知力と体力
作者的に最高傑作です。ヒロインちゃんが羨ましいです。
「まず僕の名前は、天宮 冴那名前から連想されないけど男。身長は155cmで体重は44キロの中学一年。趣味はパソコンいじり。毎日のようにサイトを見てる。容姿は、赤茶色で茶色の目で周りから女って言われる。」
(嫌なのになぁ)
独り言を言ってる少年。普通なら、周りが変に思うはずだが少年は一人だった。
朝早いためか、場所が、朝というのに暗いためか誰も通らない。
冴那は右手を上げガッツポーズをしながら言ってる。誰かがいれば憐れな目を向けてくるだろうが、誰もいないから少年は更に虚しいだろう。
「はぁ・・・学校行こう」
冴那は淋しくなり、学校へ急いだ。
入学前に母親と一緒に通ったのを思い出しながら歩く。
校門を潜り抜けると、クラスメイトがざわついてた。
「どうしたの?」
「あ、天宮・・・あの人見ろよ」
近くの友人に話し掛けると、部活で傷付いた指が三階の窓を指してた。
その指を、視線で辿ると、ハッとした。
(綺麗な人・・・)
そこには、桃色の長い髪の女性がいた。目は眼鏡をしていて分からない。
肌は色白で、雪のようだった。日焼けやシミやソバカスなんて無かった。
「だれ?」
「みんな知らねーんだよ」
「え?」
「彼女は三年生だよ」
友人が知らなかった。いや、一年生全員が知らなかったのだ。
突如聞こえてきた声に驚きながら振り返った冴那。
「あ、あの?」
「あぁ、俺は二年生でな?去年みんな驚いてたんだ」
見るからにヤンキーっぽい少年に恐縮したが、話しやすい少年だった。
キーンコーンカーンコーン
始まりのチャイムでみんなが慌てて校舎に入って行った。
先輩も入って行ったが、三年生の女性は、まだいた。
(後で行ってみようかな?あ、やべっ遅刻!!)
急いで教室に入った冴那。
頭の隅に気になった女性を置きながら。
そして、昼休みになり冴那は女の人がいた部屋に向かった。
開けてみると、これでもかというほど沢山ある本。どうやら図書室らしい。周りを見回しても女性はいなかった。
(いないのかな?)
不安になりながらも、少し歩くと、静かな室内から本を捲る音がする。その音がする方へ歩くと女性がいた。時折、白い手が髪の乱れを直す。その仕草に見とれたりしてた。
(こっちを見た!!)
女性は立ち上がり、冴那に向かって来た。
冴那は呆然と立ち尽くしてた。
「何の用かな?」
綺麗なソプラノだった。全く掠れることが無い。聞き惚れる声。
「なんで男の子の制服着てるの?」
苦笑い気味に言った。その姿も綺麗だったが、不思議な発言だった。
「え?」
「無理矢理されたの?」
「あの・・・僕、男です」
「え・・・」
冴那の頬に触れようとした手をビクッと止めた。
綺麗な表情が段々と歪んできた。
「・・・男」
「・・・あの?」
凄く低い声だった。
ソプラノからテノールの声に変わった。
それに驚く冴那。
「・・・」
「あ、あの・・・」
(こ、こわい!!)
冴那は女性の雰囲気にオドオドした。
その様子を見た女性は、雰囲気が変わった。
「・・・そう。貴方は平気みたいね」
「は?」
「・・・私、男嫌いなの」
「・・・そう、なんですか」
雰囲気が穏やかになった。
(でも、なんで?)
急に優しい声になったのに驚いた。
「君は男の子って感じがしないからね」
「・・・」
(喜んで良いのか悲しむべきなのか)
冴那を嫌わないのは嬉しいが、女顔と言われてるのが悔しいみたいだ。
「あの・・・先輩」
「私は米倉 律愛」
「僕は天宮冴那です・・・・・って何読んでんですか?」
「敬語止めて・・・『世界の格闘。これさえ読めばあなたも最強伝説を築けるぜ!!』・・・よ」
「わ、分かったけど、なんですかその題名!!」
律愛が見せたのは格闘技の本らしい。
怪しい題名で、本当かどうかも怪しい。
「律愛さん・・・」
「呼び捨て!!サエ」
「リア・・・」
笑顔で冴那の名を呼んだら赤くなった。
「なんで格闘技?」
