マジでこの主人公は協調性のカケラも無い
設定とかあーだこーだ話す回
「…………」
「どうやら本当に覚醒させたようだな。【勇者】の力を」
アナローシマが軽口のように俺に話しかけてくる。
「…………」
「さきほども言ったと思うが、私は【勇者】と【英雄】の違いとは何なのかと考えていた。それが分かるかもしれないな」
嬉々として、楽しそうに。愉快そうに。反吐が出るほど不快な声で。
「…………知りたければ教えてやる」
「ほう? ならばぜひ教授願いたいね。生まれたばかりの私だが、この人格のベースとなっている者がやかましくてね」
「…………認めるしかない。この事実を」
「うん? どういう意味かな?」
「魂に刻まれていたのは、『変化』の魔術だけじゃない。
先代、先々代に、この『魂』を持って生まれた【勇者】の記録があった。」
ああ、少し邪魔だなこの鍵剣。地面に突き刺しておくか。どうせもう道路はボロボロだ。少しくらい補修箇所が増えても、もう怒られはするまい。
「【英雄】とは【勇者】のように『魂』が継承されて生まれてくるものではない。ある日突然、強大な力を持って生誕し、その力を悪行に注がず。世界の破滅を望まず。『人類』の為に戦争を戦った【魔王】の別名。
『運命』に抗った者。限りなく不可能な奇跡を成立させた希少種だ」
「……【英雄】が【魔王】と同質? なるほど。それが真実なら、確かに【勇者】とは別物だな」
「そして【勇者】は『運命』に導かれ、『運命』を味方に付け『大切な個人』を護り抜くことを報酬として【魔王】を打倒する者。生まれながらに才を持ち、人々に愛される人格を持ち、人類に初めから祝福されるもの」
昔から運が良かった俺と、運に恵まれなかった月兎。双子でもこうまで違うのは、初めから決まっていたことだったからなんだろう。
「…………なるほど。答えを得たよ。中々興味深いものだった。もっとも、知ってしまった今はツマラナイ話だったがね。
『大切な個人を護り抜くことが報酬』か。だから貴様は、私の分身を一撃で葬り去る力を手にしながら、足元の友人をむざむざ死なせたわけか」
「…………」
俺の足元には、三咲が眠っている。俺が『分身体』を仕留める直前に、口内を奴の杖で刺し穿たれて絶命した友達の遺体が。あれだけの俊足で駆け抜けていたにも関わらず、刺された瞬間にビクリと痙攣していた友達の姿が、スロー再生のようにゆっくりと、鮮明に視界に焼き付けられた……友達が。
「……こう、き。」
そして、スピリットが言った俺の大切な個人。日野陽香は、何事もなく無事に生きている。
ピーポー!ピーポー!ピーポー!ピーポー!
パトカーのサイレンが遠慮なしに響き渡る。特に、感想は無い。もっと早く来たところで、周囲の躯が増えただけだろうから。
「……無粋な音が聞こえるな。
ここで決着をつけてもいいが、キミは友人の遺体を放っておけはしないだろう?」
「…………行けよ」
「ああ。そうさせてもらおう。
さて、先ほどの回答のお礼だ。戦う場所の指定はあるかね?
と言っても、おそらく封鎖されるであろうこの場所くらいしか思い当たらないがね」
「…………仇は必ず取る」
「仇とは私かね? 魔王かね? はたまた…………『運命』だったりするのかな?」
皮肉だけで形成されたようなセリフを残しながら、杖を振ったアナローシマは、光の粒子になって、赤く染まった月へと昇って行った。
本当は今すぐにでも倒したい。けど、今戦うと……。
「………………」
まるで道端に放置された動物のように投げ出された友達の遺体を、傷つけることになる。
すでに損壊の激しい遺体だが、これから遺族の元へ運ばれることになる。せめて、それが誰のものなのか。遺族が確認して納得できる範囲内に抑えておかなければ。残された家族が、死を受け入れられないかもしれない。
「……光輝」
「……ごめん。陽香。ごめん。みんな……護れなかった」
この言葉は俺の弱さ、身勝手。言うべきでない言葉を、飲み込む前に吐き出してしまった。大切な友達を失ったのは、陽香も一緒なのに。謝らても、困らせるだけなのに。
「……………う、ん。そう……だ、ね。」
なのに陽香は、言葉に詰まりながら、それでも俺の言葉をなんとか肯定しようとしている。なんて、愚かなことをしたんだ俺は。泣きたいのは、苦しいのは、陽香も一緒なのに、俺はひとり甘ったれて……?
