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主人公と呼ばれる感じのイケメン系サブキャラ兄貴

他作品ならだいたいかませになる感じのイケメンに視点が移ります。

視点:聖光輝

 幼稚園でかけっこをすればいつも一番だった。同年代よりいろんなことを褒めてもらえて、嬉しさを感じていた。でも、いつも後ろめたかった。

 双子の弟の月兎のことだ。俺が出来ることがいつも出来なくて、俺を褒めてくれる人たちに、悲しい目で見られ続けていた。分身も同然に思う弟と、もし一人の人間として生まれてきたのなら俺達は一緒に褒められていたんじゃないかって、心が苦しかった。月兎も同じことを、いや、もしかしたら俺がいなければ良かったって考えているんじゃないかって、怖かった。最後に月兎の笑顔を見たのは、いつのことだろう?何年も一緒に生きていながら、俺の中の月兎は、いつも暗い表情で俯いている。


 「大丈夫か、陽香」

 「うん。大丈夫」

 

 とても大丈夫には見えない無理をした笑顔が、俺の心を絞めつける。陽香とは自我が生まれた時にはもう、月兎と一緒に家族同然の付き合いをしていた少女だ。明るい髪色に負けない程、明るく元気で、優しい。

 そんな彼女のことを、異性として意識したのは、いつからだろうか。もしも陽香と一緒に生きていけるなら、俺は一生幸福で生きていられる。けれど、そんな俺の思い人が恋をしたのは、月兎だった。少しだけ悲しい気持ちはあったけど、それでも。月兎なら、祝福できる。そう思っていた。

 

 「陽香、気にすることないからね。あんなやつに陽香はもったいないし!」

 「そうだよ~。あんなクズ、絶対にろくな目に合わないよ。その時に指さして笑ってやろうよ。ね」

 「…………やめてよ」

 「何言ってんだよ陽香。庇うことねえよ。アイツのどこにそんな価値があんだよ?わざわざ毎週勉強教えてやってんのを、偽善なんて言ってんだぞ。あんなやつ、どう考えてもただのカス――」

 「違う!! 月兎はそんなんじゃない! 月兎はそんなこと言われるような人じゃない! 何も知らないくせに勝手なこと言わないでよ。ほんとに……月兎のことを悪く言わないで。ボクはどう言われたって、構わないから」

 「何でだよ。何であんなやつにそこまで……意味分かんねえよ!」

「分かんなくてもいいよ! ボクだって、他の誰かが理解してくれるなんて思ってないよ。それでもいいから。月兎のことは干渉しないで。月兎が受け入れてくれる日まで、ボクは月兎を支えて行くの。それだけでも良いの」

 「……光輝君。アイツと陽香の間って、そんな固い絆みたいなのがあんの?」

 「ごめん。それは俺にも分からないんだ」

 嘘だ。本当は知っている。

 「……そっか。光輝君も知らないんか。んっか! じゃあしょうがねえか。

 よっしゃ。んじゃ気分変えてカラオケ行こうべ」

 「軽っ。急に変わりすぎじゃん」

 「だって考えてもしゃーねえべ。光輝君にも話してないことじゃ、オレに話してくれるわけねーし。そんなことよりカラオケで発散だ! 鬱な気分は大声出せば炭酸出来るってな!」

 「発散な。ジュースじゃねえんだから」

 「はいはいどうせバカですよーんじゃ行くべ。陽香!!」

 「……うん」


 一時はどうなるかと思ったけど、無事に仲直り出来てよかった。こういう切り替えの早さは、トオルの長所だ。俺もよく救われている。短気なところもあるが、少し話せば、きっと良いやつだって分かると思う。月兎。俺はお前と六人でいつか一緒に遊べたらって思ってるんだ。いつか分かってくれるだろうか……月兎。俺の家族。

 

 

 

 「いやー歌った歌ったー!」

 「んーっ! やっぱ明日休みの日のカラオケって最高だねー」

 「そうだね。陽香も、ちょっとは気分晴れたんじゃん?」

 「うん。もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。三咲」

 「いいって。それより、またアイツに何か言われたらあたしに連絡しなよ。味方するってスタンスはもう何も言わないけどさ、悲しかったら愚痴くらい聞かせなよ。それくらい良いでしょ? あたしら……友達だし」

