VS根藤
クラスの番、根藤に勝負を挑まれたンガガゴだったが……。
練馬大根チャンバラ。
練馬大根は知っている。
練馬発祥の大根で、練馬区民のソウルフードだ。
チャンバラの意味も分かる。
だが練馬大根とチャンバラを掛け合わせた単語。
それには全く聞き覚えがなかった。
「練馬大根チャンバラとはなんだ?」
「オイオイ! 練馬区民の癖にそんなことも知らないのかァ?」
俺の問いかけに対し、根藤は大袈裟に嘲笑った。
「練馬大根チャンバラは練馬魂を懸けた聖戦だよ!」
ルールは至って単純。
選手はお互い練馬大根を一本ずつ手に持ち、
試合が始まったら相手の大根を食う!
大根以外の凶器使用を除けば反則はほぼ無し。
己の身体能力と練馬大根を愛する気持ちを量る
究極の対戦競技だ。
「ンガガゴさん、やめた方がいいよ」
不安そうな顔つきで俺を諭すマリネ。
だが男には、いや練馬区民には退けぬ時がある。
「根藤君はA級練馬区民なんだよ……?」
「大丈夫だ。俺は絶対に負けない!」
こうして練馬大根チャンバラの火蓋は切って落とされた。
「逃げずに立ち向かうその心意気は認めてやるよ」
練馬大根で手をペチペチ叩きながら言う根藤。
奴の大根は見たところかなり細長い。
折れやすいがリーチとスピードを追及した、
超攻撃型の大根だ。
対して俺の練馬大根は……
たくあんだった。一口で食べられてしまう。
「たくあんで俺に勝とうなんて甘すぎるッ!
砂糖醤油で煮込んだ大根おろしより甘いぜッ!」
試合開始と同時に斬り込んでくる根藤。
なるほど、先手必勝という訳か。
俺は迫りくる大根の先端を避けると、そのままそれをかじった。
大根の辛味が鼻をつーんと刺激する。
そして気付く。
奴の大根は超攻撃型だと思っていたが、本質は真逆。
細長い大根は決して一口では食べきれない。
何度もかじれば辛さでこちらの体力が消耗させられる。
奴の大根は持久戦特化だったのだ。
だが、想定内!
「なっ……!?」
俺が取った行動に根藤は絶句する。
「自分のたくあんを……食っただと!?」
そう、俺はたくあんの甘みで辛さを中和したのだ。
さらにポリポリとした食感は集中力の強化にも繋がる。
俺は動揺した根藤の隙を見逃さなかった。
「しまっ……!」
たくあんをブーメランのように回転させて投げ、
根藤の大根を叩き落とす。
そして俺はそれを全て食らった。
「勝者、ンガガゴ!!」
クラスメイトの一人が勝敗を告げる。
こうして俺は練馬大根チャンバラに勝利したのだった。
「へっ、お前強いな。俺の完敗だよ」
てっきり文句でも言うのかと思いきや、
意外にも根藤は素直に負けを認めた。
不良のような見た目ではあるが奴もまた練馬区民ということか。
俺と根藤はお互いに手を取り互いの健闘を称えた。
「凄いよンガガゴさん! 根藤君に勝つなんて!」
満面の笑みを浮かべたマリネが駆け寄ってくる。
「ンガガゴさんには練馬区民の才能があるね!」
そう言うとマリネは眼鏡を外し、笑みを消した。
そしてハンカチで眼鏡のレンズを拭きながら、こちらには目もくれず口を開く。
「ならば次は私が相手をしよう」
その顔は、能面のように無に染まっていた。
次回、VSマリネ