「ごめん、陽香。何でもない。今言ったことは忘れて――」
「ボクが謝られたんだから……ボクが、光輝を許すよ。」
「――っっ!!」
心臓が止まりそうな衝撃だった。
「…………ボクも、何も、出来なかった、ね」
「……………………ああ」
傷ついた心が、一気に癒されていくのを感じる。
「光輝……許して、くれる?」
惨めだった気持ちが、慰められていくのが、分かる。
勇者だって言われた時、俺は誇らしさを感じていたんだ。自分が特別扱いされることは慣れていた。学校で教わったことは何でも出来たし、スポーツだって、挫折したことはない。少し教わると、それだけの情報で、自分の中で発展させて、自分用に動作を最適化することが出来た。好奇心の強さも手伝って、色んな知識を吸収したりしていた。一度読んだ本の内容を記憶することも出来た。天才だって言われることには、慣れすぎていた。
でも、俺自身は自分が天才なんかじゃないって気付いていたんだ。俺は、既に確立している物を取り込んで自分が使えるようにしているだけ。
俺自身は、何も生み出せないんだ。
俺自身が、特別なことなんてない。俺がもし、人類最初期に生まれた人間の一人だったなら、きっと、大した存在じゃない。俺よりも前の時代に生きた偉人たちが残してくれた知識や技術の遺産が無ければ、俺は無力だ。俺は、少し小賢しいだけの人間だったんだ。
だから嬉しかったんだ。【勇者】という特別だったことを知って。正直少し浮かれてもいた。そして、その直後に敵が来た。勇者なら倒せるんだろうと思っていた。大切な友達と、ずっと一緒に居られると思ってたんだ。なのに、現実は逆だ。俺は、とんでもない偽善者だったんだ。こんな状況で『最も大切なもの』が、陽香だけだったんだと思い知らされた。
俺が陽香を好きだったことを、運命に見透かされていたんだ。
ああ。認めるよ。俺は【勇者】だ。俺は陽香が一番大切なんだ。
だから、心は全く折れていない。陽香が生きていることが、運命からの報酬だって言うなら、アナローシマも【魔王】も必ず殺す。だって、俺は【勇者】で――
「――ああ。もちろん。俺が陽香を許すよ」
大切なものは一つたりとも失われてはない。契約が続く限り、陽香とずっと一緒に居られるのだから。
午後九時 視点:日野陽香
警察署、待合室。
ノックもなく部屋に誰かが入ってきた。その顔を見てボクは無意識に安心した。月入ってきたのは月兎だった。
「うーす。お兄ちゃん~サツにお世話になった悲しい家族とご近所さんを、出来る兄の出涸らしが迎えに来たぞー絶対いらないよねーこのお迎え。
あと、ここまで歩きで来たから、帰りは政府のイッヌに慈善タクシーしてもらうわ。アレ? いよいよガチでこれ俺いる? 俺の自由な時間も市民の血税も、意味なく価値なく余分にドブに捨ててね? これが国家の実状かよ~無いわー」
街はボロボロに壊されて、たくさんの人の損壊死体が放置されている。そんな状態で警察がやってきたことで、ボクと光輝は事情聴取を受けていた。本来なら、ボクか、光輝たちの両親が呼ばれるのが普通なんだけど……。
「来てくれてありがとう。月兎。ごめんね。夕方に言いそびれちゃったけど、今日はお父さんもお母さんも帰ってこれなくて」
「へー奇遇ですねーウチも親が今日中に来れないんですよー。
