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陰キャで協調性が無くて人に感謝も出来ない主人公

このろくでもない奴が主人公です

恋の目的地は自己愛(エゴ)の充足だ。例えるならそれは風呂の中のお湯だろうか。自分の中の『足りない』を注ぐことで、欲望の器からあふれ出るほど中身を満たすこと。

 そこにはお美しい美談なんか無い。単に贅沢が好きなんだ。お湯の中に身を沈め、あふれ出たお湯こそが『幸福(エゴ)』の量だ。恋する二人が両想いであっても、恋が永遠ではないように。注いでは溢れる。飽きたからなのか。あるいはその先に行くのか。どちらにせよ、お湯をそのままにしていれば腐ってしまう。だから注いで、溢れさせる。それが恋だ。

 だがこれから語るのは、愛の話。本質的にはエゴと表裏一体でありながら、交わらないもの。例えばそれは、地球から見た月。表だろうが、裏であろうが、その本質は『月』以外の何物でもない。表も裏も本人は意識などしていないだろう。地上の人々もそうだ。美しいと地球の人を魅了している月はいつでも表側。それでもそれは表裏一体()だ。傷も無く、痛みもなく、美しい一面。かつて夜の闇を照らしてくれた光の守護者。人間は永い間知らなかった。自分たちが平和に生きてこれているのは、危険を受け止めてくれている『月の裏側』のおかげだと。

 そんな、自らの傷や痛みを厭わない行動こそを愛と語るに相応しい。まるでほら、自分の幸福を削って我が子を育てる『母』のようではないだろうか?これこそを『愛』と言わずに、なんと言うのか。

 恋を自己愛(エゴ)とするのなら、愛は自己犠牲。自分の身を削って幸福を分け与える幸せの王子。夢見る乙女を地獄へ突き落す人生の墓場。自らを美しく保ちたいと願うなら……愛など、与えるべきものではない。

 

 

 

 「きりーつ、礼」

 「寄り道せずに帰れよー」

 学校のホームルームが終わり、死んだ魚のような目をしていた者。あるいは授業なんざそっちのけで机に鏡だの化粧品だのを出してるバカも。机の下でゲームやスマホやらいじってるやつも。少数派の真面目に勉強してる生徒も。その他大勢のモブどもが一斉に放課後を思い思いに過ごすべく、行動する。特別何と言うことも無い、スクールライフのアフターだ。

 ところで、唐突だが、主人公とは特別であるべきだ。あるいは特別だから主人公なのか。無個性を謳う主人公だって、結局何かしら才能、人望。容姿に頭脳。性格に才能……二回言っちゃった。まあ、なにかしらが必ずある。本当に無個性なら、ただのモブだ。

 そして、俺の双子のお兄ちゃん。(ひじり)光輝(こうき)は、上記を満たす主人公みたいな人間だ。テストは100点が当たり前で、体育では女子に黄色い声で声援を送られて、優しさと思いやりを持つ。異世界転生ものの小説なら、実は腹の中真っ黒のゴミカスでしたー。なんてなんてことにされるのが容易に想像つくような、気持ち悪い聖人だ。無理やり難癖を付けるなら、テンプレ勇者な性格。フィクション的にはありきたり。クソつまらない人間性。そんなところだが、ここは現実。才能が有って、性格が良くて、容姿が良い。そんなあり得ざる完璧性が、凡人から見て退屈なはずもなく。周囲のクラスメイト、教師、ご近所さんに至るまで、誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように、光輝に引き寄せられていった。同じ親父の金玉から生成された石でガチャ引いて、同じ母親の子宮の生産工場で出荷されたはずなのに。まったくの別人だ。

 まあ、そんなわけで。誕生日と言う特別視されるような今日の日に、お兄ちゃんの人生が変わったのは必然と言えるのかもしれない。


 「みんなーこれからカラオケ行かない? 今日は光輝の誕生日だし、お祝いしようよ。ドリンク無料券があるんだー」


今日も主人公の金髪頭の周辺には、引き寄せられた友人がわんさか沸いている。緑頭に紫頭に赤頭。オレンジ頭。虹かな?