「私、格闘技が得意なの」
「そうなんだ・・・」
意外そうに律愛を見る冴那。
まだ、驚いてるようだ。
「リア授業は?」
「私はいらないのよ」
「・・?」
「男嫌いって言ったよね?」
「うん・・・」
「一緒にいるのも嫌だから投げ飛ばしたりしちゃうの・・・」
恥ずかしそうに言う律愛は可愛い。
冴那は苦笑いだ。
「今度パソコン持ってここに居てもいいですか?」
「いいよ。あまり人は来ないし・・・」
次の日、図書室では、パソコンの音と本を捲る音しかしない。
「サエってパソコン得意なの?」
「うん・・・たまに、悪い人の密輸とか調べたりね」
「危なくないの?」
「・・・・何度危険な目にあったことか」
「その時は?」
「全力で逃げてるよ・・・・怖いもん」
「調べなきゃいいのに・・・」
「警察関連だから・・・」
青ざめながら言ってる冴那。なら、なせ止めないのか不思議に思った律愛だったが、わけありということに黙ってしまった。
いつも、一緒にいた二人だったが、ある日、図書室に冴那が来ない。
そのことを不思議に思った律愛は、冴那の教室に行った。
「どうしましたか?先輩」
「っ・・・」
「???」
男がいて喋り出せない律愛。
そのことを分からない少年は戸惑っている。
そして、律愛は覚悟を決めて話し掛けた。
「サエ・・・天宮冴那は?」
「まだ来てないけど・・・」
「・・・・そう」
律愛は、すぐに図書室に戻った。
考え込んでいたら、冴那の『悪い人の密輸とか調べたりね・・・』や『警察関連だから・・・』を思い出し、警察署に向かった。
警察署に近付いた律愛は入れずにいた。見張りみたいに立っている男性がいたからだ。
「ねぇ・・・キミ・・・」
誰かが、律愛の肩を叩いた。
律愛は振り返るよりも先に、回し蹴りをして、背負い投げをした。
男は警察の制服を着てた。だけど、気絶をしていた。
「すみません・・・」
「い、いや・・・良いんだよ」
今いるのは待合室みたいな所だ。
気絶させてしまった人と一緒にいる。
律愛はまだ慣れて無く、男から距離をとっている。
「何の用だったのかな?」
「・・・さ、天宮冴那って知ってますか?」
「・・・・・知ってるよ」
「彼の場所を教えて下さい」
「ダメだ・・・」
「っ・・・そんな危険な場所に行ったんですか!?」
「・・・君はどこまで」
律愛が何でも知ってることに驚いてた。
「教えろ・・・例え警察でもブっ飛ばす」
「・・・君は天宮とどんな関係なんだ?」
「・・・」
答えれなかった。
友達というわけではない。恋人なんてものでもない。ただ、同じ学校の先輩後輩の中だ。
「ん?」
「片思い・・・それなら良いですか?」
「!?」
律愛の言葉に驚いた刑事。刑事は、律愛の言葉に笑いながらも、さも気に入った、という風に答えた。
「天宮がいるのは・・・・」
場所は変わって、冴那は、とある施設に潜り込んだ。
なぜ、来たかというと、この頃、銃の受け渡しが行われてたらしく、冴那が調べたら、ある場所に拠点があるみたいだ。
その拠点に潜り込んでいるのだ。
「あったパソコン・・・」
中は殺伐としてて、息苦しい。
パソコンに近付き、電源を入れ慣れたように打っていく。
リストが現れた。聞いたことがある犯罪組織ばかりだ。
それを、データをメモリに転送した。
それに、気を取られてたせいで気付かなかったんだ。
「何もんだ・・・テメー」
「!?」
背後に、いかにも悪者です、という男が立っていた。
冴那は男の目を撹乱し、逃げ出した。
男は舌打ちしながら追って来た。
冴那は走ったが、止まった。
理由は、行き止まりだったからだ。
「・・・」
(や、やばい)
「ここまでだな・・・」
男は棒を持っていた。
その棒で、冴那を何度も殴った。
「これで最後だ・・・」
「・・・っ」
(死んじゃうの?あれ?なんでリアの顔が浮かぶんだろう?)
死ぬかと思ったら、律愛の笑顔が脳裏を過ぎった。
(死にたくない!!リアと会いたい!!)
