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実験的な十四の短編  作者: フルビルタス太郎
第四章 読者参加型の実験的な小説
10/14

本を逆さまにして読む(はずだった)小説

 本来は、上下反転させた小説を読者に本を逆さまにして読ませるコンセプトの小説でしたが、ウェブ小説では無理なので、前書きにコンセプトを掲載いたしました。

 自作小説の切り貼りナンセンス小説をお楽しみください。

 薄暗い部屋の中で僕は、顔をしかめながら目の前のモニターをチェックしていた。

 僕の目の前には整然と並べられた二十四台のモニターには様々な地点の映像が映し出されていた。

 僕は無線のマイクに向かって「聞こえるか?」と言った。

『聞こえるよ』とスピーカーの向こうから同僚の明るい声が聞こえてきた。

「何かあったか?」

『いや何もないよ。そっちは、どう?』とスピーカーの向こうで君はそう言った。

「いや、君が映っている以外は何もないね」僕はマイクに向かってそう言った。

『じゃあ、この階を見回ったら戻るよ』

「オーケー。何かあったら連絡しろよ。あと、センサーに引っ掛かんないようにな」僕がそう言うとスピーカーの向こうで君が『わかった』と言った。

 マイクのスイッチを刻むと僕は無精髭がはえた顎を軽く触った。

 ふと、腕時計を見ると時刻は午前一時を少し回っていた。僕達の勤務は午前零時から午前八時までだった。

「何かあったのか?」奥のトイレから出て来た彼が奇妙そうな面持ちでそう言った。「さっき、あいつと無線で何か話してたみたいだが…」

「ん、ああ…。本日も異常がないってことを話してたよ」

「良いことじゃないか」彼はそう言うとコーヒーのサーバーに紙コップを据え付ける、赤いボタンを押した。「ピースが一番さ。争いは何も生まないからな」

「確かに」そう言うと僕は目薬を差し、まぶたを数回パチパチとさせた。

「だけど、気を抜くなよ?なんかあったら俺たちの責任になるんだから」彼はコーヒーで満たされた紙コップを持ちながら僕の背中に向かって言った。「コーヒー、飲むか?」

「飲む、ミルク多めで頼む」振り向かずに僕は右手を上げながらそう言うとまた、モニターを見つめはじめた。

「そういや、ここ、亡霊が出るらしいな」彼は、サーバーの赤いボタンと『ミルク』と書かれた緑のボタンを押しながらそう言った。

「亡霊?」僕はモニターを見つめながら少し笑いが混じった声でそう言った。

「亡霊が出るそうだ」彼はそう言った。

「へぇ、そうなんだ」僕は軽く笑いながらそう言うと椅子をくるりと一回転させた。

「あ、信じてないだろ?」彼は少しニヤつきながら意地悪そうに言うとサーバーからコーヒーが注がれた紙コップを取り、僕に手渡した。

 僕は軽く「サンキュ」と言って彼から紙コップを受け取った。紙コップの中のコーヒーには微かに白い渦が浮かんでいた。

「お前だってそうだろう?」僕はコーヒーを飲みながらそう言った。

 彼は近くのパイプ椅子に座ると「まあね」と軽く笑いながら言った。

 二人がそんな、たわいもない話をしていると廊下の方からドタドタとこちらに駆けてくる足音が聞こえて来た。

 ドアが勢いよく開き、巡回中の君が血相を変えて飛び込んで来た。

「おい、どうしたんだ?そんなに慌てて」

「何かあったのか?」

 僕と彼は事件や事故などが起きたのかと思い不安になり、眉をひそめながらそう言った。

「…」

 君が震える声で小さく呟いた。

 声はエアコンのことにかき消されて二人の耳には届かなかった。

「…あっ?」

「亡霊、幽霊が出たんだッ!」

 僕と彼は顔を見合わせると、ぷっと吹き出し、それからハッハハッと腹を抱えながら大声で笑った。

「本当だってッ!」君は声を荒らげながらそう言った。

 斜め向かいの駅のホームでは、何人かの男女が臀部に電気チューブを差し込みながらスコスコダンス(スコール・スコレリアス様式舞踊の俗称)をしていて、電気が流れる度に歓喜の雄叫びを上げていた。点字ブロックの内側には小さな犬がズラリと並んでいて、その内側にはメンヘラ気味のメレンゲがふんわりと背伸びをしていて、その前に置かれたテーブルの上にはパルドゥーアのカアンゴゾゾボナ煮が湯気を立てていて、その向こうには、よく冷えたレテックペッツが置かれ――


――カンカンカン。


 踏切が開く音が聞こえたので、僕は黄色い線の内側に立った。しばらくして、左側からルー・クレムナール駅行きの下り電車がホームに滑り込んできて、グレゴールが「アウトッ!」と叫ぶと同時に電車の扉が開いた。

