表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/101

75話 町の祭り


 シュトラーフィル公アムウ・セーゼランの手記に書かれていた火の神を倒し、丸太小屋に戻ってきた。

 これでもう人身御供として、火の神に捧げられることはない。おれたちが町の人々の陰謀をうち砕いたのだ。



 リリサの座るベッドを、仲間たちで囲んでいる。

 エルリウスはいかにもイケメンらしく、爽やかな笑みをリリサに送った。


「キミの魔法攻撃には舌を巻いたよ。新魔法は『氷柱』それから『氷剣』といってたね。使える魔法の種類がもともと豊富だったとは聞いていた。さらにあれほど破壊力のある魔法まで扱えるようになったなんて、もはや怖いものナシってところじゃないかな」


 リリサはみんなから褒めそやされ、さすがにもうウンザリしているだろう。

 それでも律義に、笑顔はきちんと返している。


「ありがとう。でも、まだまだよ。あれくらいじゃ、まだ足りないの」


 今度はシュラーがリリサの対面に腰をかけた。ちなみにそこはおれのベッドだ。


「まだ足りないって? いったいどこまで貪欲なの。あれよりすごい魔法なんて、ボボブマのネオ・インドラくらいしか知らないわ」


 リリサは肩をすくめてから、小さく(かぶり)をふった。


「もっとすごい魔法ならまだあるでしょ。魔王の持つインドラの雷とか」

「だってあれは別格よ。いまは普通の人間の話をしてるんだから」

「別格かぁ……」


 笑顔を保ったまま、座っていたベッドから立ちあがる。そして大きな窓へと歩いていった。日の暮れてきた外の景色を眺める。うわべの笑顔は消えていた。悔しそうに唇を噛みしめているのが、ちらりと見えた。


 別格――。何にも知らないシュラーに悪気はないが、本気で魔王を倒そうとしているリリサにとって、屈辱的な言葉だったに違いない。

 それでもリリサはふたたび笑顔を作り、屋内に小さな体を向けた。現実的な話として、魔王の力にまったく及んでいないことは、たぶん他人にいわれずともじゅうぶん理解しているのだ。


 おれは大きな窓の前にリリサと並んで立った。片手をリリサの頭に置き、くるりと捻ってまた屋外に向かせた。無理したような笑顔を見ていると、こっちが疲れてくるからだ。


 特に会話はしなかった。たまに口を開くこともあったが、それは誰かがリリサに声をかけてきたときに、話を逸らすためだった。



 ぼんやり中庭を眺めていると、人影が見えた。

 何者かがやってくる。


 誰だろう? じっと目を凝らした。


 ああ、あれは兵士長の息子ではないか。自称ガイドのレヘルも一緒だ。そういえば兵士長の息子は、夕方に祭りの誘いにくるといってたっけ。


 おれは2人がきたことを、屋内の仲間たちに知らせた。

 皆、丸太小屋からぞろぞろと外にでていく。そして最後はセシエだ。彼は丸太小屋の戸を閉め、兵士長の息子と向きあった。


「今夜分の宿泊料をまだ払っていませんでしたな。さあ、受けとってください」

「これはこれは、ありがとうございます」


 兵士長の息子は代金を受けとり、懐に仕舞った。

 そして胡散臭い笑みを浮かべながら、両手を左右に大きく広げる。


「そろそろ祭りが始まります。さあ、一緒にいきましょう。みなさんを驚かせる準備ができています」


 ほーら、きたぞ。


 57年前シュトラーフィル公アムウ・セーゼランの友人は、伝統儀式の見物に誘われ、地元民にノコノコついていった。その結果、生贄として火の神に捧げられてしまった。


 まったくふざけた蛮風だ! いまなお地元民は、おれたちが何も知らないと思いこんでいるだろう。しかし皆、57年前の手記を読み、この町の事実を知った。だから手は打った。おれたちの手で、事前に火の神を始末してきたのだ。奴に食われる心配はもうない。


 セシエはいたずらっ子のようにニヤリとした。


「せっかくのお誘いだ。いってみようではないか」


 するとシュラーが彼をじろりと睨む。わざわざ誘いに乗るような行為が、悪質なジョークに思えたのか? まあ、実際、そのとおりだろう。どうせ、冷やかしにいきたいのだ。


 セシエはそんな彼女のことは気にせず、エルリウスの肩を叩くのだった。


「いくだろ?」

「そうですね。いってみましょう」


 おい、エルリウスもかよ。


「佐藤たちもどうかな」


 正直なところ気が引けた。だから断るつもりだった。

 しかしトアタラが目を輝かせる。


「お祭り、見てみたいです」


 彼女の場合、ただ純粋に祭りを楽しみたいだけなのだろう。

 リリサもカスミも、それならばと首肯する。だったら、おれだって。

 話は決まった。


 当然ながらセシエが祭りにいくとなると、用心棒の立場からガイもシュラーもいかざるを得ない。こうして結局、全員が祭りの誘いについていくことになった。


 その前に支度をしようと、いったん丸太小屋の中に戻った。


 念のため『魔人のウルミ』を持っていくことにした。エルリウスも愛用の『断鋼の魔剣』を腰にさげている。トアタラはリリサに促され、進化した『仔龍の短剣』を手にとった。(ちなみにその剣が名称変更され、『黄龍の聖剣』となったことは後日知った)



 兵士長の息子とレヘルに町を案内されながら、祭りの会場へと歩いていく。

 笛の音が微かに聞こえてきた。遠くに白煙がいくつもあがっている。



 レヘルが祭りについて語った。


「祭りは山の麓で行なわれます。山に眠る火の神が祀られていまして、年に4度、目を覚ますのです。獰猛で恐ろしい白獣の神ですが、この土地に恵みをもたらしてくれるのだと、人々に信じられています。そして町の守り神として、また町の象徴として畏敬されています。みなさんは善良な旅人ですから問題ないでしょうが、もしも悪だくみで訪問されているのでしたら、早急に逃げた方がいいでしょう。激怒した火の神に食われてしまいますからね。ハハハ」


 悪だくみ? どっちのセリフだよ。


「勇ましそうな神様ですな。ハハハ」とセシエが豪快に笑う。


 山の麓までやってきた。大勢の地元民で賑わっている。

 そういえばこの辺って、地元民に"通せんぼ"を喰らったところのちょっと先だ。

 通行禁止は祭りのためだったのか?

 だとすれば、やはりこの祭りに秘密が隠されていたってことだ。


 随所で火が焚かれている。

 薪はどこも井形に組まれていた。まるでキャンプファイヤーだ。


 兵士長の息子はおれたち8人を、丸太の簡易ベンチに座らせた。

 彼はレヘルから布を渡されると、その手を高くあげてみせた。


「この布で、みなさんを目隠しさせてもらいます」

「何っ、目隠しだと!」


 ガイが声を荒らげた。


「はい。サプライズを用意していますので」


 殺気を漂わせるガイの隣で、セシエは冷静に首を横にふって見せた。

 ……なあに、火の神は倒している。心配無用だ……

 などと目でいっているのが、おれにも伝わってきた。


 ガイは少し間を置いてから、しぶしぶ首肯した。

 おれたち8人はベンチに座った状態で、背後から1人ずつ目隠しをされていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