だからってサツに迎えに来るのが同い年の中坊なのは、やはり間違っている」
ガリガリと頭を掻いて欠伸をしている月兎。いつもと同じ光景。いつもと同じ身振り。
そして、とても好意的とは言えないけれど、例え独り言でも、月兎の声が聞けた。それが物凄く嬉しくて、ようやく気持ちが落ち着きを取り戻したのを、頬を伝う涙で自覚した。
「月兎、あのね……」
「あん?」
「三咲と、アユと、トオルが…………ね」
伝えなくちゃ。さっき起きたこと。じゃないと、もしかしたら月兎も死んじゃうかもしれない。そんなのは嫌。月兎がいない世界じゃ、ボクは生きていけない。四年前に自覚させられた真実を、今更否定出来ない。ボクは、月兎が好きだから。
「何、死んだん? 無差別テロだっけ?」
これも、いつも通りの軽口。クラスでも、学校でも、その外でも、耳にするような言葉。
それでも少し動揺してしまう。
「月兎!」
「んー?」
「お前……お前なんてこと言ってくれるんだ!!」
「こ、光輝やめて……!!」
分かってる。月兎は何も知らない。ボクと光輝が、街で起きた爆破事件の現場にいて、事情聴取を受けて、警察署にいるから迎えに来て欲しい。それしか伝えてない。伝えられていないんだから。月兎は何も特別なことなんて言ってない。クラスでも普通に飛び交うような言葉。軽々しく言っていいような言葉じゃないけれど、それでも月兎に責任なんてない。
だから、止めてよ光輝。こんなの理不尽だよ。普段聞いている言葉を使っただけで責められるなんて、そんなの月兎が可哀そう。止めなくちゃ。なのに……
「お前はどうしていつもそうなんだよ!! 何でこんな場所に保護者でもない同い年の兄弟が呼ばれることになったのか少しくらい考えろよ!!」
「知らんがな」
「やめ……て……」
足に力が入らなくなって、膝から崩れ落ちてしまった。光輝を……止めなくちゃいけない。止めないと……。
「トオルも、三咲も、アユも! みんな殺されたんだぞ!!」
(光輝にバレちゃう。二人の一緒が、終わっちゃう……)
立ち上がれない足を引きずって、ボクはどうにか月兎の足を掴む。
「あらま。そりゃあ、ご愁傷様。んで、それ――」
「月兎!」
「ん?」
間に合った。なんとか間に合った。その先を月兎に言わせたら、絶対に今の光輝は落ち着いていられない。光輝は気付いてない。月兎が本心から『赤の他人が生きようが死のうがどうでもいい』と思っていることを。
「お願い。何も言わずに、光輝の話を聞いてあげて。」
「は? 何で?」
「お願い! お願いだから、何も言わないで……っ! 月兎、お願い!!」
叫ぶように懇願するけど、やっぱり今の月兎には響いてない。
「わざわざ家でのんびりしてたとこ呼びつけられて、ヒステリックのサンドバックになれってのかよ? 冗談だろ。人間いつか死ぬぞ。例外はねえ。
第一、赤の他人が生きようが死のうがどうでもいい。俺がそう思われているようにな」
「……っ、お前……! お前えええーー!!」
(ダメだ。やっぱり月兎は、ボクの話なんて……もしかしたら誰の話も聞くことは無いのかもしれない。でも、今だけはなんとか止めないとダメ。取り返しがつかない。どうしたら…どうしたらいいの?だれか、誰かこの二人を止めて……っ!!)