 「おーマジか光輝君、誕生日オメー! いいじゃんカラオケ。最近あっちーもんな。クーラーの利いた部屋サイコ―!」

 「光輝君おめでとうー! ウチ、光輝くんとデュエットしたーい」

 「おめでとう光輝君。アタシもーデュエットするー!」

 「じゃあ、順番に歌おうか」

 「やったー! 光輝君優しい~好きー」

 「ちょっとー光輝くんはウチの彼ピ(予定)なんだけどー」

 「はー? 光輝君はアタシの彼ピだし~」

 「「キャハハハハハハハハハー!」」

 大声で楽し気に話している中身のない会話に、嫌な顔一つせずに対応している。そんなこと出来るイケメンなんて、フィクションの住人くらいのもんだろう。

 少なくとも俺は金でも貰わんと無理だ。連日の慈善事業とか冗談じゃない。そんけーしちゃーう。一方俺は教室の出入り口が空いてきたのを見計らって帰るだけ。仮にも双子だってのに、どーしてこうまで差がついたんだか。ははっ。

 「あ、ごめんちょっと」

 「え? 陽香―?」

 

(今日は何をしようかな。昨日は何したっけか……?)


 「ねえねえ、月兎。今日これから--」


 (ああ、そうだ。ひと昔前に流行った漫画読んでたんだった。だったら今日はそのアニメでも観てみようか)


 「カラオケ行くんだけど、月兎も一緒に行こうよ」


 (うん。それが良いかもな。確か今日はお母さんは夜勤だし、お父さんは明後日まで出張。うん。完璧なプランですねこれは)


 退屈でめんどくさい学校から解放されてからの帰り道に、何して遊ぶか決める時間は楽しいもんがある。これは遠足前の準備に匹敵する。つまり、家につけばめんどくさくなって、やらなくなるタイプの完全な無駄骨。夏休みの宿題の計画だ。

 「今日さ、月兎の誕生日でもあるでしょ? だから、お祝いしたいなって」

 「…………」

 それでもお兄ちゃんは学校のお友達と楽しい放課後を過ごすらしいから、しばらくはロンリーでオンリーなクールタイムでいられる。ただそれだけで心が躍る。自由万歳。

 「どうかな月兎?」

 「…………」

 

お兄ちゃんはリア充ライフ。俺は誰もいない自宅という学生最強のアヴァロンへいざ直行。開け道路光線。

 ところで、優秀な自慢の息子が誕生日だってのに親はお仕事な辺り、この国の未来マジで暗くね?


 「あとね、月兎。今日お父さんもお母さんもいないから、また泊まりに――」


 「おいテメエいい加減にしろよ! 陽香が話しかけてんだろうが、ガン無視してんじゃねえよ!!」


 (おーおー。何か会話が盛り上がってんなぁ。ちっとは周囲の鼓膜に配慮したボリュームで発声してほしいな)


 なんて思っていた俺の肩に、誰かの手が乗る。怪奇現象の類かな? とか思っていたのもつかの間。そのままぐいっと引っ張られて、バランスを崩した俺は思いっきり尻餅つくことになった。


超いてえ。

 

「ちょっとトオル! 何するの!?」

「だってムカつくだろこいつ!? 光輝くんの弟だか何だか知らねえけど、話しかけられてガン無視とか完全に舐めてんぞ!」

 「だからって暴力を振るうの? そんなの最低だよ!」

 「こうでもしなきゃこいつ話もしねえじゃねえか! だいたい入学の時からムカついてんだよコイツ! 何話しかけてもひとっことも話さねえしよお? 流行の話題振ってもシカトしてきやがるし、鉄板ネタも笑わねえし。何なんだよテメェ?」

 「…………」


すっげえうるせえ……鼓膜に響く。何だこのチャラ男Aは。


 「そんなのトオルが……」

 「……それってさー。トオルがダダ滑りしながら絡んでたやつのことー?」

 別の女の声が聞こえた。

 「三咲…………え? オレ、滑ってた?」

 「滑ってたっしょ。友達いない無口君がアレ返事すんのはハードルヤバいわ」

 「……え、マジか」

 「マジ。だからアンタ頭冷やしなって」

 「あ、はい……」

 「トオルさー陽香が弟君のオカンやってんのとか、いつものことじゃん? 嫉妬すんな~」

 「べ、別に嫉妬とかしてねえし!」

 「あとさ、アンタ謝った方がいいんじゃん?」

 「あ、おう。ごめん。陽香」

 「そっちじゃねえ!」

 「月兎に謝ってくれなきゃ、トオルには無料券あげない……」

 「わ、わかったって! 謝るからさ! 弟君もわるかった……ってあれ? いねえんだけど」

 「え? 嘘、月兎どこ行ったの?」

 「陽香とトオルが喧嘩してるうちに帰っていったし。こっち見もせずにね。おら、さっさと追いかけて来いし」

 「あーもうやっぱしあいつムカつくってー! 普通あんなに話しかけてんのに帰るとかナシだろ!」

 「トオルが喧嘩腰になるから悪いんだよーばかー!」




 いやーリア充ってあれよね。結構迷惑だよね。主に自分の主張ばっかし通そうとする辺りが。おかげで下駄箱に付くまでちょっと時間ロスったし。でもその割にグループの外にあんまし興味ねえから秒で脳みそが明後日の方向に行くんだよね。この生態、知って損はねえな。