 「三咲……うん。ありがとう」

 

 陽香もだいぶ調子を取り戻したな。やっぱりこう言うのは、同性の友達の方が気兼ねしなくてもいいのかもしれないな。本当に良かった。陽香。

 このままずっと、こんな日々が続いてくれれば。そしてここに月兎も居てくれれば、俺はもう何もいらない。本当に、心から、切ないほどに、そう思う。

 

 《残念ながら、その願いは叶わない》

 

 俺の知らない声がした。

 「…………今、誰かいた?」

 

 「へ?どったの光輝君?そりゃあ街中だから人はいっぱいいるけど」

 「……そう、だよな。空耳ってやつかな。驚くほどはっきり聞こえたよ」

 「ふーん。まあ、弟があんな感じになったら、ストレスもキツくなるよなー」

 「そうでもないよ。月兎は、少し分かりにくいけど、俺は、アイツの方が天才に見える」

 「いやー光輝君には悪いけど、オレには想像つかないなー。こっちから見ると弟君? つーか月兎くん。はさ、光輝君と双子だっていうけどさ。目つきは悪いわ、口は悪いわ。成績も悪いしで。全然別人だし成績も最悪じゃん?」

 

 「…………これでも昔は、親も見分けが付かない。瓜二つだって言われたくらいそっくりだったんだよ」

 

 「それってマジで言ってる? 表情とかって話じゃないよ? 顔の骨格。体格。身長。いちらんせい? らしいけども、言われなきゃ双子って思うやついないんじゃね? いつからあんだけ変わっちゃったわけ?」

 「……きっかけは四年前だと思う。ウチと陽香の家は、母親同士が子供のころから仲が良くてさ。家族ぐるみの付き合いが頻繁だったんだ。

 そんな時期の十歳の時に、ウチと陽香の家で、月兎が商店街の福引で当てたハワイ旅行に行くことになったんだ」

 その時の俺は、正直言って、福引を当てた月兎よりも喜んでいた気がする。ここから少しでも、これまでの悲しみが癒えるほどの幸福が訪れてくれればと思っていた。

 「へー福引当てたのが光輝君じゃなくて月兎君なんだ。何か意外だねー」

 何でかそういう運は、俺ばかりに回ってきてたのは間違いないよ。実際、母さんはその福引を俺に引かせようとしていたくらいだから。

 でも、福引は当たりさえ入っていれば、理論上は誰でも絶対に出せるものなんだ。当たるのは、あくまでも当たるときに引いたから結果的に出るだけ。だから俺は、自分が回す直前になって、月兎に交代したんだ。もし、俺が偶然に『出る時』に回しているだけなら、きっと俺じゃなくても誰かが回せばそれで出てくるはずだって」

 「おー! それで本当に月兎くんで当たり出たん? すっげー。でもそれって、結局光輝くんが当てるはずだったものを代役で引いてるだけなんじゃねえ? 自分で引いたって言えるん?」

 「うん。俺はそれでも言えると思ってるよ。だって、出る時に引くも出ないときに引くも、それを誰も証明出来ないだろ? 結局は確率でしかないんだよ」

 「それ、すっげーへりくつじゃね?」

 「屁理屈でも詭弁でも、何でも良い。俺は、月兎に責められてもいいから、月兎にも幸せになって欲しいんだよ。たった一人の、双子の弟だから」

 「なるほどね。そんで? そんな奇跡みたいなことまで起こした旅行の何にケチが付いたん? 月兎君が怒ったん?」

 「…………事故だ」

 「事故!? そりゃあ災難だったね……え? もしかして頭打って性格が変わっちゃったん?」

 「多分、間接的にはそうだと言えると思う。そもそも月兎は、せっかく当てたハワイ旅行すら全然前向きじゃなくてさ。俯いてるだけで、凄く苦々しい表情をしていたんだ。それなのに、当時の俺は、そこからハワイ旅行が楽しいものになれば、月兎の成功体験になると思って、自分勝手に月兎を外に連れ出したんだ」

