5話 山賊襲来
______登場人物のおさらい(まとめ)______
【佐藤 (Lv.1)】異世界転生した主人公。特技『インド』を具有しているが、いまのところは未使用。はたしてその実力は……?
【トアタラ (Lv.1)】異世界に住む美少女。幸薄そう。
【バクウ (Lv.79)】村の外れに住む大男。魔法も特技も使えるスーパー戦士。
【ヤモック (Lv.14)】この異世界のルールを佐藤に教えた村人。農夫。胡散臭い。
【パチャン (Lv.?)】ヤモックの義兄。画家。ただし裸婦画専門。
おれとトアタラはバクウの小屋で、昼飯を食わしてもらうことになった。もちろん事前に無料であることは確認した。だから安心して食べられる。
この世界にも昼飯の習慣があるのはいい。この世界がぜんぜん現代っぽくないものだから、昔のように1日2食の習慣なのではないかと危惧していたのだ。といっても、ちゃんとカネがあればの話になるだろう。
でてきた料理はバッタ炒めだ。祖父の家でイナゴの佃煮を食したことのあるおれとしては、まったく問題ない。トアタラも抵抗なさそうだ。彼女に尋ねてみる。
「トアタラ。バッタ美味しいか?」
「ええ、とても。幼い頃からずっとバッタは好物でした」
無邪気な笑顔で咀嚼している。見ているこっちも幸せになってくる。
バクウがバッタについていう。
「都会の連中はバッタを食わないが、この村じゃ牛馬並みに食われているんだ」
しばらくして何かが聞こえてきた。
ヒューっという笛のように高く響く音だ。
はるか遠方からのようだが……。祭りか?
尋ねてみよう。
「これってなんの音ですかねえ」
何やらバクウの顔が険しい。
まさか悪い知らせの合図なのか。
「山賊の襲来だ。万一の時にはこの音を鳴らすことになっていたんだ。山賊には近隣の村々がたびたび被害にあっていると聞いているが、とうとうこの村にもやってきやがったか……。お前らは小屋で待ってろ。この森は村の外れだから安全だ。奴らには見つかるまい」
この世界には山賊なんてものがまだいたのか。いやいや、もとの世界にだって山賊や海賊のいる国々はあるんだった。
バクウは小屋をとびだした。心配そうなトアタラの顔。だけどおれはバクウを信頼している。なーに、山賊なんかすぐに片づけて帰ってくるさ。なぜなら彼は憧れのスーパー戦士なのだ。
「それにしても、この村にやってきた山賊は災難だよな。レベル79で攻撃力1823のバクウさんがいるなんて、これっぽっちも思っていねえだろうさ。安心して待ってようぜ」
するとトアタラが妙なことをいう。
「いいえ、バクウは山賊に勝てません」
「おいおい、そんなわけないだろ。ステータスがとんでもなく高いんだぞ」
「それでも勝てません」
「何を根拠にいってるんだ? あのバクウさんが勝てないって!」
強い口調でいうと、彼女は口を噤み、うつむいてしまった。
「非難してるわけじゃないんだ。ごめん」
彼女が立ちあがる。
「どうした、トアタラ?」
「これからバクウを助けにいってきます」
「無茶だ。おれたちの攻撃力や防御力なんて、村人20歳の平均未満なんだぞ」
「バクウは恩人です」
だからって、女の子がいって何になるっていうんだ。手助けなんてできるはずがない。無駄に決まってる!
トアタラの顔を見て溜息をついた。
「しょうがねえ。んじゃ、おれもいく」
彼女が驚愕の眼差しを向ける。
「本当に少年は優しい人なのですね」
少年という呼び方はバクウの真似だろう。
「トアタラ。おれのことは佐藤って呼んでくれないか」
「わかりました、佐藤」
おれとトアタラはキッチンにあった包丁を借りることにした。丸腰よりはマシだろう。こうして森から村へと向かった。しかし山賊と闘うすべを知らない。なんの策略もない。無謀だということは自覚している。どうしてこんな行動にでたのか、自分でも不思議だった。もしかすると彼女が自分よりも不幸に見えたから、彼女に手を貸したくなったかもしれない。
森を抜け、村に入る。
村の中央広場付近で集団二つの睨みあいがあった。そこから罵倒や挑発の声も聞こえてくる。やれ『財産よこせ』だとか、やれ『くれてやるものはねえ』だとか。みな血気盛んだ。とりあえず言葉の内容で、敵味方の区別がついた。おそろいの軽鎧を着ている集団が山賊側で、ラフな格好の集団が村人側なのは間違いない。村人は尻込みもせず勇敢だ。その中にヤモックとパチャンの姿も見つかった。そういえばヤモックは防村の臨時兵士だとかいってたっけ。
ちょうど真ん中では、ひときわ目立った容貌魁偉の男が対峙している。片方がバクウだ。もう片方は山賊の長だろうか。そんな感じだ。そうに違いない。両者1歩もひく気はなさそうだ。この2人のどちらかがコブシを振るったら、たちまち小さな戦争の開始となることだろう。
おれはバクウが勝つことを疑わなかった。なんたってレベル79なのだ。攻撃力にいたっては丸腰の状態で1823。そのうえいま彼は半月刀を握っているので、もしかして攻撃力は2000を越えているのではなかろうか。
「うおおおおおおお」
先に動いたのは山賊の大男だ。バクウに対峙する彼が、叫びながら棍棒をふりあげる。彼の棍棒がバクウを襲った。だいたい弱い方から動くというのは定番だ。ますますバクウの勝利を確信した。気になるのは村人たちだ。バクウ1人がいくらがんばったところで、ほかが全滅したらお仕舞いなのだ。
バクウは身をかわすことなく、腕で棍棒を受けた。2度目、3度目も腕で受ける。一方、ほかの村人たちと山賊たちの闘いも始まった。村人たちは結構がんばっている。
でもバクウのようすが変だ。何故か防戦一方になっている。それほど余裕があるということなのか。しかし表情は苦しそうだ。どうしてバクウは攻撃にでない?
トアタラが小声でいう。
「闘いが始まったときから、バクウの負けは確定していました。初めから勝負はついていたのです。村は山賊にすべてを奪われるでしょう」
おれは首をかしげた。
「どういうことだ。理解できねえよ。詳しく説明してくれないか」
トアタラがゆっくりとうなずく。
「バクウの役割は威嚇のみです。村を守るための虚勢であり、見せかけであり、ハッタリなのです」
「でもレベル79だぞ」
「佐藤はバクウのステータスを見ましたか。彼は呪われているのです」
確かにそんなことが、ステータスの『その他の項目』に記載されていたっけ。
でもそれと呪いはどう関係するのだろう。
トアタラは話を続けた。
「呪いによって、闘うことができないのです」
戦士なのに闘うことができないって……。それが呪いなのか。
そのときだ――。
「誰だ、そんな隅っこにいるのは!」
山賊の1人がおれとトアタラを指差している。
くそっ、見つかってしまったか。
彼の剣がきらりと光った。おれはトアタラの手をひいた。
「トアタラ、走るぞ」
特技『インド』の発動までもう少しです。