 「月兎―! ちょっと待ってよー!」

 「…………」

 ふいに聞き飽きた声が聞こえた。ガキの頃からうんざりするほど聞かされた声だ。多分。さっさと帰りたいので、めっちゃ嫌そうな顔で出迎える。

 「あの、月兎。さっきは大丈夫だった? どこもけがしてない?」

 「…………」

 なんだろう。そんなことでいちいち呼び止めないでもらっていいですか?

 「あ、あのね。さっきのこと、トオルが謝りたいって」


 知らねえよそんなこと。何で被害者の俺が加害者のデモンストレーションの為に貴重な時間を消費させられなきゃならんのさ。


 「あーえっと、ごめん! さっきは悪かった。勘弁」


 (はい、中身空っぽの言っとくだけ謝罪ありがとうございます。もう聞いたからいいよね?)


 用向きも済んだと見込んで俺は靴を履き替えていざ、自由の空の下へ……。


 「あの、それでね。仲直りにってわけじゃないんだけど。良かったらこれからボクたちと一緒にカラオケ行かない?」

 「…………」


 (行くわけがない。何でいじめを受けた加害者が一芸披露させられなきゃならんのだ。常識の内容が異次元過ぎるだろ。さてはお前異世界人か)


 海より広い私の心もここらが我慢の限界よ。俺はもう家に帰らせてもらう。踵を返して今度こそ広い空の下へ飛び立たん。

 「……あのさあ。さっきのこと蒸し返して悪いんだけどさ。お前何でしゃべらないわけ?」

 今度はチャラ男Aが俺に話しかけてきた。あーうざい。もうそろそろ俺を解放して欲しい。

 「…………」

 「いや、オレと喋りたくないのは良いよ? 嫌いなんだろ? うん。まあ良いよ。

 けどさあ、陽香を無視するってのはなんなの? さっきもめちゃくちゃ話しかけてたじゃん。お前シカトしてテクテク歩いてたけどさあ。光輝くんと陽香が幼馴染ってことはさ、二人の関係も、幼馴染なんじゃねえの? 何でシカトしてんだよ」

 「…………」

 「もう止めてよトオル。いつものことなんだから!」

 「だったら猶更だろ。何があったか知らねえけどさ、いつまでも陽香に心配かけてんなよ。陽香はお前の母ちゃんじゃねえんだぞ?」

 「だから止めてよ! トオルには関係ないことでしょ!」

 「関係なくねえよ! コイツがこんなんだから、陽香も時々浮かない顔してるんじゃねえか! オレだってさ……その、お前のこと心配だし……」

 「そうだったんだ……それは、ごめんだけど。ありがとう」

 おーおーラブコメしとる。おあとがよろしいようで。これでようやく後顧の憂い無く帰れるってもんだよ。

 「ああ、良かった。ちゃんと仲直り出来たんだな。陽香とトオル」


 ……あーあ。もたもたしてたら主人公登場だよ。はよ帰りてー。


 「あんまし遅いからさー様子見に来たし」

 「もうお話終わったー? アタシ早く光輝君とデュエットしたーい」

 (俺も放課後とランデブーしたーい。せっかくお友達も付いて来たみたいだし、もう解散でいいだろ)

 「ああ、光輝君からも言ってやってよー。コイツ、マジで空気読めないよー。本当に光輝くんの弟なわけー?」

 「なーにー? トオルまだうだうだやってるわけー?」

 「だってこいつ、マジでありえないんだよー」

 「ああ。ごめんなトオル。月兎は間違いなく俺の弟だよ。生まれてからずっと二人で。幼稚園の頃からは俺と月兎と陽香の三人で過ごしてきたからね」

 (そーなのかー)

 「んじゃあ何でこんなに根暗なわけ? 超無言なんだけど!」

 「月兎は根暗じゃないよ! ちょっと今人生に疲れてるだけで……!」

 「陽香、落ち着いて。フォローになってないから」

 「人生って……オレらまだ中学生なんですけど。何があったの、弟くんの人生に」

 (まあ、人生には疲れてるとこありますけどね。主になう)

 「…………はぁ。あのさぁ、俺もう帰りたいんだけど」

 重いおもーい口を嫌々開くと、その場の三人が揃って俺の方を振りむいた。

 「げ、月兎が……喋った……?」

 何で信じられない感じになってんのお兄ちゃん?