 「へえ。今の光輝くんからは想像出来ないね。誘われて付き合ってる感じなのに」

 「そうだね。あの旅行は、月兎の成功体験どころか、俺の明確な失敗体験としてトラウマになってしまったのかもしれない。

 当時の俺はまだ失敗らしい失敗をしたことが無かった。だから、失敗することを考えていなかった。あの行動が、独り善がりだって、気付けなかったんだ。

 事故が起こったのは、帰国する前日だった。その日も俺は、陽香と人生初めての海外旅行を楽しんでいるようには見えない月兎を連れ出して、遊びに行っていたんだ。


 今思えば俺はその日、焦っていたんだと思う。明日は帰国の日。つまり、月兎がこの旅行に良い思い出を残すには、今日が最後のチャンスだって。そんな日に俺が選んだのは、気球の夜間飛行だった。その夜は、ちょうど満月の夜で月兎がよく月を眺めているのを知ってたから、大きなチャンスだと確信してた。

 その日見た満月はさ本当に大きくて、吸い込まれそうで。それを空から眺めるから、本当に迫力があった。俺も、陽香も、月兎がその日ハワイにやってきて初めて大きく顔を上げたのを見て、成功だと思ってたんだ。

 けど、その時に思いもよらないことが起きた」

 「思いもよらないこと……? 気球が落ちたとか?」

 緊張したまなざしで俺の話を聞いていたトオルが、ごくりと息を飲んだ。

 「……跳んだんだ。月兎が。気球から」

 「……え? 飛んだ? え? 翼が生えた……わけない、よな」

 「事実だけを口にするなら、気球から飛び降りたんだ」

 「うっそ……!?」

 「俺も、陽香も、両親も、呆気にとられてた。一番最初に手を伸ばした陽香でも、伸ばした先がすでに大きな満月しか見えないくらい、手遅れだったんだ」

 「そんな高いとこから落ちて、生きてるだけでも奇跡じゃんね」

 「ああ。下がコンクリートじゃなかったことが、多分唯一。月兎が生き残った理論的な理由だと思う。あとはもう、本当に奇跡だ」

 「それでマジで頭打って人格変わっちゃったわけ? 言っちゃあなんだけど、漫画みたいな話だな……」

 「それが、違うんだ。月兎が変わったのは性格じゃない。記憶だ」

 「記憶……? もしかして記憶喪失ってこと?」

 「ああ。月兎は……俺の弟は、気球から落ちた時に、生まれてから十歳までの記憶の殆どが……抜け落ちているんだ」

 「…………マジかよ」


 ここから先は、誰にも語らない実際に起きた出来事。陽香が月兎に対して思い入れが強くなった理由だ。

 医者の診断こそ無かったが、月兎が記憶喪失となったことは明白だった日の翌日。帰国の日にも拘らず、月兎は病室から姿を消していた。いったいどこへ行ったというのか? 何の情報もなく、一週間も行方不明だった。俺たちは旅行ということもあって、帰国するしかなかったけど、もう誰も旅行から帰ってきたという気持ちは持ち合わせていない。

 陽香は自分が真っ先に手を伸ばしたのに間に合わなかったっていう自責の念が強すぎて、ハワイで行方不明になっていた月兎が、何故か日本の俺たちが通っていた小学校で発見されるまで、部屋に引き篭ってしまっていた。その時の陽香は本当に見ていられなかった。月兎の名前以外言葉を発しない口は、食事すら拒み、絶望の底にいた。

 月兎と再会してからの陽香は、それはもう凄い執着だった。一秒だって離れようとしなくて、一時期はずっと家に泊まっててさ。

 本当に家族そのものだった。他の誰でもない、陽香は俺たちの家族だ。でも……月月兎は。どうして……。

 

 《それは、やつが地上の命の意味を理解できない【心亡き者(ロストハート)】に過ぎないからだ。》

 

「……また、聞こえた」

 

 「え? 何が?」

 「トオル、本当に聞こえてないんだよな?」

 「…………? うん。全然なんも」

 「そっか。分かった。

 トオル。俺少し用事を思い出したから、連絡してくるよ。月兎に」

 「あー、うん。んじゃオレらファミレスでも入ってるわ」

「うん。すぐ戻るよ」


 何かいる。俺の頭の中に。幻聴だろうか?それとも、テレパシーのような何かが、俺の中に? 良く分からないから、少しみんなと離れて検証してみることにした。判断材料がない不可解に対処する方法は、分析して、理解することだ。二度あることは三度ある。無いなら幻聴と判断して病院へ行けばいい。とりあえず、もう子供も家に帰ってるような時間なので、近くの公園のベンチに腰掛けてから念じてみる。

 (俺に話しかけているのは誰だ)

 さすがに声に出して見るのは、周囲の目が怖いので最後の手段だ。さあ、どうだろう。

 

 《ようやく私の存在を認識する決意が出来たか。

 ともかく、これは行幸だ。私にとっても、キミにとっても》

 「――!?」

 返事があった。返事と言って良いものか分からないけれど。

 (質問したい。キミは誰だ?)

