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80話 黒粒

 ______登場人物______


【佐藤 (Lv.11)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。

【トアタラ (Lv.12)】呪いによって人間に変えられてしまった少女。

【リリサ (Lv.41)】ロリっこフェイスの歌女(うため)。呪いによって体を男に変えられた。

【カスミ (Lv.4)】佐藤の仲間に加わった尼僧(サドゥヴィ)。外見が亜澄と酷似。

【エルリウス (Lv.44)】旅する貧乏貴族。武闘大会で佐藤に敗れている。

【セシエ (Lv.14)】職業は下級官人。地理書の編纂のため諸外国を歩きまわる。

【ガイガーシュトッフ (Lv.33)】暗殺師。セシエの用心棒。ガイと呼ばれている。

【シュラー (Lv.28)】魔法使い。セシエの用心棒。ガイの妹。



 紫色の袋からでてきた黒い粒を手のひらに乗せ、ガイに差しだした。


「ガイはトジェに詳しかったですよね? もしかしてこれって」


 彼は1粒だけ指で摘まんだ。角度を変えながら観察している。そしておれの手のひらに戻し、目尻をさげて首肯した。


「間違いない。これは佐藤たちが求めていたトジェの種子だ」


 やはりそうだったか。

 これはおれたちのために、わざわざ彼らが……。


 手のひらの黒粒を、シュラーがのぞく。


「よかったじゃない。手に入って。だけどどこにあったの?」

「ゾルネがくれたものです。この袋に入ってました」


 紫色の袋をシュラーに見せた。


「ああ、そういえば、そんなのをもらってたんだっけ」



 バタン、と勢いよくドアが開いた。

 隣の部屋からリリサがやってきたのだ。その後ろにトアタラとカスミもいる。


「ねえ、みんな。ポヌーカに戻らない?」


 セシエは呆れたように溜息をついた。


「おいおい、どの面さげて戻るっていうんだ。我々が火の神を倒してしまったことは、あそこの民衆に感づかれているかもしれないんだぞ」

「それは承知のうえよ。だってこのまま頭をさげなくていいの? わたしはイヤだな、そういうのって」


 そんなリリサに、シュラーも同意する。


「わたしも彼らへの謝罪に戻るべきかと思います、マスター」

「シュラーまで何をいうか。いくら町の人々に謝罪したって、火の神が生きかえるわけじゃないんだ。それに彼らはこっちの面など、二度と見たくないだろう」


 するとリリサが両手を大きく広げる。


「あら、火の神が死んだと思ってたの? 死ぬわけないじゃない。あれでも神様よ? ただ瀕死となっただけに決まってるでしょ。だからわたしたちにはできることがある」


「できること?」


「うん、そう。覚えてるかなあ。眠っていた火の神が目を覚ましたのって、魔法の『火柱』を受けたときだったよね。それって、火をエネルギーにしてたってことじゃないの? だって火の神だもの」


 リリサのいいたいことはわかった。

 また激しい炎をくれてやれば瀕死状態から回復するってことだろう。


 推測どおりリリサはそんなことを話した。さらに続けていう。


「それでね、神様へのお詫びということで、特大の火魔法をくれてやろうと思うの。ほら、今朝みんなでステータスを確認してきたでしょ。そのときフレアっていう新魔法があるのを見つけたんだ。名前からして火に関係してそうだし、しかもすっごく強力そう。ぶっちゃけ、試してみるのにもいい機会かなって。でもセシエたちがこないのなら、わたしたちだけでいってくるけど。佐藤もいいわよね?」


 突然、話をふってきた。おれだっていくのは賛成だ。

 ここはリリサの意図をくみとり、セシエに一瞥をくれてから首肯した。


「聞くまでもねえよ。人間として当たり前のことはしなくちゃな。おれたちだけでいこうぜ」


 ガイとシュラーはセシエをじっと見据えた。

 セシエが唇をかみしめる。そして頭を掻き、溜息をついた。


「わかった、わかった。ポヌーカに戻ろう」

「「それでこそ我がマスター!」」


 ガイとシュラーの声がハモる。

 こうして7人全員でポヌーカへいくことになった。


 夜を待たずに宿をチェックアウトした。



 7人で大きな川の前に立つ。しかしちょっといまは、リリサの得意魔法『氷柱』を使うわけにいかない。夕刻の河原を散歩している人たちを、ビックリさせてしまうからだ。


 したがって今回も小舟をチャーターすることになった。

 料金がめちゃくちゃ高額なのは当然のことだ。ポヌーカへの往来が貴族にバレたら、舟の漕ぎ手は重罪となる。だから漕ぎ手はリスクに見合う報酬をもらわなくてはならないのだ。


 先日よりもやや大きな舟だったので、7人全員乗ることができた。

 ポヌーカが徐々に近づいてくる。


 もともと祭りの日程はあさってのはずだった。もしそれまでに火の神が回復すれば、祭りの主催者の粋な計らいで、巨大な『花』のショーが夜空に見られるのではなかろうか。それはポヌーカの町民だけではなく、近郊の町に住む人々も期待していることだろう。


 ……などと、都合のいい話を妄想してしまう自分が(いや)になる。


 仮に祭りが再開されたって、少なくともおれたちには見る資格なんてない。町の人々に詫び、火の神を復活させたら、早々にひきあげるつもりだ。



 一応、トジェの実の種子はゾルネのおかげで手に入った。

 これでシン先生に『魔界に通ずる扉の鍵』を作ってもらえる。

 ポヌーカから帰ってきたら、セシエたちとはすぐにお別れだ。


 カスミがぽつりと呟く。


「丸太小屋の窓が大きかった理由、いまさらだけどわかった」

「そういえばあの窓ってずいぶん大きかったな……。ああ、おれにもわかった」


 大きな窓には格子すらなかった。しかもそんな造りの家屋は丸太小屋に限らず、あの町のいたるところで見かけた覚えがある。


 そう。これは町の治安がとてもいい証拠なのだ。おそらく町民の人柄に関係しているのだろう。


 対岸が鮮明に見えてきた。

 遠い水面が夕暮れの余光を映し、うっすらと(はかな)げに輝いていた。



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