 「……オレ、マジで初めて弟君の声聞いたんだけど」

 「えー喋ると結構アタシ好みかもー」

 「んじゃそっちはあげるから光輝君もらってくわー」

 チャラ男Aは宇宙人を見る目をしている。あと新たに追加されたギャルAとBは……どうでもいいか。

 「月兎……げっとぉ……」

 うわあ、日野陽香に至っては泣いてるよ。何? 小鹿の出産にでも立ち会ったの?

 「月兎。お前、何で最近全然喋らなかったんだ?」

 

「何でもいいだろお兄ちゃんよぉ。いいから帰らせろよ。休ませろよ自由にさせろよ」

 

「弟くん、結構イケボしてんね。これは光輝くんに似てるわ」

 

「不幸にもDNA(設計図)が聖光輝と同じもので組み上げられてるからな。最低限の下位互換的な性能は内蔵してるんだろ」

 

「下位互換なんかじゃないよ月兎。月兎の声は月兎だけのものだよ」

 

「あーさいですか」

 

「つかさあ、弟くんそんだけ喋れるなら歌もいけるんじゃね? カラオケ一緒しよーよ。陽香もめっちゃ気にしてるしさあ」

 「さんせー!」

 「まあいっか別に」

 「うん! そうだよ月兎。ボク、久しぶりに月兎と遊びたい。一緒に行こうよ、月兎」

 

 何でそうなる。帰りたいって言ってるじゃん。俺が話してる時だけ聴覚を失ってるのかこいつら。

 

 「行くわけないだろ。帰りたいって言ってるじゃん」

 

「何か大切な用事があるのか、月兎? 観たいテレビがあるとかゲームしたいとか」

 

「もちろんあるさ。家に帰って一人でダラダラするっていう、外せない用事がな」

 これを大事な用事に含めないようなやつとはマジで関わりたくないよね。

 

「なぁーんだ。全然用事なんてねーじゃーん。じゃあ行こうぜ~」


 これだよ。こいつら日本語で話している筈なのに会話にならない。口を開くのも馬鹿馬鹿しいってもんよ。


 「それなら月兎。日を改めるから、俺達と遊ぶ約束をするっていうのはどうだい?トオルもさっき言ってたけど、月兎と話をしてみたいって言ってる人も結構いるんだ。

 新しい友達ができるかもしれないよ」


 さすがお兄ちゃん。秒で妥協案を出してきた。伊達に頭いいって言われてないわ。つっても、根本的な部分で誤解があるから、やっぱり俺たちは致命的に相性が悪いんだけれどもさ。


 「…………突然だけどもさ、お兄ちゃんよ。

 アンタにとって友達って何よ?」


 「友達が何か?

 それはもちろん。仲良くしている大切な人たちだよ。家族とも恋人とも違う、大切な存在だ」


 「へえー大切ねえ~それって、家族や恋人とどっちが大切なんー? おにいちゃーん」


 「それはもちろん。みんな大切だよ。一番とか、そんな格差は無いよ」


 「おーおー。耳心地の良い血の通った回答をどうもありがとう。テストの模範解答丸写しにしたみたいだ」


 「それじゃあ、月兎にとっての友達ってなに?」


 「そんなの言うまでもないだろう。俺には友達なんていないんだ。『無いものは知らない』これが俺の模範解答だ。やったこと無いゲームレビュー書けってくらい無理。あるいは食ったこと無い飯の食レポ」


 「それはおかしいと思うな。月兎、俺とお前は双子の家族だから、友達じゃないっていうのは分かる。けど、陽香はどうなんだ? 生まれた時から親同士が仲が良くて、家も近所。最近ではテストで赤点取ってお小遣いまで減らされた月兎に、毎週勉強を教えてくれてる。家族同然な付き合いだけど、俺達にとって陽香は、幼馴染であって、大切な友達でもあるはずだよ」