 質問は簡潔に行う。その方が話と分析が進みやすい。

 《ああ、すまない。私は【躯亡き者(ノーバディ)】の一種で思念のみが存在証明となりうる。ある日突然宇宙に発現した存在だ。

 同種が存在しないがゆえに個……いや、単体であり必然として名付け親もなく、個体名は存在しない。

 情報の送受に不便を感じるのであれば『スピリット』とでも呼称してくれれば良い》

 (スピリット、か。じゃあスピリット。キミが俺にだけ意思疎通を図っていたのは何故かな?)

 《回答しよう。私は前世のキミの魂と縁がある。言うなれば電話の番号を登録しているようなものだ。それゆえに、私はキミとだけ交信が可能となっている》

 前世か。これは困った。いよいよ俺は本当に幻聴を聞いているんじゃないだろうか。言語は理解できるが、不安は募る一方だ。

 (なるほどね。俺だけが声を聴けた理由は分かったよ。スピリット。

 正直あんまり納得したいものじゃないけどね)

 《心情とは別の理性で物事を俯瞰するキミの観察眼は、衰えていないようで喜ばしい限りだ。

 私も今のこの惑星の文明レベルや、これまでの生活を考えれば、納得しがたいことは理解できる。

 魔術文明は衰退の一途を辿り、人間種以外の種を迫害し、生まれたばかりの機械文明に傾倒するも、未だ児戯に等しい。そんな惑星に生誕から住み着いていれば、いくら勇者の魂と言えども、あらゆる才能は持ち腐れに堕ちるだろう》

 (……俺の前世って、勇者だったの? 魔王と戦った……とか?)

 《その通りだ》

 その通りなんだ……たしかに人より少し得意なことが多いような気はしていたけど。勇者なのか……。

 (そうなんだ。じゃあ、今度は倒した魔王が復活するのかな?)

 《否。【魔王】は復活しない。あれは二度と蘇ることは無い》

 「それは良かったよ。世界滅亡の危機だなんて、歓迎出来ないからね」

 《【魔王】の存在を拒絶するか? 勇者よ》

 「ああ。俺は自分の生きる世界と、世界に生きる人たちを滅ぼすような存在なら、容認出来ないよ」

 《そのために戦う力がまだ、その魂には刻まれている》

 「でも、魔王は復活しないんじゃなかったの?」

 《【魔王】の復活はない。だが、【魔王】というシステムは宇宙の歴史の中で発生し続ける。

 ゆえに、復活はせずとも、新たな【魔王】は誕生する。宇宙でブラックホールが生まれるように、『当然の現象』として、そこに発生する》

 ブラックホールか。もしそんなものが地球の近くで生まれたら、魔王なんて呼ぶには充分すぎる被害が起きる。

 「つまり、スピリット。キミが俺にコンタクトを取ってきたのは……」

 《いかにも。幾千万の時と変貌を超えた先に生まれた【勇者】の魂を持つ者を導き、勇者の力の覚醒を助力する。これが、躯と寿命を持たぬ私が、一つの惑星に肩入れし、汝に語り掛けた本懐である》

 「…………」

 月兎。陽香。トオルに三咲、アユ。大切な家族と友達に危険が及ぶなら、俺は喜んで戦う。つらい思いをさせるくらいなら、俺は自分が戦いたい。そして、大切な人を護るということは、必然的に世界中の人を護るのと同じだ。人は一人で生きてはいけない。密接に絡み合う人生と運命の糸は、たった一人誰かが殺されるだけで崩壊する薄氷。誰を助けて、誰を助けない。そんな取捨選択を選ぶ余地の無いものだ。

 「うん。分かったよスピリット。俺は何をしたらいいのか教えてもらえるかい」

 《了解した。汝の敵は、これより月から飛来する【魔王】となる。ソレを討ち果たせ》

 「月って、宇宙の月?」

 つぶやきながら天を仰ぐ。もうすっかり暗い夜空。街中は明るくてあまり星の光は届かないけれど、それでも月明りはしっかり見える……あれ?