「おいウサギ小僧」
光輝が月兎の胸倉をつかんで拳を握った時、とても低く野太い声が二人に静止を促した。
「あ、ブタゴリラじゃん」
「テメェ……天下の桜の代紋の元で、よもや喧嘩なんざしようとしとるんじゃあ、ねえだろうのう?」
足がすくむ程の威圧感を放ちながら静かに言葉を紡ぐ。
「なーに言ってんだよ、ゴリラのオッサン。これ見えないの? この胸倉掴まれて無抵抗な一般市民の姿が。どう見ても俺がいじめられてるだろうがよ」
「…………」
光輝は風貌に驚いたのか、自然と胸元を掴む手を放していた。良かった。喧嘩は止まったよ。でも、その人は、月兎のことが嫌いなのか、依然として威圧するのをやめてくれない。
「そう言っておめえが、昔その左腕で暴走小僧の頭割ったのは忘れてねえけんのう?」
その人は、坊主頭に刀疵が目立つ、骨が潰れた鼻に、筋骨隆々な肉体。ゴリラとヤクザを足して二で割ったかのような風貌の中年男性だった。
「ったく、これだからゴリラは。見た目二足歩行の猿でも、脳みそがヒト科に追いついてねえっつーか。相手は5人いたんだから、正当防衛でショ?」
「五人全員の脳みそが露出してて正当なわけあるかいボケがァ……!!」
「その分罪のないドナー待ちの人が助かったんだから、街のゴミ掃除に貢献した善良な一般市民じゃん。怒っちゃいや~ん」
月兎は、そんな恐ろしい風貌の人にも、まったく臆せずに軽い口調で話している。
「ね、ねえ、月兎。この人は、知り合いなの?警察官に見えるんだけど」
「んー。俺のおっかけ?」
それまで単語や、ワザとっぽく敬語で話すだけだった月兎が、砕けた口調でボクに返答してくれた。ちょっと嬉しい……。
「なあに、テメエ一人じゃねえぞ。おっかけやってんのはァ。テメエみてえな悪ガキは残らずおっかけて。ブッ殺す。それが俺の仕事だ」
「きゃー。ポリスがブッ殺すっていったー。こわーい。こんなオッサンに血税で給料払わされてる国民が気の毒だと思わないんですかー」
「おめえみてえな社会舐めてるガキに、せっかく作った道路やら建物やらガラス窓やらがぶっ壊される職人の方がよっぽど気の毒だよ」
「おっと。サルにしては痛いとこ突くわ。それを言われると、特に罪悪感が無い心が痛む素振りをするしかない。
んで、両親不在、証拠皆無の爆破事件。その容疑者のガキのお迎えなんて名目で俺を呼び出したのは、そこが理由なんか? それとも俺に会いたくて震えたか? 相良のオッサン」
オジサンの名前は相良って言うんだ。
「誰が好き好んでオメエなんか呼ぶかボケが。呼び出したのは、こちらの美人さんだ」
相良さんが大木のような大きな腕で示した部屋の隅には、赤い長髪のスタイルの良い女性が立っていた。
「みなさん、初めまして。わたしは私立探偵を営んでいます。相田真紀と申します」
ぺこりとお辞儀をした。それだけの所作無駄がなくて、カッコいい。仕事が出来る大人の女性って感じ。
(ボクもこんな感じの女性になれたら月兎も振り向いてくれるかな……?)
「何だこのオバハン?」
(良くも悪くも、全然関係ないみたい……。あとすっごく怒ってる。夕方のことが全然問題にならないくらい)
「いきなり酷い言い草をするのね。聖月兎くん。」
「いきなり人を呼びつけてきやがった赤の他人には、適切な距離感だと自負していますが?」
「あら、もしかして怒らせてしまったかしら?」
「探偵を自称しておいて、探索対象の嫌悪すら調べられない無能なら。探偵なんて身の丈に合わない詐称は止めた方がいいぞ」
「…………」
「…………」
ボクと光輝は同時に月兎の方を見て言葉を失う。ボクも光輝も、ここ数年、月兎が話すところを殆ど見ていなかった。放課後に話したことだって、内容はボクにとって辛いものだったけど、それでも本当に珍しかった。なのに、今。月兎が、初対面の人と自分から口を開いて話をしてる。怒ってるのは分かってるけど。でも。うん。…………羨ましいなあ……。
「あら、これでも人探しは得意なのよ? 探偵として仕事をしても問題ないくらいと自負しているのだけれど」
「人探しが得意を自称するなら、いっそ犬と名乗った方が適切なんじゃないの?
面識もない他人と接触する時はアポを取るか、自分から出向くってゆー最低限の社会的常識を知らない内に、信用第一の仕事をしても餓死するんだろうし。
ああ、もちろん別にオバサンの生活を心配しているわけじゃないよ。探偵なんて不確かな職業に金払って縋るほど追い詰められているような人が、時間を無駄にして金までドブに捨てることになる不憫が気の毒で仕方ないから言ってるんだよ」
「……あははは。言うじゃない。小僧……」
よっぽど怒っているみたいで、月兎の言葉は少しトゲがある。相田さんは怒りで血管がピキピキと痙攣している。それでも、月兎がボクの目を見て話してくれることを考えると。
「羨ましいなぁ」
ピタリ。一触即発の空気だった二人が、時間が止まったように静止した。どうしたんだろう?
