表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/101

61話 大河

 ______登場人物(8人パーティ)______


【佐藤 (Lv.6)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。

【トアタラ (Lv.7)】呪いによって人間に変えられてしまった少女。

【リリサ (Lv.30)】ロリっこフェイスの歌女(うため)。呪いによって体を男に変えられた。

【カスミ (Lv.1)】佐藤の仲間に加わった尼僧(サドゥヴィ)。外見が亜澄と酷似。


【エルリウス (Lv.38)】旅する貧乏貴族。武闘大会で佐藤に敗れている。


【セシエ (Lv.12)】職業は官人。地理書の編纂のため諸外国を歩きまわる。

【ガイガーシュトッフ (Lv.27)】暗殺師。セシエの用心棒。武闘大会は初戦敗退。

【シュラー (Lv.23)】魔法使い。セシエの用心棒。ガイガーシュトッフの妹。




 おれたちは8人でパーティを組み、ポヌーカの町に向かっている。

 国境を越えてからもう3日目となる。そろそろ目的地に到着してもいい頃だ。


 この国に入ってから各地で、ポヌーカの悪い評判ばかりを耳にしている。ところが具体的な話を聞こうとすると、不思議なことに誰もが口を噤んでしまうのだ。

 いったいどういうことだ。その町にいったい何があるというのだ。とにかく不気味でならない。


 もし1人旅だったら不安はさぞかし大きかったことだろう。しかしこれほどの大人数だ。ポヌーカがどんな町だろうと、きっとなんとかなるに決まっている。

 とはいってももちろん油断は禁物だ。気を緩めてはならない。予測もつかないような手段で、何者かが襲ってくるかもしれないのだ。



 町外れで乗合馬車からおろされた。

 馬車の御者によれば、街道に沿って大きな川が流れているが、ポヌーカはその対岸の町なのだという。


 馬車は車輪をきしらせながら去っていった。残されたおれたちは、ただぽかんとするだけだった。川の水面はゆらゆらと陽の輝きを映している。

 橋はない。泳げってか? 対岸まで結構な距離があるし、荷物も持っているし、まず無理だ。


 川に2(そう)のボートが物憂げに浮かんでいる。

 おれたちは手をふった。すると1艘のボートがこっちにやってきた。


 しかし対岸のポヌーカへいきたいというと、首を横にふられてしまった。あの町には関わりたくないのだという。まったくどうしてこの国の人々は、みなポヌーカを嫌うのだろう。こうなったらカネを積むしかない。おれたちの代表として交渉を始めたのはセシエだ。


 50マニーの提示から始まり、60、70、80とあがっていくが、相手は首肯する素振りも見せてこない。提示金額は200、300と続いていった。

 金額があがるたびにリリサとエルリウスの顔が青くなっていく。


 結局、1人当たり480マニーで交渉成立した。どう考えても高すぎる。だがポヌーカへいく方法はそれしかない。

 1艘のボートで8人全員を乗せることはできないので、2回に分けて運んでもらうことになった。

 ここでリリサが前にでてくる。


「ねえ、佐藤、トアタラ、カスミ。ここはわたしに任せて!」

「何を任せりゃいいんだ」


 リリサが呆れたような顔をする。


「決まってるじゃない。ジャンケンよ。どっちの組が先にボートに乗るのか。こっちはわたしが代表ででるから」


 いまになって初めて知った。この異世界にもジャンケンはあったんだな。

 何やらリリサは勝負に自信アリげだ。ここはリリサに任せることにした。まあ、がんばってくれ。おれはボートの順番などに興味なんてない。



 きょうもいい天気だ。おれは木陰に入った。

 川に小石を投げると、水面をぴょんぴょんと跳ねていった。

 トアタラが草地に歩いていく。


「見つけました。カラスノエンドウです」


 種をとり、豆柄を口に運ぶ。


「やめて。それ、うるさいから」


 カスミに睨まれると、トアタラは豆柄の笛をしぶしぶ手放した。



 ボートの先発組はセシエ、ガイ、シュラー、エルリウスの4人となったようだ。

 対岸の町ポヌーカに向かってボートがでていく。


 リリサがセシエにジャンケンで負けて帰ってきた。カードゲームだけではなく、ジャンケンも弱かったようだ。

 悔しそうに頬をぷうっと膨らませている。たかがボートの順番くらいで。

 そんなリリサの頬を人差し指で突っついてやった。


「あれれ? ジャンケンで負けてきたのに、ゴメンの一言もないのかなぁ」


 いてっ。人差し指を噛みつかれた。


「ふぉめん」


 噛みつきながらゴメンと謝らないでくれ。

 指にはしっかり歯形が残っていた。



 向こう岸からボートが戻ってきた。いよいよ後発組が出発する番だ。おれたち4人が乗りこむ。

 漕ぎ手がオールで岸を押すと、ボートは動きだした。


 ボートの進み具合はじれったいほど遅い。手漕ぎだから仕方のないことだが、もしヨットのような帆船だったらどうだろう? リリサの起こす魔法の風で、すぐに到着できたはずだ。


 おじさんがせっせとオールを漕ぐ。

 トアタラとリリサは楽しそうに、水面に手をつっこんでいる。


「はやーい」

「うん、速いわね」


 いーや、ぜんぜん速くないって。

 トアタラが笑顔を向けると、漕ぎ手のおじさんは上機嫌になった。


「どうだい、はえーだろ」


 これのどこが速いのか理解に苦しむ。きっとカスミだって同意見だと思い、その顔をうかがってみると、気持ちよさそうに居眠りしていた。


 まあ、この程度でいちいちイライラしていては、旅などやっていられないのだろうな。おれも旅人らしく、ゆっくりとしたボートの旅を楽しんでみるか。


 漕ぎ手のおじさんが舟歌を口ずさむ。

 ピチャッと魚が跳ねた。遠くでは水鳥が飛びたった。


「わたし、舟に乗るのは初めてなんです。ひたすら馬車で遠回りしてポヌーカの町に向かうのではなくて、こうしてボートに乗っていけることに感激しています」


 トアタラが胸もとで両手を組む。

 漕ぎ手のおじさんは笑った。


「ポヌーカっていう町は、馬車で遠回りしたって辿りつけやしねえよ。そこはな、川の中のでっかい島なんだ。ボートがなけりゃいくのは無理ってものだ」


 彼の話によると、ポヌーカは2つの大河およびその合流地点、それと両流を結ぶ大運河に囲まれた広大な中州の町らしい。



 対岸の先発組が見えた。トアタラとリリサが手をふると、彼らも手をふって返した。そこへ地元民が静かに集まってきた。しかし無邪気な好奇心によるものではなさそうだ。少なくとも彼らに笑顔はない。警戒しているのか。


 おれたちのボートは岸に到着した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