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神仙魔伝 紅の節  作者: 真赭 碧
3 死ニ絶エル者タチ
20/25

「つーわけで!!」

周囲の人間が少し振り向くほどの大声で、圭が言った。

 4人は今、春陽と月乃の暮らす町から電車で移動し、大規模なショッピングモールに来ていた。商店街でないのは、暑い所を動き回るより一か所で済むほうがいいと圭がごねたからである。実際、ごちゃごちゃとした商店街をこのメンバーで歩き回るのは不安があった。商店街特有のあの気安さも、圭はともかく緋豊が馴染めるとは思えない。幸い、春陽達が暮らすのは田舎といって差し支えないような小さな町だが、それでも一応は関東、ある程度移動すれば、買い物には不便しない程度のモールはある。

「まずどこに行く? 楽しみだな!」

本人を差し置いてはしゃぐ圭を緋豊はじろりと睨むと、しかし早々に諦めて二人のほうへ向き直った。

「私はこの建物のことも、日常生活でなにがいるのかも分からない。ふたりに任せてもいいか?」

「もっちろん~! えっと、じゃあまずどうしよう! やっぱりお洋服かな~」

「……薄々分かってはいたが、圭と同類か」

ひとりでぴょんぴょんと飛び跳ねる春陽を見つめながら、緋豊はぼそりと呟く。

「お互い、苦労するねえ」

そんな彼女に、月乃は苦笑しながら頷いた。振り回されていても一緒にいるのは、それが楽しいからに他ならない。かけがえのない友人で、これも含めて好いているのだと。月乃がそこまで含めて『お互い』と言ったのかは分からないが、緋豊は、そうだな、と同意した。

「ほらほらはやく行こうよ~」

「おっせーぞ! 置いてくぞー!」

買う本人である緋豊を置いてどうしようというのだろう。正確に言えば、金銭の持ち合わせなどない緋豊は自分では買えないため、圭に出してもらうのだが。

 ――――やれやれ、この分では着せ替え人形にされるのだろう。

そうため息をついて、緋豊はふたりの後を追う。

「まったく、気が重いな」

「あはは、まあこういうのも、たまには楽しんでよ」

追随した月乃に笑いかけられ、緋豊は腹を括った。


 そんなやりとりのあった十数分後、緋豊はとあるブティックで――――なぜか、ゴスロリを着ていた。春陽と圭に追いつき、初めに着せられたのが、これだったのだ。

「お前ら、真面目に選ぶ気ないだろう」

「当たり前だろ! こんな緋豊で遊ぶ絶好の機会を逃すわけねーじゃん!」

「機会がなくても作って遊ぶじゃないかお前は!」

「おうよ! ボクだからな!」

「褒めてない!」

店であるというのに遠慮なく騒ぐふたりとたしなめると、月乃はまともな服を探しに行った。あのふたりに任せておいては閉店までに終わらない。そう判断してのことだったし、それはおそらく間違ってはいない。だが、それはこの3人を野に放つということと同義。月乃というストッパーがいなくなったことで、春陽と圭の悪ふざけはさらにエスカレートする。

「これとかどうかな~」

「いやいやこっちだろ!」

「おいお前らいい加減にしないといつまで経っても終わらないぞ」

マネキンにされながら緋豊が言うも、まったく止まる気配はない。どうしたものかと頭を抱えていると、圭が鮮やかなまでの手際のよさで、緋豊の頭になにかを付けた。今度はなんだと触れてみると、妙にふわふわした手触り。首をかしげながら外すとそれは、いわゆる猫耳カチューシャというものだった。

「あ、なんで取っちまうんだよ! おもしろかったのに!」

「圭」

静かに言った緋豊に、うげ、と圭は声を漏らす。幼馴染だからこそ分かる微妙なトーンで、緋豊をかなり怒らせてしまったことに気付いたのだ。

「春陽、フリルのミニスカート、ないか?」

「え? うん、家にならあるけど~」

「あとで圭に着せてやれ」

「ちょ、それはマジで勘弁してくれ!」

「やかましい。お前、私で一方的に遊ぼうなんて思うなよ」

ふん、とそっぽを向くと、春陽がくすくすと笑う。

「……どうした?」

「ううん、緋豊のそういう仕草、ちょっとかわいいな~って思っただけ~」

「な、かわいい……?」

「おっ、やっぱりわかるか? 緋豊はかわいいんだよ」

そうひとりでうんうんと頷く圭を眺めて、春陽は言った。

「でもさ~、緋豊がこういう服着るのと、圭くんがスカート履くのはちょっと違うんじゃないかな~」

「どういうことだ?」

首をかしげる緋豊とは対照的に、圭はなにかを察したようで、必死に笑いをこらえていた。

「だって緋豊が着てるのは女の子の服だもん。男の子にスカート履かせるのは、ちょっと難易度が違うっていうか~」

そこが限界だったらしい。盛大に噴き出すと、圭は腹を抱えて笑い出した。同時に緋豊も、微妙に唇を震わせる。状況が飲み込めていない春陽に、緋豊が笑いに震える声で言った。

「……圭は女だ」

「……へ?」

間抜けな声を上げたあと、春陽は数秒固まってなにかを考えこむ。考えこんだまま、圭の顔をまじまじと見つめた。その表情に押されるように、圭は一度笑うのをやめる。

「見えない」

「ひでえ」

真剣なまなざしで春陽が言うと、圭は再び笑い出した。ひどいと言う割に気にしている様子はないあたり、言われ慣れていることが窺える。

「ちょっと圭、うるさいよ。ここお店なんだから迷惑」

まともな服を選んで戻った月乃が圭に呆れた目線を向けると、彼――――改め彼女がなにか言う前に春陽が跳ねながら報告した。

「あのね! 圭くん、圭くんじゃなくて圭ちゃんなんだって!」

「はい?」

なぜいちいち飛び跳ねながらしか話せないのだろうなどと考えていた月乃は、一瞬春陽の言葉の意味を捉え損ねる。

「だからね、圭くん、女の子なんだって~!」

「……へ?」

その声は、先ほど春陽が発したものとなんら変わらなかったのである。

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