「………………ねえ、今あの子、なんて言ったの?」
「………………俺は何も聞いてない。アンタも何も聞いてない。それが幸福ってもんだと思わないか? この世には、人類が理解出来ない思考がある。そんな深淵に意味もなく足を突っ込むなんて、不毛ってもんだろ。お姉さん」
「……そうね。そのお姉さんっていうのに免じて許してあげるわ。何故か背筋が寒いし。怖いし……」
「……?」
何だかよく分からないけれど、急に二人は仲直りしました。最後にはアイコンタクトまでして。いいなぁ……ボクも月兎とアイコンタクトしたいなぁ。
「(ゾワゾワゾワ)さ、さっきより悪寒が酷くなってる……?」
「…………えっと、いいですか?その、探偵の相田さんが、月兎を呼んだというのはどういう理由なんですか?」
「と言うか俺もう帰るわ。おい豚ゴリラ、アシ出せ」
メキッ。
月兎が無言のままの相良さんに蹴り飛ばされた。
「月兎? 大丈夫?」
「あら、足が出たわね。」
「……豚野郎。平然と、民間人に蹴り、入れやがった、ぞ。懲戒免職もんだ。SNSで炎上させてやる」
「あの、月兎? 本当に大丈夫? さっきメキって音がした気がしたんだけど……」
「俺を焼きたきゃ戦車でも持って来いや。クソガキ」
「おお言ったな。桜の代紋炭にしてテメエの肉で焼肉して生ごみの日に捨ててやんよ。豚キメラ!」
「なあ月兎。話の途中だから少し静かにしていてくれないか?」
「いや、あのババアが用があるのは俺だろ。何でお兄ちゃんが気にしてんのよ? 熟女趣味あったん?」
「いくらなんでも熟女は失礼じゃないか」
「失礼なわけあるか。こっちとらようやく手に入れた伝説の三週打ち切りの連載漫画が掲載された週刊誌手に入れてウッキウキで読んでて、最期の一話の終盤でようやくヒーローが変身するっていう超熱いシーンで家電鳴ったんだぞ。漫画との出会いは一期一会で、感じたときめきは再生不可能な一回きりの恋なんだぞ。それを棒に振っておいて何かと思えばツラも知らねえババアが用があるから出向いてこいなんてもんだったんだぞ。これ以上の失礼なんてこの世にあるわけがない。」
「ごめんなさいね。月兎君。ただ、今回の表向き無差別テロ事件とされている事件について、あなたの意見を聞きたかったの」
「興味無い。俺にこれ以上の感想なんか無い」
「それはあなたの感想でしょう? 私はあなたに意見を求めているのよ」
「俺は最底辺に近い無能の人類だ。現場にいて生き残った有能なお兄ちゃん以上に出せる意見なんてあるわけがないし、良いように利用されるとか冗談じゃない」
「それでも知っている筈よ? 実はあの場を安全な位置から見ていた人も何人かいてね。そこにあなたが映っていたのよ? ここに証拠の……」
そう言いながら、相田さんはカバンからノートパソコンを取り出す。それを見て、月兎は一息ついてペットボトルを取り出した。
ぽとぽとぽと。
「え……?」
「あ」
「な、なにやってるんだ月兎!?」
唐突に、中身が入っていたペットボトルを逆さにして、液体でノートパソコンを濡らした。
「俺は最底辺の人類だ。俺に出来ることなら人類の全てが出来ることだ。出来ないとほざいている奴は、自分から諦めて本気で打ち込まない奴、面倒くさがってやらない奴。自分の限界を勝手に決めてる。ただの努力不足だ」
冷たい目で相田さんを見据えている。さっきまでとは違う、本当の怒りの瞳。
「どんな人間でも必ず俺の上位互換だ。才能に胡坐をかく怠け者。そんなお前らを、この俺が助けてやる義理は無い」
それだけ言うと、月兎は部屋から出て行った。
「あ、待って月兎! すみません。ボクも失礼します」
まだあーだこーだが続く