 「陽香、あんた最近ぜんっぜん週末遊びに来ないのってそれが原因だったん?」

 「うん。月兎は昔から学校の勉強が苦手で。でも、もうボク達中二だし、来年は受験もあるから。将来のこと考えないとって、光輝に頼んでけっこう強引に勉強会をしてたの。

 ねえ月兎。最近全然話してくれなくなったのって、それが嫌だったからなの?」


 「別に。

 訂正があるとすれば一つ。俺は日野陽香を『親の友達の娘』あるいは『ご近所さ

ん』くらいにしか認識していないってことかな」


 「なっ!?」

 「……は?」


 俺の訂正に対して、お兄ちゃんは驚いた顔をして、チャラ男Aはなんか眉間にしわを寄せてる。コワーイ。


 そして、当の日野陽香はと言うと。

 「…………」


 信じられないという顔をしている。

 「薄々その辺に誤解があるかもしれないと思ってはいたけども、その様子だと当たりらしい。

 アンタがどう思ってんのかは知らないけどさ。俺、一度たりともあんたを友達とか幼馴染とか思ったことないんだよ。俺とアンタの関係性はあくまで『他人』だ。

 

 そりゃあ、勉強会も正直止めて欲しい。偽善のつもりなのか、教師に頼まれたのか。あるいは他に企みがあるのかは知らないんだけども。俺、アンタの自己満足に付き合わされても損しかないからさ。どんだけやっても一ミリも成果上がんねえし。他人に付き合わされてるだけの時間とか。完全に時間の無駄。人生の浪費じゃん? 友達って能力的にある程度対等じゃないと成立しないものだし。

 

 でも、喋んなくなったのは、単純に会話するのにうんざりしたってだけ」

 特にこれと言って感情もなく、感動もない、俺にとってはあくまで当たり前の言葉。紛れもない、俺の本心だ。


 「…………何コイツ。マジでありえないじゃん」

 「だからそう言ってんだろ。三咲。なあ、お前マジで頭おかしいんじゃねえの」

 「あーあ。一瞬アリかと思ったのになー。これはナシだね」


 そうだ。ようやく伝わったか。俺はお前らと友達になるとか嫌なんだよ。だからほっといてほしい。

 「っつーわけだから。お兄ちゃんにはわりーけどよ。遊ぶ約束は俺抜きで勝手にしててくれや」

 なんとも心が晴れやかだ。まるで家の中の生ごみが全部ゴミ収集車に投げ込まれていくような爽快感。最高の気分だね。

 

 「…………月兎。お前、どうして……」

 

 「世の中おひとり様ブームだろ? そういう人間が一定数いるってことだよ。まあ、お友達欲しいよーってなっても、そこの壊れた蓄音機みてえなのは勘弁願うわ。ゲーセンでフィギュアでも取っておままごとでもしてる方がまだマシ。言えた立場じゃないとは思うけども、アンタの友達、俺にはサルか何かにしか見えないんだわ」

 「…………そうか」

 

 「そうよ。つーわけでカラオケ行くんだっけ? せいぜい遅くまで時間掛けてくれよモブ共。その分俺はおうちで気兼ねなく過ごせるし。あ、ドリンクの無料券、今日までなんだけど、良かったら日野さんいる? どうせゴミになる紙だし」

 

 「…………」

 

 返事もなく立ち尽くすだけの日野陽香。

 まあいいかと、ビリビリと破いてゴミ箱にきちんと入れておく。良い子はポイ捨てしないものだ。今入れた青い箱は傘入れとして使われているような気がしなくもないが、気のせいだろう。多分。

 「んじゃ、よい放課後を」

 ひらひらとお手々をふってさようなら。さあ、結局今日は何をしようか。いっそのこと俺もヒトカラ行こうか? あ、ダメだ。今ドリンクの無料券千切っちゃったわ。バカだわ。


 「月兎…………」


 何か背後で声が聞こえた。今まで黙ってた日野陽香の声。あるいは怨嗟の呪怨にでも変わるのかな? やだなー。俺ホラーきらーい。

 

 「陽香、もうほっときなよ、あんなの」

 「そうだよー。あいつどうかしてるってー」

 「月兎」

 「…………」

 お友達の静止も振り切るように大きな声でハキハキと俺を呼ぶ声がする。さあ、どんな呪言が湧き出すかなー?

 「明日の勉強会……忘れないでね。いつもの時間に、行くから。ちゃんと、いて……ね」


  「………………」

 思わず背筋が凍った。何か目に光が無い。笑顔じゃないぶんだけマシだが、これはマジのホラーですわ。夜道に刺される方がよっぽど健全だぞオイ。怖すぎてもうお顔見れない。マジ見れない。

 

 「ありえねえのは……あんたの方だったな」

 

 

コイツが最終的にくっそ痛い目見ます。物理的に

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