皮肉にも、意識を失ってしまった。
最後に聞いたのは、律愛の声だった。
「待ちなさい!!」
「誰だ!!」
突然聞こえてきた声に驚いた男。律愛は男がいることに嫌そうな顔をした。
「サエ!!」
「なんだコイツの知り合いか・・・ならお前も生かしてはおけない」
律愛はボロボロで倒れてる冴那に驚いて、男を睨み付ける。
男は棒を再び持ち替えて、律愛を襲いかかる。
律愛は男が近付くのにパニクって、ローファで男の顎を蹴った。
男は後退りしながらも、もう一度掛かって来た。
「来るなーー!!」
また狂ったように、ストレートパンチを食らわした。それが、丁度よく急所にあたり男は気絶した。
「ハァハァ・・・サエ・・・」
「・・・・・っん?リア」
「大丈夫?」
「ここは?」
「病院・・・すごい傷だったから」
冴那が目を覚ましたのは病室だった。
病院独特の匂いが鼻を苦しめる。
嫌そうにしてたが、仕方が無いという風に諦めた。
「あ、そうだ・・・」
「・・・刑事さんに渡したわ」
冴那は自分の服を見たが自分の服じゃないことに気付いた。
律愛は冴那が何をしようとしたか分かり答えた。冴那は、そう、とだけ答えた。
「・・・大丈夫?」
「ごめんね・・・迷惑かけて」
「ううん・・・心配したけどね」
「あ、男は?」
自分を狙った奴の話が気になったらしく聞いてきた冴那。
律愛は全て話した。男が逮捕されたことと、あの後、大勢の男(男の仲間)が現れ暴走して、組織を破壊したことを。
「そこまで・・・」
「だって・・・嫌だった・・・から」
「あのさ・・・」
「うん?」
「・・・死ぬんだって思った時、たった一人の女の子の顔が浮かんだんだ」
「・・・え」
冴那の衝撃発言に心が痛み、それが表情にまで現れた。
眉間の皺が寄って可愛い顔が台無しだ。
「彼女とはあんまり何日もいたわけじゃないのにね」
「・・・」
律愛の変化に気付かずに話し続ける冴那。
冴那は、頬を赤めながら楽しそうに話してる。
「・・・・だから?」
「リア?」
やっと律愛の声色が、いつもと違うことに気付いた。
律愛は、限界だったのかもしれない。
ズキズキと針を刺されてる感じで。
(私・・・今までこんなこと無かったのに・・・)
苦しそうに泣きそうに窓の外へ、目を逸らしてる。
「・・あの」
「いやだ!!」
「え・・・」
「・・・もう、いい・・・もう会いたくない」
「・・・・え」
「もう話しかけないで!!」
律愛はパンクしたみたいで、涙を流しながら叫んだあと、病室を出てった。
残された冴那は。
「え・・・なに・・・僕・・・なにした・・?」
わけが分からずボーッとしてたが、律愛の言葉を思い出し、次第に頬に温かく冷たいモノが触れた。
「・・・泣いてるの?僕・・・」
段々と涙の量は増えていき、時間が過ぎ、いつの間にかしゃくり上げてる。
誰も二人の涙を止める術を知らない。
学校に行っても、図書室に行かない冴那。いや、行けないのだ。また、律愛を傷付けるかもしれないから。
律愛は、図書室にいる。ただ、廃人のように何もしていない。
外は、律愛の心境を表すかのように土砂降りだった。
それから数分後に律愛は立ち上がった。
本を取った。
題名は『恋愛力学』
「恋愛はすれ違いが当たり前・・・我慢も大事だ・・・大人になれ・・・か・・・・無理だよ・・・・私は・・・・好きだもん」
「だ、誰が」
「!?」
時間を逆上り、冴那は教室でボーッとしてた。
「どーした?」
友人が話し掛けてきた。
彼は小学校からの幼馴染みで、相談できる唯一の人。
「もし、好きな人に・・・嫌いって言われたらどうする?」
「・・・どうもしねーよ」
(好きな人いたんだ)
「え?」
理由を聞かないでくれてるからホッとしてる冴那。
「取り敢えずは理由聞くよ・・・出来るなら改善するしな」
「改善・・・」
「それに・・・嫌いって言われても自分は好きなんだろ?」
「・・・・うん」
「それに、嫌いだなんて簡単には言えないと思う・・・・言う方も辛いからな」
「っ・・・ホント?」
泣きそうな幼馴染みに驚きを隠せないようだ。
苦しそうで現実を逸らしたくて・・・
「あ、ある人が言ってたんだけどな」
「???」
「初恋は種子らしいぜ」
「種子?」
「水は周りからの愛で、太陽はその人からの愛」
「なんで?」
「水はたくさんの人から貰えるけど太陽はたった一人からしか貰えないだろ?」
「・・・・たしかに?」
「初恋は叶わないって言うけど、やっぱり種からは、いきなり花にならないしな」
「双葉とか・・・」
「成長なんだってよ。だからゆっくりで良いんじゃねーか?いきなりだから失敗すんだよ」
「・・・・僕行って来る!!」
「行って来い!!」
友人の励ましにより、図書室に向かった冴那。
「――――私は・・・・好きだもん」
「だ、誰が?」
(嘘・・・好きな人?)
図書室では、聞きたくない言葉が聞こえた。
冴那は、重い扉を開けた。律愛が驚いて立っていた。
「さ、サエ・・・」
「好きな・・人って誰?」
「・・・あ・・・」
「教えてよ!!」
(諦めて応援するから・・・)
「・・・サエ」
「なに?」
「だからサエ・・・」
「だからなに?」
「・・・・」
「・・・?」
「サエが好きなの!!」
「!?」
思わなかった告白。
嘘っ、と顔を赤めて言った。
信じられなかった。
「サエには・・・好きな・・・」
「僕は・・・」
「え?」
同時に話したせいで無言になる二人。
決心を決めた冴那は、律愛を見つめて言った。
「僕は、米倉律愛が大好きです!!」
「!!」
「好きです。付合って下さい」
「うそ・・・」
「本当です・・・」
「私で、いいの?」
「リアが好きです」
歓喜あまって律愛は冴那に抱き付いた。
冴那は、うわっ、と言いながらも優しく抱き締め返した。
自分より高い身長の彼女だったが。
「「・・・愛してる」」
そっと二人は、重なった。
そんな二人を見守ったのは、太陽と屋根から零れた雨水。
感想いただけると嬉しいです。恋愛って難しいか簡単か人それぞれですね。