、キラキラと輝いていた。
かつて、この地は、壊滅的な被害を受けた。
聖堂の片隅では、慰霊祭で使った魂の船(ゲセブ教の先祖供養などで使われる紙製の船。精霊馬と同じもので、先祖の魂を送り届ける役目を終えたら燃やすのが慣わし)が……意味がわからないな」
僕がそう呟くと、白髭を蓄えた神秘的な老人が東の門からこちらに向かって歩いてきた。巡礼者だろうか?と僕は思いながら道を譲った。
老人は、軽く会釈をすると僕の持っていた紙を見て嬉しそうに目を細めた。
「な、なんですか?」
僕は少し気味悪がりながらそう言った。
「いや、これは失礼した……。懐かしかったものですからな。つい、」
老人は、そう言うと軽く笑った。
「懐かしい?」
「ええ。亡き友、カールソンの詩によく似ていましたのでな、」
「祖父を知っているんですか?」
「ええ……。それは、もう。よく二人で語り合ったものです。ある特定の言葉を消すと真実がわかる仕掛けとか、そんな事を、ね」
老人は、過ぎ去った日々を懐かしむかのように目を細めながらそう言うと空を見上げた。つられて、僕も空を見える。青々とした空は、雲一つなくカラリと晴れていた。