 「月が少し……赤い? 今日は皆既月食だったっけ?」

 《違う。あれは月そのものが赤に染まってきているのだ。千年前に眠りについた【魔王】が吸収した、月の民の『血』によって》

 「…………そんな、バカな」

 月に生物が住んでるなんて聞いたことが無い。なんて否定しても仕方がないので、実際に起こっている現象だと受け入れるとしよう。それでも、否定したくなる。何故なら。

 「地球から見た月が徐々に赤くなっている。その理由が光の反射じゃなくて、地球の海のように血が拡がっているだって? 月そのものを最低でも半分近く覆う量の血が、月に流れているっていうのか!?」

 《その通りだ。月の【魔王】は、かつて月の民を虐殺し、血を奪い、殲滅し、眠りについた。それは、いずれ生まれてくる【勇者】を滅ぼすための画策だろう》

 「つまり、俺に会いに来るために、千年前に生きていた民を皆殺しにしたって言うのか?」

 《如何にも。アレは恋に狂い、新生の【魔王】となった。そして、勇者よ。

 万人の為に悪を討つならば。聖月兎こそが、勇者と人類の最大の敵となるだろう》

 ………………なに。

 「何を……言ってるんだ?」

 《聖月兎は、気球から落ちた日に死んだ。今キミが弟だと思っている聖月兎はもはや別人だ》

 「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 この声の言っていることがリカイ出来ない。

 《詳細は後に話すとしよう。まずは魂に眠る【勇者】の力を目覚めさせる必要がある。それが出来なければ》

 「きゃあああああああああああああああああああああーーーー!!」

 《キミの護りたいもの以外は、ここで全て消えることになる》

 「何だ!? 今の悲鳴は」

 《敢えて伝えるまでもないことだが、肉眼で捉えられる宇宙の光景は、常に完了した事象が遅れて映像として届けられている。つまり、地球から見える月が血に染まっていないからといって、月の現地ではすでに全て血に染まっているとしても、それは当たり前のことだ。

 結論として、この惑星に既に月から贈り物が届いていたとしても、それは未だ半分も血に染まっていない月の光景と矛盾しないと言うことだ》

 スピリットの話を聞きながら、声のした方に走っていく。

 「待ってくれよ。それって、月の【魔王】が地球に攻撃してくるってことか? 何故!? 目的は【勇者】の俺なんだろう?!」

 《目的などない。ブラックホールが目的も意図もなくただ己の存在のみで超重力を生み出し、他の天体を飲み込みながら移動するように。【魔王】が近場の星を飲み込み破滅させることは、システムとして極めて自然な生態運動に過ぎない。

 【魔王】とは、その現象の名称。存在としてそれが自然であるがゆえに【魔王】なのだ》

 「なんだよそれ……それじゃあまるで災害じゃないか!」

 《災害は惑星の内情。それは宇宙全体では些事に留まるが、【魔王】は宇宙全体の話だ。星の中でつむじ風が起こるのとは規模が違う。【魔王】が目覚めれば星など幾らでも滅ぶ。嘗て地球によく似た生態系を育んだ月も、現れた【魔王】によって滅ぼされかけた。だから月の住人はキミと言う惑星外の勇者を召喚した。

結果として、新たな【魔王】を生み出したに過ぎなかったのだがね》

 もし、もし仮に本当にブラックホールが地球を襲うようなことがあったら、人間が一人で一体何が出来るのだろうか? 前世の勇者の力は、ブラックホールに抵抗できるんだろうか? もし、出来たとして。それは俺以外も守ってくれるようなものなんだろうか?

超重力の中で圧死しないとか、自由に動けるような俺だけに効果が有効なものだったら、まずみんなの安全を確保しなきゃならない。

 「…………いや、今考えても仕方ない。とにかく、悲鳴のした方へ行かないと!!」




 

コイツが面白味も無く勇者ムーブでバトルしていきます

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