「どうか彼を信じてやって下さい」

 扉から出てきた老女がそう言いながら半泣きで僕の足にしがみついてきた。

 もう誰のものでもない真っ暗なこの世界で華やいだ二人だけの時間。その淋しさはおそろしいまでに自己中心的なもので、僕とアナベルは困惑していた。

「俺はあんたと違うんだよ」

 リチャードはそういうと老女を乱暴に引き剥がしてドアの向こうに消えていった。

 机には萎れた一輪の花とくしゃくしゃになった手紙が置かれていた。

「それで傷つく人がいるかもしれないのに」

 君は涙を拭いながらそう言った。

 昨日は悲しくてもあの星の記憶だけは忘れないでおこう。遠い遠い昔に栄えた青い星。私たちの母なる大地。だけど内心は逆で、そのつもりもない。しかし、私は軽く目を閉じた。もう耐えきれないから……。

 目に見える相手から取り損ねたあの日に私は帰りたかった。しかし、それは無理で彼女は机の上に置かれた手紙を声に出して読んだ後、それを握りしめてながら泣いていた。

 僕達はどうしたらいいのかわからなかったので、とりあえず部屋を出ることにした。

 玄関のドアを開けて無機質な金属で覆われた廊下に出る。

「どこへ行くんだ?」

 廊下に据え付けらた古びた木製のベンチに座っていた初老の男が声をかけてきた。肌は皺くちゃで、至る所に茶色いシミがあった。

「外には荒れ果てた地以外何もないぞ」

 男は皺だらけの顔を歪めながらその言った。

「それは分かってるけど」

 僕は身じろぎひとつしない

 陽光が消えていく放課後にどんなにあがいたって僕のために生まれてきたあの子の為に何かしたかった。

 今はまだ早すぎる。

 そう思っても僕はバカだから何も出来なかった。

 両方の頬に涙が伝わってきて、無数に並ぶドアの向こうから歌声が聞こえてきた。

 そうだ、楽しいことを考えよう。

「僕たちの世代は何かを失うとき、いつもあっという間なんだ。じっと見つめることしかできないからさ」

 物語の後に残されたのはポケットに入れた希望だけだった僕らは、どうしていいか分からない人のために自分で選んだのだから争いもないまま花が置かれたあった日に帰ろうとした。

 冷や汗が背中を伝っていく。何ヶ月たったか 覚えていないが、じっと動かず…君に会いたいと彼は言っていた中、絶望の音楽を奏でながら意味もなくこの地点で時を過ごしていた。

 いつの日か良かったと思えるようにと、僕は彼にゆっくりと近づいていった。

「やはり、制作する上で文脈やコンセプトというものを意識しなければいけないと思うんだ。最近、そういうことを随分と考えているんだ。僕は基本的にパッと出のアイデアとか直感とかで、だーッと突っ走ってしまうタイプなので、今まではコンセプトとか文脈というものを深く考えて制作するということはして来なかったんだ。かといって、コンセプトを真剣に考えてから制作に入ろうとすると、今度はコンセプトだけで自己満足してしまい、実制作の方に中々行かないということになってしまうから」

「それは分かってるけど。何故、今それを言うの?」

「さあ?」

 君は顔をしかめた。

 二人ともきっと後悔する。

 かつて、陽気な人間達の舞踏会があの星で開催されていた。電気チューブを突っ込んで。

「楽しそうに見える?」

「いや、見えないよ」

 僕は君に向かってそう言った。

「自分自身の作品が残り続ける…。素晴らしいことだとは思わない?」

 君は突然、そう言った。

「贋作だとしても?」

 僕は言った。

「ああ…」

「うわぁ、キレイ」

 君は突然、くるくると回りながら言った。

 周りには何もないのに。

「でしょう。

 ちょうど、今が見頃なんですよ」僕は意味もなくそう言った。何が見頃なのだろう?

「それにしても人が多いですね。

 何かのお祭りですか?」君はそう言うが、あたりに人はいない。

「バカじゃないのか?」

 僕はそう言いながら踊り、太陽を見たのはいつだったか、と意味もなく思った。

 この世に意味のあることは何一つないのだと思う。

 僕達が勝手にそう定義しているだけであって、実際には全てのものに意味は無く、この世にある全てが意味不明でひどく曖昧な存在だと、祖父が言っていた。

 ある人はそれを存在の神秘と呼んでいる。しかし、実際に僕達の目に映っているのは、僕達が勝手に定義された以外の何者でもなく、それ以上でもそれ以下でもない。

 そして、それは日常生活では何の役にも立たないし、僕は君をいとおしく想い、そして同じくらい憎くらしく思っている。

 人を好きになるには、いろんな形があるのだと思う。

 そして、そのどれもがすごい怖い副作用を持っていることに僕たちが感づくのはますます先のことだと思う。

 なぜ、このような作品を作ったのかと言いますと、それはAIに対抗する為に、AIには出来ない表現を模索した結果です。

 そう、絵画が写真に対抗しようと様々な表現を生み出したように……。

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