表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/101

71話 魔法使い

 魔法陣に着地したシュラーは、山の斜面に横穴があったことを報告してくれた。

 そこが『火の神』の棲み()である可能性は高い。


 だが横穴までの道なんてない。

 急な斜面に手をかけながら、ゆっくりとのぼっていくしかなさそうだ。


 中年のセシエには少々きついのか、早くもぜえぜえと息を切らしている。

 意外なことにカスミは平気な顔で、斜面をスルスルとのぼっていった。身は軽いようだ。


 少し離れたところをのぼっているのはシュラーだ。

 ゆっくりと進んでいるが、斜面にほとんど手をかけていない。

 魔法だけではなく運動神経もよさそうだ。


 彼女に声をかけようとしたところで、シャツの裾を誰かにひっぱられた。

 ふり返ると、リリサがいた。


「ねえ、佐藤。横穴まで競争しない?」

「競争か。いいぜ、面白そうじゃん」


 リリサとの競争が始まった。

 負けてなるものかと全力でのぼっていく。

 しかしリリサもなかなか速い。リスのようにちょこちょことのぼっている。


 リードしているのは、おれだ。このままいけば勝てる。


 リリサ以外の者とは別に勝負していないが、ガイを抜き、エルリウスも抜いた。

 さらにカスミを抜いてトップになった。


 下方から強風が吹きあがってくる。なんだろうと後方を見おろした。

 リリサが斜面から手を離し、左右に大きく広げている。風の力を利用しているわけか。そういえばリリサの魔法に『暴風』なんてものがあったな。

 くそっ、風をあんなピンポイントで操れるとは。


「汚いぞ、リリサ。魔法なんて」

「魔法使っちゃいけないってルールはなかったでしょ」


 とうとうリリサに追いぬかれた。しかしその途端、下からの強風は安定感を失いはじめ、小さな体がみるみるうちに減速していく。そんなリリサのシャツの背を掴み、ひっぱった。

 ふたたびおれが前にでる。


「ずるい、ひっぱるなんて!」

「ひっぱっちゃいけないルールもなかっただろ」


 勝ったのはおれだった。

 リリサの頬が、ぷぅーっと膨れている。


「さてと、敗者の罰ゲームは何にしよっか」


 おれはにんまりと笑った。


「罰ゲームするなんて取決めはしてなかったじゃない」

「勝負なんだから罰ゲームはあって当然だ。よし、決めた。次の満月の夜、おれと一緒に踊るんだ」


 リリサはおれの足を踏みつけ、べーっと舌をだした。



 さて、全員が横穴の前までたどりついた。

 穴はずいぶんと大きかった。しかもかなり奥まで続いていそうな洞窟だ。


 リリサが真っ暗な横穴の前に立つ。

 なにやらとても張りきっているが……。


「さーて、ここはわたしの出番のようね」


 4本の指で作った菱形から、得意魔法の炎球を放出した。

 ふわふわ浮きながら、洞窟を照らしている。


「さあ、明るくなったわ。いきましょ」


 リリサは何を勝ち誇っているのだ?

 どうだといわんばかりの顔を、こっちに向けられても困る。


「あー、すごいすごい」


 これでいいのか?

 とりあえずそれでよかったようだ。リリサがうなづいている。


「そんじゃ、いこうぜ」


 おれはリリサと並んで立ち、洞窟に踏みこもうとしていた。


「待って」


 止めたのはシュラーだ。


「確かに明るくはなったけど、洞窟で使用するには熱がこもりすぎるわ。それに炎の光はゆらゆらしていて不安定。ここはわたしに任せてくれないかしら」


 リリサは炎球を消した。代わってシュラーが洞窟に1歩踏みこむ。呪文を詠唱すると、洞窟の壁や天井や足もとなどが発光した。光は眩しすぎず、暗すぎず、程よい感じだ。

 これがプロの魔法使いの技か。


 8人で洞窟に入っていく。シュラーの魔法の光のおかげで、前後30m以内ならばバッチリ見渡すことができる。それでも一応、慎重に進んでいった。


 先頭をゆくのはガイとシュラーの兄妹だ。続いてカスミ。その後ろにはエルリウスとセシエ。おれは隣を歩くトアタラに「ちょっと先にいっててくれ」と頼み、最後尾のリリサと並んだ。

 シュラーとはだいぶ離れてしまっているので、地面や壁の光はほとんど失われていた。


「どうした、リリサ」

「駄目ね、わたしって」


 思ったとおり、落ちこんでいるようだ。


「何いってる。駄目なものか」


「ううん、駄目。自分が嫌になるくらい駄目駄目。シュラーはすごかった。あれが本物の魔法使いなのね。葉っぱの人形で火の神の棲み()を探したり、魔法陣の上で高いところまで浮いたり、洞窟内をいい具合に発光させたり。わたしの魔法なんて全然及ばない。わたし程度で魔王と闘おうと考えてるなんて、本当に馬鹿みたいよね」


 リリサは溜息をついた。

 おれはもう1度くり返す。


「駄目なものか」

「佐藤はなんの根拠があっていってるのよっ」


 リリサが目を()いた。

 ならばおれもいってやる。


「根拠なんかねえよ。だけどリリサは駄目じゃない。本当だ。仲間(おれ)を信じてみろ。てか、どうした? リリサらしくないぞ。リリサに潜在する魔法はまだまだこんなもんじゃないだろ。なのに、魔法使いごときに魔法で負けるんじゃねえよ。悄気るより先に悔しがれ。悔しがって強くなれ」


 最後に人差し指でリリサの頬を、ぐりぐりと捻じりながら突いた。

 そしてトアタラの隣に戻った。


「声が聞こえていましたが、励ましてきたのですね。わたしも一緒にいこうと思いましたが、佐藤に任せることにしました。それでリリサはどんな感じですか」

「まだ元気はない。結局、おれは気の利いたことなんていえなかった。むしろ余計に……」


 ここでトアタラは「いいえ」とはっきりいった。


「余計に悪化なんてことはありません。実はわたし、あんまり心配していません。だってリリサを信じていますので。佐藤が魔王を倒したいと願っているかぎり、リリサはすぐに立ちなおると思います。そして自分の魔力を高めていくと思います。それは佐藤の役に立とうとしているからです。逆にリリサが魔王を倒したいと願っているかぎりは、佐藤も自分を強化していくのだと思います。リリサに必要とされているからです。2人とも互いのために諦めたりしません。わたしもそうですよ。だってみんな深い深い絆で繋がっているのですから」


 ありがとう、トアタラ。


 突然、洞窟内の光が消えた。

 真っ暗で何も見えなくなった。


 シュラーの魔法がその効力を失ったということは、もしかして彼女に何かあったのか? 悲鳴は聞こえなかったが……。


「佐藤はそこを動かないでください。すぐに戻ってきます」

「トアタラ、どこへいくんだ? 見えるのか」

「佐藤はわたしの特技を知っているはずです」

「ああ、暗視っていうのがあったんだっけ」

「はい」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